防具
革鎧
「俺、家を出て傭兵でもやるよ」
夕飯時、アイザックが家族を前にそう宣言すると、両親や兄夫婦は目を丸くしました。
◇
アイザックは農家の次男として産まれました。兄とは対照的に活発な性格で、小さな頃は村の中でも名の知れた悪童でした。
そんなアイザックも成長するにつれ、次第に社会での自分の立ち位置が見えてくるようになります。
いずれこの家を兄が継ぐ以上、自分は兄の家で慎ましく暮らしていくしかない。アイザックはそんな人生に耐えられそうもありませんでした。
◇
「街にでっかい家でも建てて俺がみんなを養ってやるからよ」
母親が叱責する言葉に耳も貸さず、アイザックは満面の笑みで食卓を離れました。
部屋の扉に棒をあてがうと、アイザックは粗末なベッドへ横になります。扉をたたく音と母親の声は夜遅くまで続きました。
◇
深夜になり家族が寝静まったことを確認すると、アイザックは静かに旅立ちの準備を始めます。
朝食用に台所からパンを拝借して部屋に戻ったとき、後を追うように父親が部屋に入ってきました。
父親は無言のまま持っていた革鎧と
「親父、これは……?」
「お父さんが若い頃に使っていたモノだ。古い物だがその恰好で行くよりはマシだろ?」
「親父が?」
「実はな、お父さんも昔は傭兵をやっていた時期があるんだ」
突然の告白にアイザックは驚きました。
「とは言っても、大した手柄もなく土地を転々としただけでな。結局は今の有様ってわけだ」
父親は自嘲気味に笑いました。そしてベッドを立つと部屋の入口に向かいます。
「――死ぬなよ。いつでも帰ってこい」
◇
早朝、アイザックは家を後にすると、丘の上から生まれ育った農村を見渡しました。
「帰るのは一旗揚げてからだぜ――親父」
父親譲りの剣と鎧を身にまとい、アイザックは再び歩き出しました。
アイザック・ローレンス18歳、この日から彼の冒険者人生が幕を開けます。
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