CHAPTER.31 ほんの少しの水漏れから大きな船は沈んでしまう
惣一はやわらかい土に座り込んでいた。
「……凄いなあ」
手に持つ書類に書いてある膨大な情報に瞬時に目を通しながら惣一は呟く。
流し読みに見えるかもしれないが、惣一は全ての文字にきちんと目を通していた。
「これが、答え。此処には未来で起きるはずだった全ての犯罪の記録が保管されている。ホントは来ちゃダメだから、私も初めて来たけどね」
隣に立つプロ子も真剣にファイルを捲り、目的の事件について書かれた紙を探していく。
二人は再び森の中へ来ていた。
惣一は以前から、不思議に思っていたことがあった。未来で犯罪を起こす犯人を捕まえると、その犯人は未来に送られた時点で犯罪行為に及ぶことがなくなり犯罪者ではなくなる。つまり証拠が無くなるのだ。
惣一がそのことを聞くとプロ子は目を見開いた。
「あ、その手があった!エルフ族の目的が分かるかも!」
そう言って、直ぐに惣一をここに連れてきた。
未来で起きた事件のデータは全て、犯人が捕まえられるであろう時間より前の過去に来てタイムカプセルに埋めるらしい。そうすることで、犯罪を未然に防いでも過去のタイムカプセル内に保存された記録は無くならない。つまり、未来でこのカプセルを掘り起こせば証拠となる、らしい。
プロ子のその説明を聞いて、惣一は素直に感心した。
「でも、なんで紙媒体なん。探すん大変やねんけど」
「それは万が一、この時代の人間に見つかっても、大丈夫なように」
「ふーん……ってこれちゃう!?」
惣一が開いたページ、大きく書かれたタイトルは『森林東京事件』。
「それだ!今から五十年後に起きた事件みたいだね」
「うん、犯人はエルフ族の四人。ボスと呼ばれる男の能力は不明……って大丈夫かいな」
自分たちが知っていたから良いものの、ボスの能力が載っていないことに惣一は一抹の不安を抱く。
「待って、ほら残り三人の能力は書いてある。それに事件の概要も」
プロ子に言われ惣一も、紙に目を落とした。
他の三人の能力は判明している。
『成長加速』、対象の成長を促進する。人間に使用すると、瞬時に老衰させることも可能。
『植物改造』、任意の存在する植物の特性を掛け合わせた品種を自在に作れる。
『蓄積』、あらゆるエネルギーを蓄積、開放することが出来る。
これらの能力を駆使して、ボスと呼ばれる男は計画を実行した。
『植物改造』によって、予め成長限界、繁茂力が異常に引き上げられた品種の種子を東京中に散布。それらに『成長加速』と『蓄積』を掛けたのち、四人は時軸によって五十年後へと移動した。
移動先の未来で同時多発的に東京中の種子に『蓄積』された五十年分の『成長加速』を解除することで、東京を一夜にして森林へと変貌させた。
さらに当時、いくつかの国を滅ぼしていた『笛の男』がエルフ族に協力する。
エルフ族は、『自然崇国』を建国、滅ぼされた国の民衆を保護し、土地を与えた。また、手段は不明だが『異世界ゲート』を人工的に再現し、エルフ族の軍を作っていたという情報もある。
各国に文明機器を放棄することを要求し、真偽は不明だが、東京の他にも既に先進国に種は埋めてあると脅迫した。
「うーん、なかなかの大事件やなぁ」
先に読み終えた惣一は思わずそうこぼした。
世界規模の事件の結末が自分たちにかかっている、その事実に惣一は憂鬱になった。
「でも、既に『笛の男』の方は阻止したし?あとは、私が時軸を奪われなければ良いだけだから」
溜息をつく惣一をプロ子はそう言って励ます。
「ま、とりあえず片付け、やな」
地面に散らばっているファイルを丁寧に、カプセルに戻していく。少しでもこれを掘り起こしたのがバレると証拠としての効力を失ってしまう。
それを分かっているプロ子が、慎重に、カプセルにスコップで土を被せるのを見ながら惣一は、一枚の紙をポケットにそっと入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます