ウォーハンマー

 北の岩山にある故郷を遠く離れ、ドワーフの青年ビヴォールは良質な鉱脈を求めて旅をしていました。


 自分の直感だけを頼りに各地を見て歩きましたが、未だ満足のいく鉱脈に出会えずにいます。


(良質なミスリル鉱脈か、それがダメなら巨大な金鉱脈くらいには出会いてぇなぁ)


 大きな夢を胸に秘めながら人通りの無い原野を歩いていると、肩の高さ程の段差の下を流れる小川を発見しました。川はビヴォールにとって鉱脈を見つけるための一つの指標となっています。


 ビヴォールは小川のほとりまで下りると、川底の砂を両手で掬い、目を凝らして無数の砂粒を見つめました。


 ところが、そんなビヴォールに気づいたのか、1匹の巨大なサソリが付近の穴から這い出してきます。


 サソリはビヴォールの背後に忍び寄ると、獲物に狙いを定め、尾の先の毒針をもたげ始めました。

 

 背後に妙な気配を感じたビヴォールは咄嗟とっさに後ろを振り向きました。


「うおっ?!」


 ビヴォールは転がりながら毒針をかわすと、腰に下げていた戦闘用のハンマーを手に取り、サソリを正面に捉えながら身構えます。


「畜生が!こんなでかいサソリ見たことねぇぞ!」


 サソリは尾を引き戻すと、大きな2つのハサミでビヴォールに襲い掛かりました。


 ビヴォールは交互に迫るハサミをハンマーでいなしながら、サソリのスキをうかがいます。


 次の瞬間、サソリはハサミを引くと、体を曲げ、狙いすました毒針の一撃をビヴォールに放ちました。


 ビヴォールは軽いフットワークで毒針を避けつつ懐に飛び込むと、頭と思しき場所に渾身の力でハンマーを振り下ろします。


 腹に響くような衝突音が轟き、頭を潰されたサソリは動かなくなりました。


 ビヴォールはハンマーから手を離すと、憎らし気にサソリのハサミを蹴り飛ばします。


「俺を食おうなんざ、ふてぇサソリだ。……まぁ、お陰で今日の昼めしは食いでがありそうだ」


 そう言うと、ビヴォールは焚き木になりそうな細い木を探し始めました。

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