保存食

 カミラがクック食料店に入ると店主は浮かない顔で出迎えました。


「どうしたの親父さん?難しい顔しちゃって」


 店主が言うには、以前から携帯用の保存食だけが妙に売れず、その原因を考えていたとのことでした。


 カミラは有事の保存食はここで購入していたため、品質や量に問題がないことは承知していましたし、値段についてもここが一番安いことは分かっていました。


「なんでこれだけ売れないのか、本当に謎ですよ……」


 カミラは買い物を済ますと、悩む店主をあとに店を出ました。



 帰り道、カミラはサドラー食品店から出てきたブラックコンドルに出会いました。


「あら、買い物?」


「こりゃアネさん。ええ、遠出する用事ができたもんで保存食を買いに」


「それならクック食料店の方が安いでしょ?」


「まぁそうなんですがね、でも俺っちは保存食買うならここって決めてるんでさ」


 そう言うと、ブラックコンドルは挨拶もそぞろにその場を後にします。


(何かあるわね)


 気になったカミラはサドラー食品店に入ってみました。


 小さな店内には所狭しと食品が並び、件の保存食も一包みだけ残っていました。


 店には目だって怪しい所も無く、人の良さそうな店主に話を聞くと、数年前に妻を亡くして今は娘と二人で店を切り盛りしているとのことでした。



 カミラはサドラー食品店で購入してきた保存食をテーブルに広げました。


 しかし、量的にも品目的にもクック食料店のものとほぼ変わりません。


 試しにそれぞれの食品をひとかけづつ食べてみましたが、味も大差はありませんでした。


「どういうことなの、一体……」


 海千山千の魔女もこの謎には本気で頭を抱えました。



 カミラは気にも留めず捨ててしまいましたが、保存食の束には一枚の紙片が添えてありました。


 紙片には拙い字でこんなメッセージが書かれています。


「いつもお仕事お疲れさまです

 これはリリーがあなたのために心を込めて作りました

 辛いときもこれを食べて頑張ってくださいね!」

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