閑話 松本涼子視点1

私は山田史郎のことが好きだ。これは社内でも公然の秘密であった。

そんな史郎さんは自分のこだわりと夢の詰まった家を建てて住むことを目標にしていることも社内ではとても有名なことであり、仕事をしている理由の1つはお金を準備するためだと公言していたこともあった。そんな中で私が直接思いを告げることは史郎さんの夢の邪魔をしてしまうのではないか、何よりも直接思いを伝えることが恥ずかしかったこともあり、バレンタインに同僚に配るついでを装ってハート形の手作りクッキーを渡してみるなど様々な方法で間接的に思いを伝えようとしていた。まあ、お返しと言ってホワイトデーに私の作る何倍もおいしい手作りのガトーショコラを渡されたときはとても驚いたのだが。そんな史郎さんがとてもうれしそうな顔をしながら課長の席に座っていた社長に対して「明日、引っ越しをするので会社を休みます。」と言っていったときはついにできたんだと思うと同時に絶対に社長じゃなくて課長だと思っているとその場にいた全員の共通認識であったことは間違えないのだが。

そんな史郎さんに「遂にできたのですね。明後日、訪ねてもいいですか?」と聞き、OKをもらい昼過ぎぐらいに到着するように家を出る予定だったのだが教えてもらった場所の周辺に規制線が張ってありなかなかたどり着くことができなかった。やっとの思いで到着したのに家の前には警察が立っており近寄り難い雰囲気がしていてどうするか悩んでいる時に太郎さんが家から出てきて彼に事情を聴けたのはとても幸運であったと思う。まあ、史郎さんが死んだと聞いて太郎さんの横で泣いてしまったのは少し恥ずかしい思い出であるのだが。



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