クマのぬいぐるみを思い出すと。

ろくろわ

小さな妹とクマのぬいぐるみ

「兄ちゃん、あのね。私結婚するの。子供もできたの」


 年が四つ離れた妹の久しぶりの連絡は結婚する報告だった。


 妹との仲は悪く無いのだが、もう何年も会わず連絡は年に三回。お正月と私の誕生日と妹の誕生日に一言、二言メッセージを送る程度だった。だから何もない日に着信があった時は少し驚いたものだ。

 まぁその数日前から何度か着信履歴が残っていたので連絡を取りたがっていたのは知っていたのだが、私から折り返すのが億劫でそのままにしていた。

 妹の結婚の報告に正直なんと返したかは覚えていないが「おめでとう」とだけ話したのは覚えている。


 結局、妹からの結婚すると言う電話もいつもと変わらず一言、二言、話をして切った。

 ただ電話を切った瞬間、小さな妹がクマのぬいぐるみを片手に私の後ろをついてくる幼き日この事を思い出した。


 よくある話だが、幼い頃の私はどこに行くにも後ろから「兄ちゃん」とついてくる妹を恥ずかしく思い邪険に扱っていた。


 そんな妹はずっと私の後を追っていた。


 高校も同じ所で同じ部活に入っていた。

 妹は私の部活の試合も見に来ていたな。私は一度も妹の試合を見に行ったことがなかったけど。


 そして、そのまま何となく大人になった。


 兄妹なのに妹がどこで何をしているのか深く知らない。


 年に三回程度のやり取り。

 その間妹はどんな日々を歩んでいたんだろう。


 私の記憶の中の妹は、泣きながらクマのぬいぐるみを片手に追いかけている姿だけだ。

 本当はもっと妹との思い出があるはずなのにその姿だけが頭に残っている。


 私はずっと後悔している。

 あの頃の私は「兄ちゃん」とついてくる妹が恥ずかしく距離をとり、今はその頃の妹に罪悪感を抱えた私だけが距離をとっている。




 今度は私から電話をかける。


「伝え忘れたがお祝いに今度ご飯でも行こうか」

 

 きっと私の距離は直ぐには縮まらない。

 だけど大丈夫。

 たった一人の大切な兄妹だから。



 了


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クマのぬいぐるみを思い出すと。 ろくろわ @sakiyomiroku

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