スピア

 旅の途中、大きな湖を見つけたアイザックはそこで休憩をとることにしました。


 手頃な岩に腰を下ろしながら美しい湖の風景を眺めていると、湖畔に妙な物が落ちていることに気づきます。


 気になったアイザックは岩から立ち上がると、落ちている物のそばまで近寄ってみました。すると、それはまだ物が詰め込まれたままの背負い袋だと分かりました。


(何でこんな場所に?)


 不審に思ったアイザックが背負い袋の中を改めようとすると、付近に生えている雑草が乱暴に踏み固められている様子に気づきます。しかも、地面の上には所々に大小様々な血痕のようなものまで見受けられました。

  

 草に付着した血はまだ固まっておらず、つい先ほどそこに降りかかったかのようにテラテラと輝いています。


 アイザックの背筋を冷たいものが走り抜けました。


 伸ばしていた手を戻すと、アイザックは早々にこの場を離れようと思いました。


 その直後でした。今まで波一つなく静まり返っていた湖面に突如気泡が上がり、いくつもの波紋が水面を揺らします。

 

 様子をうかがいにアイザックが水面に近づいた瞬間、水中から一本の槍が勢いよく飛び出してきました。


 間一髪で槍を避けたアイザックは体勢を崩しその場に横転します。放たれた槍は空中で弧を描きながらアイザックのそばに落下しました。


 あわてて起き上がり湖を見ると、1匹のリザードマンが水面から顔を覗かせていました。そしてアイザックを仕留めそこなったことを知ると、そこから陸に這い上がろうとします。


「この野郎っ!」


 アイザックは急いで槍を拾うと、水中から出かかっていたリザードマンを滅多刺しにしました。


「ふざけやがって、くそっ」


 息を荒げながら湖面に浮かぶリザードマンを睨みつると、なにやら幾つもの影が湖底から浮上してくる様子が見えます。


 再びアイザックは悪寒に襲われました。


「おい、冗談じゃねぇぞ!」


 手にした槍を放り捨てると、アイザックは一目散に湖をあとにしました。

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