今、あなたの後ろにいる?!

夏空蝉丸

第1話

「最近熊が出るって知ってる?」


 幼なじみが通学路で話しかけてきた。駅までの十分間、いつものように話しかけて来る。友だちに言わせると、ありがたいこと。感謝するべし。なのだが、嬉しくない。


 別に幼なじみのことが嫌いってわけじゃない。そこそこ可愛いし愛嬌もある。関係だって悪くない。けど、朝は駄目だ。誰にも会いたくないし話したくない。


 家を出る時間を変えたこともある。だが、狙いすましたかのように同じ時間に家から出てくる。いや、違う。待ち構えている。俺が家から出たのを確認して出てくるんだ。


 本当はさ、俺も愛嬌よく話してやりたい。そこまで俺に気を使ってくれているなら告白されているようなものだ。分かってはいる。でも、俺が朝が超苦手だってのも分かって欲しい。そういう配慮ができないのが、この幼なじみの欠点だ。


 だから、高校生になっても友達以上の関係になる気になれない。


「夜中に出るんだよ熊が……」


 幼なじみの声が頭の中でキンキンする。もう、ダッシュして逃げてしまおうか。そんなことを考えながら昨晩のことを思い出す。


 確か、外が何やら騒がしかった。当たり前だが、こんな住宅街で熊が出るはずがない。だから、その時は泥棒か何かだろうと考えた。顔は見られたくないけど証拠を残さなきゃと、窓を少し開けて手だけ伸ばしてスマホで外の動画を撮っていたはず。


 俺はスマホを取り出して動画を確認する。俺の家は防犯用の証明があるから、夜中でも家の前を人が通りかかると明るくなる。そのおかげで、バッチリとなにやら写っている。


「あっ、熊だね」


 スマホを覗き込んだ幼なじみが言うが、熊……ではない。熊のぬいぐるみ。いや、着ぐるみ。俺の家の塀を乗り越えようとしている。そして、防犯ライトが点灯すると慌てて隣の家の中に逃げ込む。


「って、お前じゃん」


 指摘をすると、幼なじみは「遅刻遅刻ぅ!」と言いながら走り出した。

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