ぬいぐるみとは交通安全のお守りのようなものだ

いずも

第1話

 昔からぬいぐるみの存在意義がわからぬ子どもだった。

 クッションならわかる。

 抱き枕ならわかる。

 でも、ぬいぐるみは何のためにあるのか。


 小さな子どもがごっこ遊びに用いるというのは得心が行く。

 しかしぬいぐるみ市場というのは子ども向け以上の規模を持っている。


 なるほど、人形やプラモデルを飾るのと変わらないのだ。

 そんな当たり前のことに気付くのに随分と時間を要した。

 収集癖はあるくせに、ただ眺めるだけの使い道のないものに価値を見いだせない嫌な子どもだった。

 当然フィギュアやプラモデルも飾る習慣はないし、ポスターも貼ったことがない。ポスターなんかより農協の無骨なカレンダーの方が役に立つから魅力的だった。


 そんな私でも、たった一つだけ欲しいと思ったぬいぐるみがある。

 それも大人になってから。


「エルフーンのみがわりぬいぐるみ」というグッズがポケモンセンターより販売されている。ポケモンではなく、身代わりという技を使った際にゲーム内に登場するグラフィックで、小さな怪獣のようなデザインが人気だ。

 初回販売時はあっという間に売り切れていまい、三度目の復刻でようやく購入。

 ポケセンオーサカからデカイ袋を抱えて歩いた記憶がある。


 このぬいぐるみを車の中に常備している。

 実用的な目的ではなく「交通事故が起きそうになっても身代わりで何とかなるから大丈夫」というただの気休めのため。今なら煽り運転にも効果がありそうだ。

 もちろん現実では身代わりにならないのだが、これは交通安全のお守りを車内にぶら下げておくのと同じではないかと思った。

 それがあるから運転技術が向上するわけでも衝突時の衝撃を緩和するものでもない。エアバックと自動ブレーキ機能でも搭載した方が良い。

 ただ心の拠り所があることで運転にも余裕が生まれるから意味があると私は考える。


 何よりお守りは巫女さんパワーが込められているからスゴイのだ。

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