第10-4話「4回目(死)の救済」

 □登場人物

 https://kakuyomu.jp/users/NainaRUresich/news/16817330654753611017


 □本編


 まだ、ララを助ける方法は残っている。

 その方法は……


「僕が死ねばいいんだ」


 それが残されたたった一つの方法。


「救世主様……?」


 ラルクを無視する。

 そして銀のL字チューブを二つ。さらにI字のチューブを一つ、熱湯で消毒した。


 ララを救うには、かなりの輸血量が必要だ。

 この処置の後、僕は生きていないだろう。それでもいい。


「……ララ。君がいない世界なんて、もう考えられない」


 心菜に怒られるかな、と考える。

 自分の命を優先しろ、前世と同じミスをするな、と言われていた……

 早苗はララの血液を試験管にいれ、自分の血と混ぜた。


(……僕の血液型は、O型)

 ほぼ誰にでも輸血できる。でも、ABO式血液型だけでは不安だ。

 本来であれば不規則抗体のチェックも行わないと……


(……病み上がりの僕の血に、病原菌が潜んでいるリスクもある)

 血を混ぜて、5分が経過した。

 早苗は顕微鏡を取り出し、血液が凝固していないかを確認する。


「……大丈夫だ。輸血できる」

 その後、上腕を駆血帯(ひも)で縛った。


「救世主様、なにを……」


 早苗は自分の腕を消毒すると、細いL字チューブを、肘正中皮静脈に刺した。

 原始的な針でも、確保しやすい場所だ。

 さらに多少、空気が入っても問題ない。


「な、なんだ……何かの儀式か……」

「黒魔術じゃないのか……」


 獣人たちの声は聞こえない。

 すぐにL字チューブから、自分の血が溢れるのを確認した。

 ララの静脈に、二つ目のチューブを刺す。

 彼女の血が、チューブ越しに弱く出た。

 それを確認してから、自分の腕を、ララの腕のすぐ上に挙げる。


「……ララ、ずっと好きだった。もし失敗したら、一緒に次の世界で会おう」


 そして自分のチューブとララのチューブを、I字チューブでつないだ。

 空気が入らないように、慎重に。

 二つがつながる。

 重力で早苗の血が、ゆっくりとララの静脈に流れていった。


「これは一体……」

「直接輸血する、人類最古の輸血方法」



 https://drive.google.com/file/d/1j3-d14sBY89945OIhVAMgUJa2eAVsSzT/view?usp=sharing



 クレンメはない。

 輸血速度の調節などせず、急速に輸血を行う。

 きっと僕は死ぬだろう。


(……ララには、生きていてほしいな)


 溶血は起きないはず。

 輸血関連肺障害や、輸血後移植片宿主病は起こりえるが……


 手が冷たくなるのを感じた。


(……僕の体内には、およそ4.74リットルの血がある)


 1リットルも輸血した頃には、意識は消えているだろう。

 自分が倒れた後の処置方法をラルクに説明する。

 それから何分経っただろうか……


(……目眩がしてきた)


 血圧低下の症状だ。

 ララを抱えながら、意識が消えないように耐える。

 次第に動悸と、息切れも発生してくる。


(……だが、まだだ)


 最初の15分は、きちんと容体を見ないと。

 待って、耐えて、耐えて……


(もう、20分以上は経ったよな……)


 じきに2リットルの血を失い、自分は死ぬ。

 不思議だった。

 あれだけ死にたくない、やり残したことを続けたい、と思っていたのに……

 今は、もういいや、と思っている。


 ララが助かったら、僕の亡骸を見て悲しむだろうか……

 本当は、お互い生きている未来が良かった。


「………」


 静かに目をつむる。

 痺れた右手で、彼女の頭を撫でてやった。



 https://drive.google.com/file/d/1kqLQPERaQEWkZM0RKnX10n8YpLoFD-cx/view?usp=sharing



 意識を失った後も輸血され続けるよう、獣人の1人に、左腕を持ち続けるように指示する。


(もっと素直だったら……)


 僕はきっと、選択肢を間違えたのだろう。

 もっとはやく、気持ちを伝えるべきだった。


 ララ。さようなら……



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