君の笑顔が大好きでした

彼岸キョウカ

 

 ボクはクマのぬいぐるみのまーちゃん。ボクの持ち主の女の子、アユミちゃんが名付けてくれたんだ。


 アユミちゃんは笑顔がとっても可愛い5歳の女の子。ずっと笑顔でいて欲しいな、と思ってたんだけど……。


「まーちゃん聞いてよ……またママに怒られちゃった……」


 アユミちゃんはこんなに可愛いのに、ママはアユミちゃんにすぐ怒る。どうしてだろう。


「…………」


 あぁ、ボクの口が動いたら良いのに。


 そうしたらアユミちゃんを慰めてあげられるのに。




「いたい、いたいっ。ママやめてよぉ」


「うるさい! おねしょするなって言ってるでしょ! 誰が洗うと思ってるの!」


「ごめんなさい……ごめんなさい」


 明るい部屋の方から、アユミちゃんが怒られてる声がする。


「…………」


 あぁ、ボクの足が動いたら良いのに。


 そうしたらアユミちゃんを守ってあげられるのに。




「おい、なんでお前がここにいるんだよ。部屋にいとけっていつも言ってるだろ!」


「で、でも……おなかすいた……」


「はぁ? お前に食わす飯なんてねーよ! 誰のせいで金無いと思ってんだよ!」


「ごめん、なさい……」


 とぼとぼとボクのところにやって来るアユミちゃん。


「まーちゃん……」


 ぎゅっとボクを抱きしめてくれた。


「…………」


 あぁ、ボクの手が動いたら良いのに。


 そうしたらアユミちゃんを抱きしめてあげられるのに。




 あれから、ママとパパは出掛けてしまった。もう何日経ったかもわからない。アユミちゃんはボクを抱きかかえて横になっている。


「まーちゃん」


「…………」


 か細い声。


「おなかすいたよぅ」


「…………」


 ママとパパはなんでこんなに可愛いアユミちゃんを放っておけるのだろう。


「さびしいよぅ」


 ママとパパはなんでアユミちゃんを酷い目に遭わせるのだろう。


 アユミちゃんは、笑顔がとっても可愛いのに。


「まー、ちゃ……」


「…………」


 ボクを抱きしめている力が、抜けた。


 アユミちゃん……? アユミちゃん??


 アユミちゃん!!



 あぁ、ボクの身体が動いたら良いのに。


 そうしたらアユミちゃんを死なせないのに。


 アユミちゃんのパパとママを、酷い目に遭わせられるのに。



——————————



「ちぃーす! 怪談系動画配信者のタクマでーす! みんな見えてる〜?? 今回紹介する呪われたアイテムはこちら! クマのぬいぐるみです! いや〜これはまじでやばいよ激ヤバ呪物だよ。なんとこのぬいぐるみ、親の虐待で死んじゃった女の子が大事にしてたらしいんだけど。うっ……頭痛くなってきた……。大丈夫大丈夫! そうそう、女の子が死んだ後に両親が虐殺されっ、がはっ、ぐ、ぐるじ、い」

 


 

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