オイル

 アイザックはとある商人の依頼で、前時代の地下都市跡を探索していました。



「もう随分潜ったが、本当にそんな扉があるのか?」


 傭兵風の男が周囲を見回しながら不安を漏らします。


「でもよ、地下都市の奥に誰も開けられない石の大扉がある、って話は俺も聞いたことがあるぜ」


 盗賊風の男が周囲の地形をメモしながら答えます。


 3人は順調に探索を進めていました。



「そろそろランタンのオイルをくれ」


 傭兵風の男が言うと、アイザックは油瓶を男に渡そうとしました。


 その時、男は前方にある壁の亀裂から何かがしみ出してくるのに気付きます。


 それは粘り気の強そうなドロドロとした液体で、壁を伝いながら3人の方へと向かってきました。


「スライム?何でこんな所に……」


 男とアイザックは後ずさりしました。


「畜生、こっちもだ!」


 盗賊風の男が叫びます。振り返ると、背後では天井から降り注いだスライムが大きな水溜まりを作り、退路を塞いでいました。


「少しでも触れたら骨まで溶かされるぞ!」


 3人は慌てて通路の中心に固まりました。


 アイザックは咄嗟とっさに手に持った油瓶を前方のスライムに浴びせます。そして木切れにランタンの火を移すと、それをスライム目掛けて放り投げました。


 オイルは勢いよく燃え上がり、ブスブスと音を立てながらスライムを焼いていきます。


「いいぞ、どんどんぶっかけろ!」


 3人は周囲のスライムに手持ちのオイルをまき散らしました。炎は凄まじい勢いで延焼し、不定形の化け物を焼き上げていきます。



「もう大丈夫みたいだな」


 傭兵風の男は改めてアイザックにランタン用の油瓶を要求しました。


「――俺のは全部使っちまったぞ」


 アイザックは答えると、盗賊風の男を見ます。


「――俺のも撒いちまったな」


「おい……オイルが無きゃ、どうやって明かりを点けるんだよ?」


 ランタンの明かりは今にも消えそうに揺らいでいます。


 アイザック達は真っ暗な地下都市を入口に向かって全力で走りだしました。

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