悩めよ若人
「……………」
「何を黄昏てんだよ」
その声に振り返えると、パックのジュースを飲みながらこっちに歩いている力哉が居た。
「力哉か……どうしたんだ?」
「どうしたじゃないって。なんか今日一日ボーッとしてただろ? それで昼食を済ませるなり一人黙って出て行けば誰だって気になるさ」
「……………」
そんなにボーッとしていたかよと思ったけど、あの力哉が……いや、この様子だと利信や篠崎さんにも同じことを思われたか?
俺自身特にいつもと変わりはしないんだが……どうも周りから見るとそう見えたのかもしれない。
「どうしたよ。悩み事か?」
「……悩み事……なのかな」
「なるほど、ちょい重症か」
病気じゃねえし重症でもねえよ……でも、理由としては簡単だ。
力哉をジッと見つめると、彼は俺の視線を真っ直ぐに受けて目を丸くする……少しばかり居心地悪そうにしながらこう言った。
「ジッと見つめてくんじゃねえよ。目が窪んでるから怖いんだよお前」
「窪んでるってなんやねん」
失礼な奴だな……とは言わなかった。
俺は力哉から視線を外し、遠くの景色を眺める――すると自分でも意識しないため息が漏れて出た。
(……くそっ、最近の俺はマジでダメだ……もうダメだおしまいだぁ)
なんて、オーバーすぎるかなとも思ったが……まあ良いか。
白状すると何を隠そう最近……具体的にはあの富田とのやり取りを経たあの日からやけに美羽のことを目で追うことが増えた。
あの時、富田を含めいつも傍に居てくれる美羽のことを渡したくないと……離れて行ってほしくないと考えるようになった。
(兄として妹が離れていくのが寂しい……のかねぇこれは)
そう思いたい……そう思えれば楽だった。
家に俺と美羽、そして飼い猫のココアだけという空間において……あの子は、美羽は本当に遠慮なしに俺の傍に居たがる。
流石にずっとではないが……それでもその豊満な肉体を思いっきり押し付けてドキドキさせてくる時もあれば、さり気なくそっと身を寄せることでドキドキとは程遠い安心を与えてくれたりと……とにかく美羽が家で本当に優しいのだ。
「……はぁ」
「マジで重症じゃん」
「そうだよ……重症なんだよぉ……」
断言……もう言っちゃって良いか?
俺……美羽のこと、本気で性的に見てしまうかもしれん……それを必死に堪えても目が美羽を追ってしまう……まあ性的というと大げさだけど、これを認めてしまうと今まで通りに見れなくなる怖さがあった。
「美羽ちゃんのことか?」
「……………」
「図星か。ま、同じ屋根の下に住んでたら分からんでもないな」
美羽のことを言い当てられるとは思わず、俺は思いっきり肩を跳ねさせた。
そうだよ図星だよ悪いかと言いそうになったのをグッと堪え、俺は再び力哉と視線を合わせた。
「家でさぁ」
「うん」
「美羽がとにかく優しいんだよ。もうね、元から大好きだったのはそうなんだけど最近になってマジでヤバい」
「惚気んじゃねえよ。でもあの美羽ちゃんがねぇ……お前らの仲が良いのは知ってるんだけどさ。あの子を知ってるだけにそこまで彩人が言うってのが中々……想像出来ねえわ」
だろうな……力哉を含め、他の人たちもあの子の外行きの姿しか知らないんだからそれも仕方ない。
あの姿の美羽を知っているならもっと良い意見というか、為になる言葉を彼女持ちの彼からもらえるかもとは思ったけど……ま、こうして俺は悩むだけで無理に答えを求める必要はない。
美羽と向き合って、自分の気持ちとも向き合って……それで答えを出すのが一番大事だろうしな。
「よしっ!」
「お? 答えでも出たか?」
「答えは出ねえ。でもちょっと気が楽にはなった……やっぱ明確な答えが出なくても誰かに話を聞いてもらうってのは大事だな」
「悩みは溜め込めば溜め込むほどダメって言うだろ。また何かあったら言えな?」
「サンクス」
ほんと、最高の友人たちに囲まれてるよ俺は。
力哉に話を聞いてもらったおかげなのか、かなり気分的にも落ち着いて放課後になる頃にはあまり気にすることもなくなっていた。
学校を出る頃に今日は友人と遊んで帰るから遅くなると美羽に連絡をし、利信と力哉を連れ回すように俺は遊び回った。
「……………」
そして時間が流れて5時半頃に家に帰った時、どこかデジャブを感じさせる光景が目の前に広がっていた。
靴は置かれていたので先に帰っていることは分かったけど、美羽はいつぞやのようにリビングのソファの上で眠っていた。
「すぅ……すぅ……」
最近は家に帰るとギャルな彼女に切り替わるようにしているのは果たして意味があるのか分からないけど、一昨日も一緒に彼女と夜に寝たが……今の彼女の方が魅力的なのは自覚しているようで、出来るだけ俺に見てほしいと彼女は言った……そんな言葉さえも伝えられるとやっぱり気にするなというのが……ねぇ。
「……うん?」
いつもならココアがすぐに駆け寄ってくると思っていたが、どうやらあの子も美羽と同じでおねんねのようだ。
猫用に買った寝床で体を丸めているココア……可愛らしいという部分では全くの同じなので、こうしていると猫が二匹眠っているみたいだな。
「美羽~?」
「……むにゃ」
あ、これは完全に寝ているなと俺は苦笑した。
額を軽く小突いて起こしてやろうかと思う反面、それを可哀想だと考える俺も居ればしばらく眺めていたいと考える俺も居る。
……そして何より、この無防備な姿を見ていると……普段の仕返しをしたくなるのも仕方なかった。
「……ごくっ」
俺は明かりに誘われる虫のようにゆっくりと美羽に近付いた。
大分温かくなってきたので美羽もシャツ一枚とかなり薄着だ……それこそ、その下に着ているブラの色と形も薄らと見えるほどだ。
「……いつもそうだ……俺はいつもこれに戸惑うっつうか……揶揄われてるし、偶には少し仕返しくらい良いよな?」
逸る心を抑えるように、俺はそっと手を伸ばした。
眠り続ける美羽の胸に手を伸ばし……そして触れた――美羽は少しだけ体を捩ったが目を覚ますことはなく、更に深い眠りに入ったかのように表情が柔らかなものに変化する。
(……ってこれ、まるで漫画と同じじゃないか……っ!)
そう気付いたが俺の手は止まらない。
決して彼女を起こさないように……俺は本当に初めて、こうして妹の胸を自由に揉みしだいた。
たぶん、今の俺はこの全てを美羽のせいにしていた。
いつもいつもこれを押し付けるように俺を揶揄うから……だから悪いのは全部美羽なんだと思い込もうとした。
「ぅん……っ!」
悩まし気な声が美羽から漏れた。
俺はその声を聞いた瞬間、急激に頭が冷えてしまい手を離す……ただ謝ろうという気は一切なく、どこか俺はやり切ったような感覚に包まれていた。
『兄さんのエッチぃ♪ 触りたかったらそう言えば良いのになぁ。なんなら直接でも触らせてあげるよぉ?』
まあ、きっとこう言われるだろうなと何となく予想出来るのも大きいか。
とはいえこの悪戯は美羽の記憶に残らず、かといって俺も進んで公言することもない……だからこれは俺の思い出の一つにしておこうそうしよう!
「……柔らかかったな……それに温かくて大きくて……くぅっ! これが漫画と同じだったらあのまま……ってダメだダメだ! そこまで行ったら後戻りできないぞ俺ってばよ!」
色々と言葉を口にしたけど……結論を言わせてもらうと。
とても柔らかくて大きくて、とにかく気持ちが良かったとだけ言っておきます!
「……別に良いのに。したらしたで寝起きにあたしも……むぅ」
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