防具

革鎧

「俺、家を出て傭兵でもやるよ」


 夕飯時、アイザックが家族を前にそう宣言すると、両親や兄夫婦は目を丸くしました。



 アイザックは農家の次男として産まれました。兄とは対照的に活発な性格で、小さな頃は村の中でも名の知れた悪童でした。


 そんなアイザックも成長するにつれ、次第に社会での自分の立ち位置が見えてくるようになります。


 いずれこの家を兄が継ぐ以上、自分は兄の家で慎ましく暮らしていくしかない。アイザックはそんな人生に耐えられそうもありませんでした。



「街にでっかい家でも建てて俺がみんなを養ってやるからよ」


 母親が叱責する言葉に耳も貸さず、アイザックは満面の笑みで食卓を離れました。


 部屋の扉に棒をあてがうと、アイザックは粗末なベッドへ横になります。扉をたたく音と母親の声は夜遅くまで続きました。



 深夜になり家族が寝静まったことを確認すると、アイザックは静かに旅立ちの準備を始めます。


 朝食用に台所からパンを拝借して部屋に戻ったとき、後を追うように父親が部屋に入ってきました。


 父親は無言のまま持っていた革鎧とさやに納められた片手剣を床に置くと、ベッドに腰を下ろしました。


「親父、これは……?」


「お父さんが若い頃に使っていたモノだ。古い物だがその恰好で行くよりはマシだろ?」


「親父が?」


「実はな、お父さんも昔は傭兵をやっていた時期があるんだ」


 突然の告白にアイザックは驚きました。


「とは言っても、大した手柄もなく土地を転々としただけでな。結局は今の有様ってわけだ」


 父親は自嘲気味に笑いました。そしてベッドを立つと部屋の入口に向かいます。


「――死ぬなよ。いつでも帰ってこい」



 早朝、アイザックは家を後にすると、丘の上から生まれ育った農村を見渡しました。


「帰るのは一旗揚げてからだぜ――親父」


 父親譲りの剣と鎧を身にまとい、アイザックは再び歩き出しました。


 アイザック・ローレンス18歳、この日から彼の冒険者人生が幕を開けます。

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