うるさい彼氏

嶋田ちか

静かにしなさい!

ある夜、ドンドン!とドアを叩く音で目が覚めた。


せっかくうとうとしてたのに最悪。


ドア開けるとそこには鬼のような顔をした大家さんが立っていた。


「あなたまた彼氏連れ込んでたでしょ!いい加減にしないと追い出しますよ!」


物凄い形相で怒る大家さん。


「いや、だから何度も言いますけど私彼氏なんか連れ込んでないんですけど…」


実はこの怒りの訪問は初めてではない。今月に入って3度目だ。


「言い訳したって無駄です。あなたの彼氏の声を聞いたって他の部屋の人も言ってるんですから。ほんと、次同じことがあったら出ていってもらいますからね!」


顔を真っ赤にして階段を下りていく。


いやほんとに、彼氏なんか連れ込んでない。なんなら彼氏なんかいない。男友達すらいない。


大家さんが言うには夜中に彼氏(?)が何やらずっと喋ってるとか何とか。


壁の薄いアパートだし、多少は音が漏れることもあるだろうけど、うちにはテレビもラジオもない。


YouTubeだってイヤホン付けてるし。


「変なこともあるねー」


そう呟きながらテディベアをなでる。


もしかして、YouTube見ながら寝落ちしてイヤホンが外れてる可能性もあるか?


それとも、隣のアパートの人がうるさくしてるのか?


うーん、困った。


壁は薄いし、大家もうるさいが、家賃が安いのがこのアパートの良いところ。


上京して来た私には貯金もあまりなく、できれば追い出されたくない。


今日はとりあえずYouTubeを見るのやめよう。

スマホも一応機内モードにしておいて、クローゼットとかにしまっておこう。


そう決意して夜の分の薬を飲む。

まあ、また言われたらその時考えればいっか。


2月の終わりでも夜はまだまだ冷える。

壁が薄いということは、寒さにも弱いということ。


テディベアを抱き抱えて毛布をかぶる。ふわふわとした気分になって瞼を閉じた。


「バレるかと思った」


夢の中でテディベアが呟いた。





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うるさい彼氏 嶋田ちか @shimaenagon

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