長い耳とピンク色の幻

相生 碧

夢と現の境に現れる



暗がりの空間に閃く、鮮やかなピンク色のぬいぐるみ。固まる私の事なんか、お構い無しに現れて。

唐突に、華麗に、呆気なく。私の目の前の黒い影の塊を蹴っ飛ばした。


「…な、な……」


覆い被さろうとしていた濃い影は、ぬいぐるみのキックで体のあちこちから黒い霧を吹き出している。

これは夢?それとも幻?…混乱している私をよそに、ピンク色のそれがぐるりと振り向いた。

長い耳に赤い目のポンチョをかぶったうさぎの形のぬいぐるみが私を見る。


「ここは危ないって、大人たちに聞いてたでしょ!どうして来てんのよ!」

「……うわ、煩い」

「とにかく、逃げるわよ!」


戸惑う私の手をふわふわのぬいぐるみに掴まれて、そのまま引っ張られる。


「え、ちょっ……待って早い!」

「いいから走って!」


後方からは、低い唸り声がこだましている。ちらりと振り向けば、黒い空間がぱっくりと開いていて、そこから黒い霧が漏れ出ている。

後ろは見ちゃダメ!とピシャリと叱られて、私はそれからずっと暗がりの中を訳も分からずに走り続け…

やがて、遠くの方から小さな光が見えてきた。何故か見て、ほっとしてしまった。


「あの先に行けば、もう大丈夫よ」

「…!」


いつの間にか、光が目の前に近づいていた。眩しく視界が白く塗りつぶされていく。


「もうこっちに来たらダメよ」


段々と遠くなっていくぬいぐるみの声。既に手を離されていた。私は思わず目を閉じて…

………………。


ばちっ、と目が覚めた。

眩しい朝日が目に差し込んでいる。慌てて辺りを見回すと、そこは自室。

……私、いつ帰ってきたの?

いや…夢だった?よく考えてみると、ヤバイ影から助けてくれたのが、可愛いぬいぐるみ…それどんなニ○アサアニメだっての…。

けれど少し引っ掛かる。

あの子どっかで…?

少し考えてみたけど、慌ただしく朝の準備をしている内に、不思議な夢のことは朧気になって、いつの間にか忘れていた。

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長い耳とピンク色の幻 相生 碧 @crystalspring

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