水筒
ゲンジは川辺にしゃがみ込むと、手で水をすくい口に含みました。
「ふむ、ここの水は清浄そうだ。一休みしていくか」
「確かにこの辺りの水はキレイですが、生水は危険では?」
「なぁに、心配は無用だ」
そう言うと、ゲンジは背負い袋から竹の水筒を取り出しました。
「変わった水筒ですね」
クーリンディアが物珍しそうにゲンジの水筒を見ます。
「これは拙者の故郷に生えている“竹”という植物を利用した水筒だ」
「タケですか。聞いたことないですね」
ゲンジは水筒にくんだ水を美味しそうに飲み干すと、再び水筒に水を補充しました。
その後、二人は川辺で小一時間ほど休憩すると、再び森の出口を目指して歩き出しました。
「そういえば、其方は水を足さなくともよかったのか?」
「私はワインがまだ残っているので」
そう言うと、クーリンディアは腰に下げた革製の水筒をポンポンと叩きました。
「ワインか……どうも拙者はその果実酒が口に合わなくてな」
会話の最中、奇妙な音と共にゲンジの腹部に激痛が走ります。
(クッ……もしや、先程の水にあたったのか……)
ゲンジは痛みを堪えつつ、声を潜めてクーリンディアに言いました。
「……先程からただならぬ殺気を感じる……ちと、待っておれ」
額に汗を浮かべながら神妙な表情で語るゲンジに、クーリンディアは驚きながらも小声で答えます。
「それなら私も一緒に――」
「ならん!ここは拙者に任せておけ」
尋常ならざる迫力に気圧されたクーリンディアは、小走りに茂みの中へと消えていくゲンジを追うことができませんでした。
静寂の中、クーリンディアはゲンジの生還を待ちました。
すると突然、茂みの奥から掛け声に似たゲンジの声が聞こえてきます。
「ゲンジさん!」
クーリンディアは慌てて茂みの中へと走り出しました。
「来るなクーリンディア!拙者なら大丈夫だ!」
すぐさまゲンジの声が森に響きます。
クーリンディアは足を止め、固唾を飲みながらゲンジの無事を祈りました。
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