取りたい少年と取られたくないぬいぐるみ

ポンポン帝国

取りたい少年と取られたくないぬいぐるみ

(今日もあの少年がやってきたな……)


 クレーンゲームのガラスにへばりつくように中の景品を見ている少年。


「今日こそ、あいつを取るんだ!!」


 気合を入れてお金を入れる少年。五〇〇円玉を一枚入れる事で、サービスの一回がつく六回チャレンジをするようだ。


(やる気は認めるがな。だが、俺だって簡単に取られる訳にはいかない)


 一か月前、彼女と二人で来ていた少年。このぬいぐるみを彼女が気に入った事でこの二人の因縁が始まった。それから毎週、このクレーンゲームのところにやってきては同じようにプレーをし、取れずに帰っていったのだ。


 ちなみにふてぶてしい表情をしているこのぬいぐるみだが、性根は意地悪ではない。だが、この少年が彼女の為に頑張るように、このぬいぐるみにも大切な相手がいるのだ。


(ベティちゃんの為にも俺は取られる訳にはいかねぇ)


 少し離れたところに並べられている女の子のぬいぐるみ。名前はベティちゃん。このぬいぐるみが(設定上)彼女なのだ。そしてベティちゃんと離れたくないこのぬいぐるみはあらゆる手段をもって少年の猛攻をかいくぐってきた。


 今日もいつものように中の綿を密かに移動させる事で重心を変えたり、アームに掴まれる瞬間、手の位置を絶妙に移動してずらす方法を使う事で五回目の挑戦まで退けていた。


 だが、この六回目。今回のアームの様子はいつもと違った。


(このがっちりとしたアームの掴み具合……。もしや……!?)


 そう、『確定機』だ。


(これはまずい。よじる事すら出来ないなんて!)


 先程までの戦法は全く通じず、『確定機』の定めた運命の強制力にぬいぐるみもついには諦めた。


 だが、せめて最期にベティちゃんの顔を見ようと視線をベティちゃんへと向ける。


(ベティちゃん、俺はもうダメみたいだ……。ってあれ?)


 なんと、ベティちゃんの隣にはいつの間にか他のぬいぐるみがいて、手を繋いでいたのだ。


(どういう事なのだよ!?)


 力が抜けていくぬいぐるみ。そしてついに少年にぬいぐるみは取られてしまったのだ。


「やったーーー!!」


 少年は喜んだ。そしてそのまま彼女の家へと向かう。その間このぬいぐるみは今までの抵抗が嘘のように身動き一つ取らずに連れていかれた。


「こ、これやるよ!!」


 彼女の家に着いた少年は、照れた表情で彼女に取ったぬいぐるみを早速渡した。彼女の嬉しそうな表情に少年も嬉しそうにしている。実にほのぼのした状況なのだが、とうのぬいぐるみは意気消沈としており、下を向いてしまっている。


 彼女はいくつか並べてあるぬいぐるみ達の中に、少年が取ったばかりのこのぬいぐるみを並べていく。


「ここでみんなと仲良くするんだよ♪」


 そんな彼女の言葉もぬいぐるみには響かず、俯いたまま動かなかった。すると、目の前に一体のぬいぐるみがやってきた。


(新人くんね。私、くぅです。よろしくね♪)


 その言葉に反応し、ぬいぐるみが前を向くとそこには天使がいた。


(こ、こちらこそよろしくね!)


 こうしてこのぬいぐるみの新しい生活がスタートするのだった。

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