クロスボウ

 一仕事終えたメイソンは街の酒場でエール酒をあおっていました。


 すると、この場に不釣り合いな貴族風の少女が物怖じする様子もなく店内に入ってきます。


「よう、嬢ちゃん。またお勉強か?」


「メイソンさん!いらしてたんですね!」


 少女は嬉しそうにメイソンの正面に座ると、上等なワイン1つと、エール酒の追加を注文しました。


「ありがてぇ、いつも悪いな嬢ちゃん」


「メイソンさんには色々教えていただいてますから」


 そう言うと、少女は机に立て掛けてあるクロスボウに目を落としました。


「これは?」


「今日の仕事でちょっと使ったんだ。俺は弓が上手くないからな、コイツには随分世話になってるんだ」


 メイソンはクロスボウを手に取ると天井に向けて構えます。


「オリビア様お待たせいたしました。特上ワインとエール酒になります!」


 給仕の女性が緊張した面持ちでテーブルに注文の品を置きました。


「私、弓とかクロスボウは好きになれません。だって卑怯じゃないですか、離れた場所から相手を狙い撃つなんて」


 オリビアは嫌そうな目でクロスボウを見詰めます。


「なるほど、嬢ちゃんの言いたいことは分かる。俺も同じ気持ちだ」


 メイソンは笑いながら言うと、クロスボウを置き、再びエール酒をあおりました。


「でもな嬢ちゃん、それは自分本位のルールを正当化させるための詭弁でしかないんだぜ」


「そんなことはありません!」


「まぁ聞け。どんなに罵ろうとも遠距離からの攻撃が有利ってのは疑いようもない事実なんだ。相手が自分より有利な道具を使ったから卑怯というのは子供の駄々と変わらんと思わんか?」


「それは……」


「それにその理屈だと、武器を持たない連中からしてみれば、剣を振るう人間も卑怯者ってことだ」


 オリビアはうつむいたまま黙り込んでしまいました。


「嬢ちゃん、侮辱で終わらせるのは簡単だ。でもそこで思考を止めちゃだめだぜ」


 メイソンは追加のジョッキを持つと、オリビアに感謝の意を示しました。

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