2話目 バーチャルヌイアイドルうみを追う刑事

 バーチャルヌイアイドルうみ。彼女がリアルにどんな生活を送っているのか誰も知らず、そのベールは謎に包まれていた。彼女はバーチャルヌイアイドルとして確立し、ライブ配信をしているが、それ以外のツールは一切利用せず公開もしてない、今のご時世にしては珍しいタイプだ。自身の近況を呟くことができるSNSも、日記のようなSNS等も一切利用せず、ライブ配信のみの活動である。


 うみのライブ配信は毎日、夜の八時きっかりに開始され、十時に終わるという二時間配信だ。毎日決まった時間に始まり終わる二時間配信、この配信で固定のファンが付き、拡散され、やがて多くのファンを獲得した。彼女が行う配信はアイドル界隈のオタクの心に響き、現代社会で疲労する者達の癒しになり、今や、老若男女関係なくどの世代も知るアイドルだ。ちなみにライブ配信ができるサイトのプロフィール欄にはハンドルネーム【バーチャルヌイアイドルうみ】としか記載されてない。それ以外は一切不明だ。しかし俺の場合、ある特権を使えば簡単にうみのリアルを知れる。何せ俺の職は刑事だ。うみの一ファンとして、そして刑事としても見過ごせない。事件性の可能性もある為、翌日から事件として扱われ、この案件を担当することになった。だが少し嬉しくも複雑な気持だ。何故なら彼女は三日後にネットからもリアルからも消える──死ぬと言ったのだ。冗談ではない。殺伐とした日々の生活の唯一の癒しが、ネットどころかリアルからも消失。もう一度言おう!冗談ではない!俺の命を全部懸けてでもうみタン──もとい!


「うみを必ずや守り、救いだす!」


『ガタン!』


 瞬間、刑事課の面々が一堂に介し、捜査会議をする会議室で派手な音が響く。我に返った時には強面刑事達の鋭い視線を俺は全身に浴びていた。


「ちょ、先輩!何してるんすか……!座ってくださいよ!悪目立ちしてますよ……?」


 後輩に腕を引っ張られ、俺は勢い余って立ち上がるだけでなく、心の声を宣言し、ガッツポーズを決めていた。


「あ、やべっ……すまん。じゃなくて、申し訳ありません」


 謝罪して座れば、会議室で再び事件の話が再開された。


あおい先輩、いくらうみタンが好きだからって、勝手はダメですよ?」


「すまん……って、ひかるも人のこと言えんだろが。昨晩のライブ配信が終わった直後、緊走して宿舎にきて、電話しながら俺の部屋に不法侵入しただろう。情緒不安定どころか軽く住居侵入罪やら他にも色々やらかして……。つーか職務中にライブ配信見るとか駄目だろ」


「俺はうみタンの生配信見ながら職務余裕でこなせますが何か?それに葵先輩もでしょ?」


 光と会話を繰り広げる中、一人の刑事が駆け込み一変する。


「うみがどこにもいません!」

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