幸せのパンダのぬいぐるみ

千求 麻也

幸せのパンダのぬいぐるみ

 パンダのぬいぐるみは、パンチェッタじいさんによって手作りされました。じいさんは長年に渡って手仕事でぬいぐるみを作ってきましたが、このパンダのぬいぐるみは、彼の作品の中でも特に可愛らしいものでした。


 お祭りの屋台に並べられたぬいぐるみのパンダは、たくさんの子供たちに人気でした。彼らは、その可愛らしい顔や柔らかそうな毛並みを見て、ぬいぐるみを抱きしめたくなるのです。


 ある晩、屋台に並べられていたパンダのぬいぐるみのパンダは、漂うお菓子の甘い香りに我慢できず、ひとときの間でもいいから自分も子供たちのように動き回れるようになりたい! と猛烈に思いました。すると、パンダの中に「では、一晩だけですよ」という声が響き、満月の光が降り注ぎました。ぬいぐるみのパンダは不思議な力によって本物のパンダに変身したのです。


 パンダはお菓子の屋台に向かいました。暗闇の中、たくさんの明かりと音が混じり合って、目まぐるしく流れる人々の姿が目に飛び込んできます。やがて、パンダはあるメレンゲ菓子の屋台を見つけ、近づいてみました。お菓子の香りが強くなり、パンダのお腹はグーと鳴りました。しかし、パンダはお金がないことに気づき、どうやってお菓子を手に入れるか悩みました。しばらくして、1人の子供がパンダに近づいてきました。


「こんばんは、可愛いパンダさん! 君もこのアマレッティが欲しいのかい?」


 パンダはうなずきました。


「じゃあ、僕が買ってあげるよ!」


 子供は自分のお金を取り出して、パンダにメレンゲ菓子のアマレッティを買ってあげました。パンダは子供に感謝して、アマレッティを食べながら屋台を巡り始めました。


 屋台を巡りながら、パンダはたくさんの人々と出会いました。彼らはみんな、パンダの可愛いらしさに魅了され、触れ合うことで幸せな気分になりました。


 パンダはまた、漂うオリーブオイルとハーブの香りにつられて美味しそうな料理の屋台にやってきました。鍋でグツグツと煮られた料理をパンに挟んで食べるようで、とても美味しそうでした。そこで、パンダは近くにいた老人に話しかけました。


「おじいさん、僕、あの美味しそうな料理を食べたいのですが、お金がありません」


「ふん、あんなもの。わしのランプレドットの方がいっそう美味いわい」


 老人は、パンダのためにもっと美味しい料理をご馳走してくれると言いました。彼は、自分の家に招待し、パンダに自分で作ったもつ煮込み料理のランプレドットを振る舞いました。パンダは感激し、老人にお礼を言いました。


 パンダは食事を楽しみながら、老人の話を聞きました。老人は、人間とうまく付き合うことが出来なかったのです。老人もパンダから話を聞き、名前を持っていないパンダに、ルカと名付けました。時間が経ち、夜が深くなると、ルカは自分が本当はぬいぐるみであることを思い出しました。ルカはこのまま老人のもとで、ぬいぐるみに戻ることにしました。


 ルカはぬいぐるみに戻りましたが、老人はそれから毎日のようにぬいぐるみのルカを本物のパンダのように扱っていました。


 ある日、老人の家に息子夫婦と孫娘のルチェッタがやってきました。偏屈がゆえに孫娘でさえ老人に懐いていませんでしたが、パンダのぬいぐるみを見ると嬉しそうに駆け寄って来ました。老人はルチェッタに、ぬいぐるみのルカを本物のパンダのように見せました。ルチェッタは大喜びしました。

 

 息子夫婦は、これなら老人を引き取って一緒に暮らせると思いました。老人は、ぬいぐるみのルカと共に息子夫婦の家に移り住み、ルチェッタと二人でお茶を飲んだり、お菓子を食べたりと楽しく幸せな時間を過ごしました。その傍らにはいつもパンダのぬいぐるみのルカがいました。

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