3話目 最初から存在しないヌイアイドル
うみがどこにもいない──。駆け込んできた刑事は新たな資料を手にし、それをホワイトボードに貼った。捜査会議では昨晩配信された動画、バーチャルヌイアイドルうみの今までのライブ配信状況等が資料として提供され貼られ、俺達の手にもそれらが配られていた。
というより──……
「あいつ、まるで自分の女のような勢いで呼称しなかった?」
「葵先輩落ち着きましょう。うみタンはみんなのうみタンってファン同士で取り決めたじゃないすか。ちょっと入れ込みすぎですよ」
「まぁ、そりゃそうだが……」
俺と光が小声で会話する中、刑事と上との会話が聞こえる。
「いないなら探しだせ」
「いえ、探すも何も彼女はどこにもいない。最初から存在してないんです……」
うみがいないどころか最初から存在してない。場がざわつき始める。では今まで一体どうやってライブ配信をしていたのか?疑問が浮かぶ中、一人の刑事が質問した。
「なら彼女は完全なるAIなのでしょうか?」
「その可能性もあり調べてみたのですが、AIではありませんでした」
現時点でうみの個人を特定することは不可能となった。現時点の調べでうみというアバターは普通のアバターと異なり、既存の物から作り出された物ではない未知な物だったという。捜査会議は一旦打ち切られ、その場で解散となった。そして俺は光と共にbarに行き、酒を酌み交わしながら事件の話をしていた。
「うみタン、どこ行っちゃったんですかねぇ……。ガチ勢うみタンファンの葵先輩なら分かると思ったのに、お手上げですか?」
「お手上げというより、最初から存在してなかったんだろう?そうなると今後の捜査も難航するだろうな」
そして時刻は夜の八時を迎えようとしていた。うみの動画配信サイトを開けば、既にファンが待機していた。
「うみタンいなくなっちゃったから、今日は配信されないっすよ~……って僕達刑事しか知らない情報っすけどね」
光は心底残念そうに呟く中、時刻は八時になり──
『はーい!こんばんは♪バーチャルヌイアイドルのうみです♪あと二日間の命だけど、今日もうみと一緒に楽しくライブ配信、楽しんでってね♪』
「先輩!」
「ああ」
光が言いたいことが分かり相槌を打つ。アバターも、うみの声も、いつもと何ら変わらなかった。機械的でない、生身の人の声帯振動により発せられた声──間違いなくうみだ。ではこのうみはどこから配信をしてるのか。
「リアルにも、AIにも存在してないうみタン……じゃあ僕達が見てるこのうみタンは一体何なんですかね?」
「分からん。だが今頃、それ専門の連中がこの配信を見ながらサイバー捜査を本格的にしてる頃だろ。それに期待しよう」
そして配信が終わった直後、召集の電話が鳴りだした。
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