第3話
あ、知らない天井だ。
気がつくと、私はふわふわもこもこに包まれて寝ていた。
これってあれでしょ?
異世界転生。
まさか、私の身にこんなことが起こるなんてねぇ。
しかもしょっぱなからふわふわのもこもこに包まれているなんて、女神、いい仕事するじゃない。
なあんて思ったこともありました。
体が動かせない。
あちゃー、赤ちゃんになっちゃった?
はじめはそう思ったんだけどね。
「おじいちゃん、これがいい!」
私を抱き上げたのは今世のママかしら?
なんて誤解すらできない、舌っ足らずの声でした。
あきらかに子供、ううん、幼児のその女の子が私を抱き上げて、ギューっとハグをした。
え?どういうこと?
異世界転生のチートか、言葉が分かる、なんて気取ってみたのは最初だけ。
どう考えても日本語でした。
抱きかかえられて、ペタペタ触りまくる女の子。
私は見た!
そこはどう見てもおもちゃ屋さんじゃないの。
私の周りにいたもふもふたち。
どうやら各種ぬいぐるみ。
その中で寝ていた私って・・・
まさか、ね?
嫌な予感は当たる物で・・・
ピッ
エプロン姿のおねえさんが私のお尻付近にレジのバーコードリーダを近づけてお会計。
「私が抱っこして帰るぅ。」
なんていう、ママあらためご主人様のわがままで、ピンクの包装用リボンを首につけられた私。
そのとき、私はショーウィンドウに移るリボンをつけたふわふわのウサギのぬいぐるみと目があった。
それからの私は、常に女の子の腕の中。
かわいいかわいいとハグされまくる一日。
夜は抱き枕にされて、よだれまみれ。
って、ちがーう!
確かに私、お金持ちの子になりました。
毎日かわいいかわいいって言われてます。
女の子はたくさんのぬいぐるみを持っていて、私はその中でも一等のお気に入り。
女の子の腕の中にいないときは、いつだってもふもふのど真ん中。
ハグされ、愛されて、大事にされてます。
けど、これって転生じゃないよね?
ぬいぐるみに憑依した幽霊、じゃん?
しかも、こうなって知ったよ。
ぬいぐるみとか人形って、私みたいなのそこそこいるみたい・・・
入ってみると分かるけど、ちゃんと手足の感じが生前と同じならそんなに体の感じは戸惑わないのよね。だから人型には宿りやすい、なんて床の間に飾られた日本人形・・の中の人が言ってたよ。
彼女はもう100年以上もここにいる、だって。
「でもあんたはぬいぐるみだからね、私の経験じゃそう長くないね。子供が大きくなったらお払い箱さ。その後?さあ知らないね。大概は消えるみたいだけどねぇ。あらたな人形があれば憑依できるやつもいるし。まぁ、気ばんな。意識があるうちが花だからねぇ。シッシッシッ・・・」
このお話、一体何年前のことだったかもう記憶がない。
私は、たくさんのもふもふに囲まれて、うたた寝をしている・・・・
(完)
転生せずに憑依しちゃいました 平行宇宙 @sola-h
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます