日常と共に感情も変わる

「……ぐふふっ」

「気持ち悪いなまたミュウを見てんのか?」

「良いだろ別に! お前もこれ見てみ!!」


 そう言って利信は俺にスマホを見せた。

 そこには利信にとって最近のトレンドになっているミュウの自撮り……ややこしいな美羽の自撮りだ。

 美羽は別に色んな服装で自撮りを撮っているわけではなく、毎回毎回似たポーズもあれば違うポーズもあって……でもとにかくエッチだと思われる自撮りなら誰もが反応しているので、本当に男ってのは単純だと思う。


「それさぁ。結構男が反応してるのは当然だけど、女性っぽいのも結構あるよな」

「確かにな。コスプレで有名な人とか、単純に可愛いくてエッチな女の子が好きって公言してる女性作家とかもフォローしてるみたいだぜ」


 そう、意外とこういう投稿に反応する女性も一定数は居るみたいだ。


「ミュウってさぁ」

「うん?」

「彼氏とか……居ると思うか?」


 真剣な声色で利信はそう聞いてきた。

 俺からすれば美羽に彼氏が居ないことは分かっているし、仮に居たとしたら最近の俺だと泣いちまいそうだけど……取り敢えず美羽とミュウは別人として扱わないといけないため俺はさあっと返事を濁す。


「顔は隠れてるぜ? でもマスクの上からでも美人だってのがよく分かるし、おまけにこんなにエロい体してるし……というかミュウってさ。マジで自撮りを上げてるだけで誰にもリプとかしてないんだよ。潔さとはまた違うけど、匂わせとか一切ないのも好感度高いみたいだし」

「ふ~ん」


 確かに美羽はTwitterで誰ともやり取りをしていない。

 彼女がTwitterに持っている認識は自撮りを載せて反応を楽しむ以外だと、適当にニュースを見たり有名人の投稿をチラッと見る程度だ。

 普通の人だと友人間でフォローしたりされたりしてるみたいだけど、流石に美羽の場合はミュウのアカウントでやり取りは出来ないしな。


『特に興味はないからねぇ。あぁでも、何か心境の変化があったら自撮り以外にも投稿はするかもね。それが何かは……後のお楽しみってことで♪』


 という風に、美羽も何か考えてはいるらしい。

 その時に俺をジッと見ていたのが少々気掛かりだが……まあでも、あの子はSNSというものにそこまでの比重は置いていないので、本当にあの子にアプローチを掛けまくっている男たちのことを思うと……なんだか悪い笑いが出そうになる。


「俺、ミュウの彼氏になりてえよ……」

「無理じゃねえか?」

「分かってるっての! そもそもどこに住んでるかも分からねえし、きっともうこんな子には彼氏が居るんだよ絶対にな!」


 ほんと、ガチ恋勢じゃんお前……。

 しばらくエッチな自撮りを見ていたが他に興味のあるものを見つけたのか、利信は静かになった。

 俺は自分のスマホを取り出し、改めてミュウのアカウントに飛ぶ。


「……わお」


 俺が見たのは美羽の自撮りに寄せられたコメント郡だった。


・マジでエロい

・最高です!

・是非会いたいです

・オフパコ希望

・何円払えば会えますか?

・彼氏とか居るんですか?

・居たら死ぬわ

・キモすぎ。彼氏とか居ても良いじゃん

・つうか居るに決まってるだろ


 なんて感じのコメントがいくつもある。

 ちなみに美羽はTwitterのDMは常に開放しているらしく、毎日毎日彼女当てにDMが何通も届いている。

 俺も見せてもらったが100件を越えるのも余裕で、更には送られてくる文章に関しても必死に美羽を口説き落とそうとする本気度が窺える。

 中には金持ちの社長っぽい人だったりも居て……そう言うのを見ると、裏垢女子とかってこういうのを相手しまくってんのかなと少し思うこともある。


「おはようさ~ん。朝礼を始めるぞ~」


 そうしていつものように学生としての一日が始まった。

 特に何事もなく昼休みになり、今日は利信と力哉だけでなく篠崎さんも一緒に昼食を食べていたのだが……そこで篠崎さんからこんなことを聞かれた。


「ねえ彩人」

「うん?」

「彼女出来たの?」

「……え?」


 どうしていきなりそんなことを聞いてくるんだ?

 ポカンとする俺とは裏腹に利信は事の真相が気になるのか凝視してくるし、力哉も興味無さそうにしながらチラチラと俺を見てくる。


「実は友達がこれを送ってきたんだよ」


 そう言って彼女は俺にスマホの画面を見せ……俺はあっと声を出した。

 そこにあったのは俺とギャルモードの美羽が二人で写っている写真で、俺ってばこんな顔をするのかと自分で驚くくらいに笑顔を浮かべており、そんな俺を見て美羽もまた笑顔だった。

 角度的には横から撮られているものの距離はそこそこ離れているみたいだし、これなら俺も美羽も気付かない。


「お、おい! これお前じゃねえか!? 誰だよこの巨乳の美人は!!」

「だああああ声が出けええええ!!」


 まあでも、今まで見られていない方が不思議だったか……つっても美羽がこんな派手な姿になったのは高校生からなので、ある意味こうして見られるのも今年からってのが必然だったか……ふむ。


「これ、流石に別人ってわけじゃないでしょ? どう見ても久遠だし」

「……へぇ。お互いに笑顔だし、ちょっと街中で出会ったからって雰囲気でもなさそうだね」

「……おいおいおい! 誰なんだよこれは!」


 すっげえ誤魔化したい……めっちゃ誤魔化したい。

 でも……俺は自然とこう言っていた。


「大切な子だよ。それ以上でも以下でもない」


 正直、良く迷いもせずにこう言ったなと自分で自分に驚いた。

 けれども全く恥ずかしさなんてないし、逆に変に誤魔化してボロが出るよりは良いと思ったのもあるけど……俺が見ていなかった角度から知った美羽の笑顔……この笑顔を見てしまっては全然知らないなんて言えるわけもない。


(けどあれだな……この美羽も見てもやっぱり利信はミュウと一致しないのか)


 本当に美羽の変化っぷりは流石としか言いようがなかった。

 結局、その時の話は有耶無耶になって終わったものの力哉だけはどこか察したように静かだった。

 それが分かったのも昼食を食べ終え、力哉が席に戻る瞬間だった。


「大切な子……ねぇ。まさかとは思うけど……いや、これ以上は良いか。色々と纏まったら教えてくれよ」

「……おう。サンクス」


 こうだから力哉はモテるんだろうなぁ……なんてことを思いつつ、一応美羽には伝えておくか。

 もしかしたら俺が原因で気付いた可能性もあるし……まあ美羽が怒ることはないだろうし仕方ないなと笑ってくれるのも予想出来るけど言わないよりはマシだろう。


『今日一緒に帰ろ?』


 そんなメッセージも美羽から届いており、俺は分かったと返事をした。

 どうやらどこかに出かけたりするわけでもなく、今日は普通に家でのんびりしたいとのことだ。

 俺としてもその案には賛成で、今日は美羽の傍で癒しを……って、何を考えてんだよマジで。


「……やれやれだな」


 自分の中に起きている変化に苦笑し、俺は早く放課後がやってくるのを待った。

 そしていざ放課後が来た時、学校を出て美羽と合流すると約束をしているのですぐに玄関に向かった時だった。

 見るからに機嫌の悪そうな美羽と、そんな美羽を逃がさないように声を掛けているあいつが……伊藤が居た。


「あの野郎……」


 俺は数秒すらも状況を確かめる悠長なことはせず、すぐに美羽の元に向かうのだった。

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