第十一章 亜人の島Ⅱ Deminian Island

第11-1話「望愛寧々」

 □登場人物

 https://kakuyomu.jp/users/NainaRUresich/news/16817330654753611017


 □本編


「……あっ」


 目が覚めると、そこは集落のララの自室であった。


「……っ! 生きてる?」


 腕を見ると、包帯が巻かれていた。

 考えられるケースは一つ。意識を失った後、すぐに輸血を止められた。

 だとしたら、ララは……


「……あっ!!」


 早苗は目を丸くした。

 ベッドで横たわる彼の隣に、座りながら寝ているララが。

 これは、夢なのか……


「ララ……! ララ、ララ……!!」


 急いでほっぺたを触るが、温かい。

 手首の傷口を見る。縫った場所は無事だ。多少赤くなっているだけ。

 と、手を触れられた少女が、目を覚ます。


「……あっ。さ、早苗さま……?」

「ララ……っ!!」


 目覚めた少女をすぐに抱きしめた。

 生きている。ぬくもりがある。夢じゃない……

 少女は、泣きながら抱きしめ返してきた。


「早苗さまぁ……!! ううううっ……うわあぁぁああ……!!」

「ララっ!! 生きてる! 夢じゃない!?」


 ララを強く抱きしめながら続ける。


「心配したんだ。もうダメだと思った! ララ。あんなに苦しい気持ちは、はじめてだ……」

「早苗さ――うっ! ぐ、ぐるしイ……」


 気づくと、強く抱きしめてしまったようだ。

 少女を離すーーと、すぐに彼女の方から抱きしめてきた。

 震える手で、押し倒される。


「早苗さま……っ! ごめん、ごめン……」

「ララ……」

「私のせいで、うううっグ……」


 すぐ目の前にいる、ララの首元に手を当てる。

 脈も血圧も正常だ。顔色もいい。


「ララ、君は僕の為に死のうとした……」

「……ご、ごめン」

「君は、バカだ……! 何もわかってない……!」

「……っ! あ、あノ」

「君が傍にいれば、それでいいんだ。森でひっそり暮らすだけでもいい。君がいないのなら、意味がない」

「……で、でモ」


 彼女は拳を震わせ、涙をこぼした。


「でも、研究を続けるために、国を作るっテ……」


 言い終える前に彼女を起こし、押し倒した。

 そのままキスをする。


  https://drive.google.com/file/d/1GK2oJVNPmEbsYmLEu8IR3xMaujMYLQ1y/view?usp=sharing



 しばらく合わせた唇を放したあと、彼女を見つめた。


「愛している、ララ。研究なんかより、君のほうが大事だ」


 彼女は静かに自分の唇に触れて、キスの名残を感じ取っている。

 止まっていたララの涙が、再び溢れ出した。


「さ、早苗さま……わたしも好き、愛してる」

「なら、もう二度と、命を捨てるような真似をしないで」

「早苗さまだっテ……」


 彼女を抱きしめた。そのまま首元を這うように何度もキスをした。


「嬉しい……早苗さまが、わたしを好きっテ……」

「ずっと好きだった。怖くて言えなかった……」


 少女の肩を持ち、その顔を見つめた。


「早苗さまは、大丈夫なノ……?」

「軽い貧血程度だよ。点滴してくれたんでしょ?」


 腕には点滴痕があった。

 それに寝てる間、すり潰したビーツを食べさせてくれたらしい。


「あの、それじゃア……」


 ララが、膝の上に乗ってきた。

 少女の匂いが脳まで満ちていく。



 https://drive.google.com/file/d/1C7DtwW9M36-1k2Gv7AG9dL034AELEbKQ/view?usp=sharing



「早苗さま……」


 彼女が抱きしめてくる。

 それと同時に、キスをして、舌を絡めあった。

 服を脱がして、お互いを求め合い……



 https://drive.google.com/file/d/1jiPEmW3BBKwHFxlUiffioXwMCsKOpZoO/view?usp=sharing



 あれから、何時間たっただろうか。

 何度も抱いて、お互い果てては、休憩して。

 そして回復したら、また抱くのを繰り返した。


 そして、腕枕をしている今に至る。


「ララ、大丈夫?」

「うん。ちょっと痛かったけど……わたし、とても幸せだヨ……」


 少女は幸せそうに天井を見て、続ける。


「好きな人と結ばれるの、夢みたい。わたし、諦めてたかラ」

「ごめん。この前のせいで」

「……え、あノ」

「聞いてくれる?」


 うん、と言われる。

 そうして早苗は思い返した。一生消えないトラウマを。


「僕には、完璧な記憶能力、サヴァン症候群があるのは、知ってるよね」

「うン」

「あれって、病気なんだ。僕には記憶を消す脳機能がない……」


 拳を震わせて、続けた。


「怖いものを見た、誰かに怒られた、それだけでも一生恐怖が消えない」

「……うン」

「3歳の時、恐怖のトラウマから癇癪を起こした。その日から、母親に毎日、何時間も殴られた。冬は寒い物置に一晩中閉じ込められた」


 ララは、分からない単語はあるのだろうが、静かに聞く。


「産むべきじゃなかった。中絶するべきだった。本当は娘が欲しかったから、女の名前を付けてやったって。僕は自分が悪いと思った」


 自分が生まれたせいで、母が苦しんでいる。

 そう思うと、誰にも相談できなかった。


「母の虐待はずっと続いた。素手だったのが、次第に棒や刃物に。傷口を隠すのが上手で、児童相談所にもバレなかった……」


 だからだろうか、今でも時々うなじが痛くなる。


「その後、離婚して親権を押し付けられた母は、酒にハマった。父が居なくて寂しかったのかも……」

「……早苗さま」

「よく服を脱がされ、下を弄られた」


 毛も生えていない年齢だった。

 性的虐待というやつだ。時に母は友人を連れてきて、集団で犯してきた。


「父の名前で呼ばれて、下を舐めるように言われたよ。嫌がると、うなじをカッターで切られた。髪で傷口は隠れた」



 https://drive.google.com/file/d/1c1tr1n_U_aYFpUQoubodOz0m-0D1A-Sg/view?usp=sharing



「……っ!」

「間違ったことだと、なんとなく気づいていた。気持ち悪くて、何度も口を洗った」


 10歳の時だった、と思い出す。


「その時から、潔癖症になった。他人に触れられるのが怖くなった……」

「……うン」

「強引に口に、舌を入れられた。あの時の母の顔が忘れられない……」


「……だから、よく悪夢でうなされてタ?」


 あっていた。

 本当はこんな話、一生誰にもするつもりはなかった。


「悪夢が、一生消えないんだ。薬やセラピーでも。死んでこの世界に来ても、時々苦しい……」


 だから、愛した女にキスすらできなかった。

 そう言うと、ララに思いっきり抱きしめられる。

 胸に顔をうずめられた。


「わたしは、ずっと早苗さまが大好きだから。なにがあっても、酷いことしないから。永遠に大好キ」

「……ありがとう。僕もララが好きだよ」


 そう言うと、ララが目をパッチリと開けた。


「早苗さま……はじめて笑っタ」

「えっ……」


 顔を触ると、確かに笑っているようだ。

 まったく、この世界に来てから、怒ったり、泣いたり、笑ったり……

 しばらく抱きしめてると、少女の小声が聞こえる。


「笑った顔も、好き。全部好キ……」

「……ララ」



 https://drive.google.com/file/d/12qzVP2ulpeBKL-mGfuSRBRiNc_oD3oYr/view?usp=sharing



 強く思った。

 中世のような世界で出会った、この愛しい女性を、幸せにしたいと。


 □現在地

 https://kakuyomu.jp/users/NainaRUresich/news/16817330654749257669

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る