7話目 エピローグ~うみの願い~

 マイクの力強い口調に鼓舞されたが、助ける方法も戦う方法も今一よく分からなかった。だが四の五の言ってる暇はないらしく、俺と光はデバイス装置の前に座らされ、謎のヘッドセットをマイクから貰い、装着することになった。


「いい?一回しか言わないからよく聞いて!今から私が貴方達の体に直接霊力を流して本来の力を目覚めさせるから、そしたら月に精神を飛ばして、月にある貴方達の本体とリンクして、メタバースの第二世界で戦ってるうみ様の元へ飛んで救助するのよ!」


 のっけからブッ飛んだ説明が展開され頷けなかったが、ベッドセットの装置は起動し、更にはマイクの節榑立ふしくれだった手が何故か股の間の、俺の大事な物を鷲掴わしづかむ。


「おい!どこ触ってんだ!?」


「ううっ、葵先輩……僕、別次元の世界が開けそうです……」


「二人とも集中!」


 マイクの言葉に遮られ数秒、そこから脳天にバチッと衝撃が走る。ちなみにこれは決していかがわしい類いの衝撃ではない。断言する。


≪さぁ二人とも、目を開けてちょうだい≫


 マイクに言われ目を開けば、俺の視界に月が間近に迫っていた。じきに月のクレーターに体がひゅっと飲み込まれ、次に覚醒した時にはメタバースの第二世界で支配者と戦う、うみの前に立っていた。


「貴方達は誰……?」


「君を助けにきた刑事だ。君が死んで消失すると、第一世界の地球が侵略されて滅びると聞いた。今までよく一人で頑張って戦ったね」


 するとうみは驚いた顔をし、やがて微笑んだ。


「うみの話を信じてくれて、荒んだこの世界にまで助けにきてくれて、ありがとう。けどうみの体はもう限界なんだ。この世界にも、向こうの世界にもいけないし、いられない。初対面だけど、うみの最期のお願いを聞いてほしいの」


 そして第一世界ではライブ配信が始まり、うみは最期に告げた。


「みんな知ってると思うけど、今日が最期の配信です。悲しいけどうみはみんなのことずっと愛してるし、忘れないよ!今まで沢山の応援をありがとう♪元気でね!」


 この配信を最期に、うみは第一世界、そして第二世界からも消失した。


「実に呆気ない最期だ。この人間──いや、玩具ぬいぐるみは我に支配されても自我を保ち、アイドルうみとして生き続け我と戦った。狭い部屋に監禁し、自由を奪い、家畜のような暮らしをさせたのに見上げた根性だ。だが心も体も限界を迎え、粉々に砕けた」


 第二世界の支配者はわらい、俺達に目を据えた。


「さぁ、次は貴様等の番だ」


 不意にうみの言葉が甦る。


『うみの最期のお願いを聞いてほしいの。第一世界を笑って楽しく過ごせる、幸せな世界を築いて』


 俺達はうみの願いを届ける為に戦い、勝利した。そして平和の象徴としてうみの石碑が第一世界に建ち、今も多くの人々に愛されている。


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バーチャルヌイアイドル☆うみ 龍神雲 @fin7

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