第6話 良喜札めくると占い結果(1~3枚目)
「待たせたわね。結果を伝えるわ」
私――良喜札めくるは、宙に浮く十字に並べた五枚のタロットカードのうち、中央にある五枚目以外を、十字の形を保ったままライオットに向けて反転させる。
十字を構成する五枚のカードの内訳はこうだ。
一枚目(十字の左側):相談者の状態
――
二枚目(十字の右側):相談者の問題
――
三枚目(十字の上部):相談者の近い未来
――
四枚目(十字の下部):相談者への助言
――大アルカナの18番『月』。
五枚目(十字の中央):助言を受け入れた未来
――???
「これが、占いの結果……?」
第二王子のライオットが、表になったカードを見て呟く。後ろに控える護衛騎士のカーティスは何も言わないが、視線はカードの絵柄に釘付けだ。
「そう。それぞれの絵柄の意味を、カードを置いた場所の意味も含めて、順番に解説するわ。気になったことは二人とも遠慮なく尋ねて頂戴」
「私もですか?」
「もちろん。自分の主人のことを、よく分からない占いであれこれ言われるって嫌でしょ?」
意外そうな顔のカーティスにそう返し、「ただし」と私は付け加える。
「さっきも言った通り、伝える結果に容赦はないから覚悟なさいね」
二人が目配せをして頷き合ったのを確認し、私は早速説明に入る。
「じゃあ、まずは一枚目。あなたに向かって左のカードは、今のあなたの状態を示すカード。
カードの名前は『
カードに描かれているのは、棍棒を片手に赤毛の馬で駆ける騎士。炎を思わせる赤い房飾りのついた兜が印象的だ。
「ふむ、騎士か。しかし、なぜ剣や槍ではなく棒なのだ?」
ライオットから、早速質問が飛んでくる。カーティスも本物の騎士として気になるのか、興味津々だ。
「タロットカードでは、
「それで『情熱をもって物事を追及する人物』……なるほど、殿下ですね」
「だが、逆位置だな。これは、色々と上手くいっていないからか」
そうね、と私は頷く。
「『
今のあなたは不正を追及しきれず、闘争心を外へ出せない。行き場のない力が内側に溜まり続けて、常に暴発の危険を孕んでいる。
それで視野が狭くなって冷静な判断が出来ず、短絡的で場当たり的な行動に出がちな状態ね。
いろいろ言ったけど、要は『自分で自分を制御できていない』ことを自覚なさい。それが分からなきゃ、この先が話にならないわ」
ライオットは口を思い切りへの字に曲げて目を逸らし、その後ろでカーティスが神妙な顔で頷いていた。
続けて大丈夫そうだと判断し、私は次のカードの説明に移る。
「さあ、次は二枚目。あなたから見て右側のカードは、あなたが今抱える問題を示すカード。一枚目の原因となっているカードとも言い換えられるわね」
描かれているは、目隠しをされて全身を縛り上げられた人物。
灰色の城を背に、濡れた地面の上で拘束されたまま直立不動の姿勢を保つその人物の周囲は、八本の剣に取り囲まれている。
「カードの名前は『
「剣が理性や知恵を表すのですか? それこそ、熱意や闘争心の方が合いそうですが」
質問したのはカーティスだ。実際に剣を扱う人間としては、不思議なのだろう。
「そうね。『棒』よりも少ない力で相手に深手を負わせるための知恵を絞った結果、刃をつけて研ぎ澄まされたのが『剣』って考えてくれれば分かりやすいかしら?」
「ああ、そういう」
「なんだか、嫌な知恵だな……」
「ええ。研ぎ澄まされ過ぎた
『
『
「このカードの解釈は二通りあってね。
一つは『自分を守るために剣で囲んで誰も近づけないようにする』。
もう一つは『あらゆる方向から剣で囲まれ動けなくなる』。
目隠しをされた人物についても、前者では『周りに惑わされず不退転の覚悟を決める』。
後者は『周りの状況が分からず手も足も出せない』と受け取れるわ。
冤罪を晴らすために宰相派と対立して、審議で追い詰められている今のあなたには両方当てはまるけど、どちらかと言えば後者寄りかしら?」
「全くもって、その通りだな。返す言葉もない」
苦々しい表情を浮かべたライオットは、深い溜息と共にくしゃりと前髪を掻き上げた。自分の状況を客観視したことで、冷静さを取り戻しているらしい。
私は続けて、三枚目のカードの説明に移った。
「さて、三枚目。あなたから見て上側のカードは、あなたの直近の未来を表すカードよ」
「なっ」「ええ……」
十字の上部にある三枚目を見た二人はドン引きした。それもそうだろう。
明け方の海岸で倒れ伏す人物の背中に、これでもかと突き刺さる十本の剣。
初見で良い意味を見つける方が難しい。
「カードの名前は『
「もっと別の形があるだろう……!」
「地味に前のカードから意味が繋がってるのが嫌ですね……」
「理性や思考は、生きてる限り付き合わなきゃいけないでしょ? 逃れるには、こうなるしかないのよ」
それに、と私は付け加える。
「今言ったのは正位置の意味。逆位置の場合は解放されずにひたすら突き刺さった剣に苛まれ続けるか、旅立つことなく道半ばで倒れるの。
前者は『失敗を引きずり続ける』、後者はそのものズバリ『敗北』よ。
今のままで行けば、どういう形であれ禍根を残す結果にしかならないでしょうね」
「……っ」
私の言葉にライオットは目を伏せて押し黙った。何かを言いたげに開きかけた唇をギュッと引き結び、堪えるような眼差しが床を這う。
私はライオットが顔を上げるのをジッと待った。
次のカードは四枚目、助言のカード。ライオットの進退に、最も影響を与えるカードだ。彼自身がキチンと受け止められる状態で伝えたい。
決して短くない沈黙の後、ライオットは意を決したように顔を上げて言った。
「メクル。四枚目を」
「わかったわ」
私はただそれだけを返して、四枚目の説明に入る。
「四枚目は、一番下にあるカード。あなたへの助言を示すカードよ。心して聞きなさい」
二人の表情が引き締まり、緊張が走る。
「カードの名前は『月』。その意味は――『恐れるものと向き合う時』よ」
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