清らかな朝
翠雨
第1話
玄関の扉を空けると、清々しい空気。少し寒いけれど、身が引き締まる気がして、これくらいが丁度いい。
晶子が日課として朝の散歩を始めたのは、大学に入ってからだ。
幼い頃はじいちゃんの早朝散歩について行ったり、行かなかったり。中高生のときは部活の延長戦でジョギングをしたり、しなかったり。
散歩の通り道にある小さな神社。いつもは鳥居で手を合わせるだけで通りすぎるけれど、今朝はふと入ってみる気になった。
はぁ~、厳かな雰囲気~。
立派な樹木からは神聖な気配を感じ、一段と気温が下がったようだ。
昼間に通ったときには、人々の生活に溶け込んでひっそりと佇んでいると感じていたけど。
朝の神社って気持ちいい~。
冷たい空気を胸いっぱいに吸って、背筋を伸ばす。
あっ!お金持ってない!
入ったのに、ご挨拶もないって失礼よね。お賽銭無いから、ここから手を合わせて、ご挨拶だけ。
『おはようございます。いい朝ですね。』
明日は、お賽銭持ってこなきゃ~。
引き返そうとすると、低い木の枝の下。雨が凌げる場所に小さな犬のぬいぐるみ。手乗りサイズで、愛くるしい顔をしている。ちょこんとお利口に座りしているみたい。
近所の子供の忘れ物かしら。
狛犬さんね。
家に帰ると、お握りと味噌汁で朝食を済ませる。
「朝御飯が美味しい!狛犬さんに会ったからかな。ふふふ。」
食欲があるのは、軽い運動のお陰と思いながらも、ぬいぐるみがあまりに可愛くて、幸せな気分だった。
次の日の朝、お賽銭をポケットにいれ、散歩に出掛けた。
昨日の神社、今日も犬のぬいぐるみを探して、ゆっくりと通る。
あっ!二匹になってる!!素敵な狛犬さんね!
少しだけ色の薄い、同じようなぬいぐるみが増えていた。二匹ともこちらを向いて、お座りしている。
お賽銭を入れ、手を合わせ、今の幸せをお裾分けしたいと思う。
『世界中の皆が、昨日よりちょっといい日になりますように。』
清らかな朝 翠雨 @suiu11
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