きららむし2

鳥尾巻

カンブリア爆発

 お祖父ちゃんの営む古書店。私はそこでお手伝いをしてる。

 その日、古びた引き戸を開けて入って来たのは、同じクラスの三森みつもり世那せな君だった。

 私から見ると三森君は少し変わった子。休み時間はだいたい寝てるし、起きてても本読んでるかボーッとしてる。

 髪はボサボサでいつもどこかに寝癖が跳ねてる。ちゃんと開きさえすれば綺麗な奥二重の目は眠そうな半眼になってるし。

 

 時々、三森君はここに来て変な本を買うから、お祖父ちゃんは大喜びしてる。若い人とマニアックな話が出来て嬉しいみたい。

 でも「恐竜の生態図鑑」はまだいいとして、「馬鹿の大妙薬~馬鹿利膏~」や「平行植物」なんて意味不明すぎる。

 これを言ったらオシマイだけど、こんな小さな書店で探さなくても大抵の本はネットで買えると思うんだよね。

 前にそう言ったら、三森君は「おじいさんと話すのが楽しい」って言ってたから、ある意味2人は相思相愛なんだと思う。


「こんにちは、今泉いまいずみさん」

「こんにちは。今日は何をお探しですか?」


 お祖父ちゃんも私も「今泉」だから、2人揃って挨拶を返したら、三森君は一瞬キョトンとした。半眼が丸く開かれて、ちょっと可愛いと思ってしまう。


奈子なこさんに用があって」

「私?」


 不思議に思って首を傾げると、三森君は肩から提げていたトートバッグから、何かを取り出した。


「これあげる。さっき隣のゲーセンで取った」

「なんで?」

「ぬいぐるみ好きって言ってなかった?」

「言ったっけ」

「そうだね。奈子はぬいぐるみいっぱい持ってる」


 お祖父ちゃんの余計な援護射撃に力を得て、三森君は私にそれをぐいぐい押し付けてくる。


「いや、いいよ」

「いいから貰って。じゃあね」


 三森君は私の断りを綺麗に無視してぬいぐるみを渡すと、そのまま帰ってしまった。これだけの為に来たの?


「どうすんの、これ」


 私は手の中のアノマロカリスのぬいぐるみを見下ろして途方に暮れていた。

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