CHAPTER.30 逆境が人格を作る

「ボス!助けに来てくれたんですか!」


ルカの言葉に、男は顔をしかめた。


「助けに来た?そんな訳が無いだろう。余計なことを喋らないように殺しに来たんだよ」


男は、何も無い空間から木製の弓矢を取り出し軽くルカに向けて放つ。


「プロ子っ、止めて!」

「大丈夫、軌道は見えてるから」


余裕の表情でプロ子は矢の軌道上に立つ。プロ子のボディなら普通の矢など、恐れるに足らない。


「残念だ、それは既に視た」


つまらなさそうに矢の行方を見守る男の言葉に、プロ子は耳を貸さなかったが、直ぐに意味を理解することになる。

矢が、目の前で曲がったのだ。

プロ子を数ミリ単位で横に回避して、またルカへ向けて飛ぶ。


「ボス!どうして!?」


プロ子の身を呈した防御が回避されるや否や、今度はエレーヌは防御魔法が発動させて、ルカを守る。

しかし、既にルカ自身は自分の命運を悟っているのか、涙ながらにそう聞いた。


「ああ、それも視たな」


エレーヌの動きにも表情を変えず、男はルカに答える。


「どうして、って。そりゃあ、お前は初めから仲間にカウントしてねえからな。勝手にお前がやったことだ」

「でも俺は、あなたの為に!あなたを迎える国を……っ!」


防御魔法も掻い潜った矢は、ルカの心臓に真っ直ぐに突き刺さり、言葉を止めた。


「ちと、喋り過ぎだ。やっぱ殺しといて良かったぜ」


そう言って、男は立ち去ろうとしたがプロ子を再び視界に入れ驚いた表情を見せる。


「お、そこの女、時軸を持ってるじゃねえか。……だが奪うには戦力が足りねえな」


エレーヌは、男が一瞬止まった隙を見逃さない。


「天弓」

「それも視た」


背後から降り注ぐ光の矢を最小限の動きで、躱した男は嗤う。


「はっ、また会おう。次は奪うぜ」


男は軽やからに夕闇に消えていった。






「『猫』に違いないね」


SESに集合した誉たちがことの成り行きを話すと、二ネットはそう断言した。


「『猫』は、数年前にこの町に流れ着いたエルフ族さ」

「エルフ族は何処から来たん?」


惣一の質問を聞いた二ネットはファイエットの方を向いた。


「異世界ゲート、私が以前話したことだ」


ファイエットは仕方無い、と面倒そうながらも話し始める。


「何処の異世界と繋がるのかは毎回違う。面白くねぇことに、自然現象なのか、人工的なものなのかも分からない」


全員から真剣な眼差しで見られて、居心地悪そうにファイエットは言葉を続ける。


「正確な年は分からないが、とにかく数年前にエルフの奴らは異世界から来た。当初、奴らは人間へ危害を加えて回ったらしい。『耳の長い奴らが、人を襲っていた』という証言も多々ある」


シヴィルが、全員に資料を配る。

渡された写真には、執拗に痛めつけられた人間の死体が写っていた。


「おそらく奴らは、強く人間に恨みがある。だが、ここ数年はその動きを表に出していない」

「大きな計画を進めてるってことか」

「……あぁ」


今度はマノンが情報を共有する。


「そして異世界ゲートから来たエルフ族は、四人よ。ボスである『猫』、アンタ達に接触した男ね。彼の能力は『未来視』、ってこれは知ってるよね」

「これは、って、他の能力も分かったん!?」


驚愕する惣一を見て、満足にマノンは胸を張った。


「推測、だけどね。一人は『植物操作』のような能力だと思う。彼らに襲われた被害者に、植物に襲われという証言を聞いたもの。もう一人は、『老化』かな?遺体の中に、年齢が合わないものがあったから」


敵の強力な能力に、誉や惣一を含む全員が険しい表情になる。


「でも、あと一人だけは判明してないわ」

「そういえば、『猫』は空を飛んだり、矢を操ったりしてたけどアレは?」


プロ子は意志を持ったように自分を避けた矢を思い出して言った。


「それは、エルフ族の固有能力よ。自然神の祝福を受けた奴らは大なり小なり、風を操ることが出来るの。恐らくそれの応用ね」




一通り情報が共有できたSESからの帰り道、誉が口を開いた。


「ま、『猫』の狙いがプロ子の持つ時軸っていうのが分かっただけマシやな」

「そうやな、取り敢えず来月までは全滅は無いねんから落ち着いて対処しよ。『幽霊屋敷』の方もあるしな」


プロ子は完全に『幽霊屋敷』のことを忘れていたのか、ハッとした顔になる。


「そうだ、それは大丈夫なの?」

「大丈夫、大丈夫。既に集合場所と日時は分かったしな。ちょうど来月に開催らしいで」


プロ子は少し不安そうにした。


「来月?今までの未来なら、今月なんだけど」

「そうなんや。あ、そういえば『幽霊屋敷』のデスゲームは特殊能力使われへんみたいやで」

「んー、まぁ私のは特殊能力っていうよりは身体機能だから大丈夫だと思うよ」

「あ、そう。じゃあ、また」


そう言って惣一は、自分の家へ向かった。


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