放課後の買い物デート

「……?」


 体が重い……俺の目覚めの感覚はそれだった。

 何かが体に乗っているような感覚を受け、俺は寝起きでボーッとしている頭を必死に動かしながらこれは何かを考える。

 そうした結果、俺は掛け布団を捲った。


「おはよ兄さん♪」

「……………」


 布団を捲って出てきた可愛らしい笑顔に再び布団を被せ、俺はもう一度捲ってその存在を確かめた。


「おはよ♪」

「……………」


 再び布団を被せ、俺は見間違いかもしれないと思い時計を見た。

 まだ朝の6時半ということで、後少しは寝れる時間だ……二度寝に洒落込もうかと目を閉じてすぐ、布団から這い出るように美羽が顔を見せた。


「ちょっと~! 可愛い妹におはようの一言くらいないのぉ!?」

「……おはよう」

「うん♪」


 顔を出した美羽はそのまま俺の腰に馬乗りになり、若干頬を赤く染めて俺を見下ろしている。

 朝の男子の目覚めが如何に危ないか彼女は理解しているだろうか……でもちょうど彼女の体に触れていないことに安心しつつ、寝ている時は大丈夫だっただろうかとちょっと気になった。


「なあ美羽……」

「う~ん?」

「……いや、何でもない」

「そう?」


 まだパジャマの俺と違い、美羽は既に制服を着て準備は万端だ。

 眼鏡は装備していないがボサボサの髪もいつも通り……少し制服に皺が出来たりするか不安には思ったものの、やっぱりもう少し俺を寝かせてくれ。


「後10分くらい寝かせてくれる?」

「良いよ。じゃあこのまま――」


 美羽は馬乗りの状態で上体を倒した。

 俺の胸元に彼女の豊満な胸が形を変えるように圧縮され、顔の横に美羽の顔もまた急接近だ。


「……ふふっ」

「どうした?」

「兄さんさぁ。段々とあたしを退かそうとしなくなってきたよねぇ」


 ニヤニヤと笑いながら美羽にそう言われ、俺は確かにと自問自答する。

 父さんと母さんが居なくなってから別人……ではないけれど、距離が一気に近くなった美羽にドキドキさせられっぱなしだ。

 一緒に風呂に入った時もそうだし、こうして一緒に寝ようと提案してくることもそうだし……逆に断ることが疲れるようなそんな気さえしてくる。


「諦めた」

「え?」

「……父さんと母さんが居なくて誰も美羽を止めないだろ? 俺が止めても……その度にお前の残念そうな顔を見るのも嫌だからな。それに……嫌じゃないし」

「……っ」


 ポンポンと頭を撫でながらそう言った。

 確かにこんな風にされてウザがる兄も居るには居るだろうし、逆に嫌うまで行く奴も居るかもしれない……でも俺はそうじゃない。

 単純に美羽に甘くて好き勝手させているだけかもしれないけど、このやり取りに楽しさを見出している俺が居るのも確かだしな。


「限度はある……限度はあるぞ? でも俺は美羽とのやり取りを一度だって鬱陶しいだとか思ったことはないさ……たぶん」

「もう! 最後まで言い切ってよ!」

「はいはいうるさいうるさい。つうわけで10分経ったら起こしてくれ美羽」

「……分かったぁ」


 ということでキッチリ10分が経った後、美羽に声を掛けられて俺は起きた。

 先に美羽が部屋を出て行き、顔を洗ってから着替えをする中で考えることがある。


「……俺、めっちゃ鋼の精神鍛えられてね?」


 そうなのだ。

 この家に二人になってから明らかに美羽の行動が変化し、俺の大好きなエロ妹ギャルを再現するかのようなことばかりしてくる。

 ストッパーが居ないからこそではあるが……これでもしも、俺の意志が弱かったらと思うと目も当てられない。


「……………」


 着替え終わった後、俺は無言であの漫画を手に取った。

 俺が一瞬で虜になり性癖を破壊された究極の妹ギャルエロ漫画……寝ている彼女への悪戯であったり、朝起きたら甘い刺激を与えられていたり……徐々に心の距離が近づくことで、妹の方から多種多様なコスプレをしたりして兄を誘ったりと……確かにエロいんだけどとにかく尊い。


「おっと、学校に行く前に読むもんじゃねえな」


 つい下半身に力が入りそうになっちまうぜ!

 部屋から出てリビングに向かうと美味しそうな朝食の香りが俺を出迎え、空っぽになっている俺の腹をこれでもかと刺激してくる。


「いただきます」

「いただきます♪」


 俺も手伝いたいし、何なら日替わり制にしても良いんだけど美羽は頑なに拒んでくるのだ。

 それもあって基本的に彼女が限りなく忙しい時や用事がある時を除き、食事に関しては美羽に一任している……いや、母さんから美羽は心配ないと聞いていたけど実際にこうして経験すると……うん、本当にこの子は簡単なものから凝ったものまで料理が上手だ。


「どうしたの? 凄く頷いてるけど」

「美羽の作るご飯は美味しいなって思ったんだよ。本当にいいお嫁さんになると思うぞ美羽は」

「……えへへ、ありがと兄さん。ならさぁ」

「うん?」

「兄さんはあたしをお嫁さんにもらってくれるかな?」

「っ!?」


 ガタンとテーブルを揺らしてしまった。

 もしも飲み物を口に含んでいたら大変なことになっていたなと思いつつ、変わらず微笑んで答えを待つ彼女に俺は……思った以上にすんなりと答えていた。


「俺たちは兄妹だ……まあ義理だし問題はなさそうだけど。でもそうだな……美羽をお嫁さんにもらったら色々と大変そうだが……毎日楽しそうだな」

「……ふ~ん、素直に答えるんだね?」

「ま、言うだけならタダだしな」

「……むぅ!」

「こら、足を蹴るんじゃない!」


 素直に人が答えたらこれだ……でも、嘘は言っていない。

 今の状態からしたら正直欠片ほどもの考えらない気はするけど、俺にとって美羽はどこまでも大切な妹……それってつまり、大切な女の子でもあると思うんだ。

 だからこの考えに変化が起きる可能性は無きにしも非ず……ま、あり得ないか。


「……………」


 ただ……今日みたいに、それこそ今までのように美羽から刺激的かつ甘い誘惑をされ続けたら俺の中に眠る可能性の獣が目覚める危険が……っ!!

 俺はそこまで考えてプルプルと頭を振った。

 彼女は大事な妹! 可愛くて大切な妹! 守るべき妹……!!


「兄さん」

「ひゃい」

「ひゃい……? 今日の放課後、良かったら一緒に買い物行かない? 冷蔵庫の中が意外と寂しくってさ」

「お、荷物持ちか了解した」


 荷物持ちなら任せてもらおう。

 そんな風に彼女と放課後の予定を立て……そして時間は流れて放課後になった。


「……なんで?」

「お待たせ兄さん♪」


 平日は基本的に外行きの恰好をしないはずなのに、放課後になって家に帰った後準備を終えて出てきた美羽はギャルへと早変わりしていた。

 サラサラにツインテールに肌の露出が多い服装と……相変わらずこれでもかとドキドキさせてくる装いに心臓が高鳴る。


「まあまあ良いんじゃんか。偶には平日の夕方もこの格好で兄さんと過ごしたい所存なのですよぉ」

「にゃ~」


 俺と心境がシンクロしたのか、見送りに来ているココアも首を振っていた。

 やけに機嫌の良い美羽を連れて外に出るわけだが……やはり人波が極端に増える繁華街ともなると美羽は本当に視線を集める。

 ムチッとした巨乳もそうだが、太もももかなり見られているが……やはり今の彼女は自分の姿をファッションのようにしか思っていないようで、気持ち悪そうにはするが大して気にはしていないようだ。


(こいつは離れられないな……)


 もしも美羽から離れたらナンパがひっきりなしに来そうだ。

 それこそヤリモクで声を掛けてくるチャラ男も絶対に居るはず……出来ればこんな恰好をしなければ解決ではあるけれど、俺自身が嫌いじゃないのもあって強く言えないからなぁ……いやぁ眼福ですマジで。

 そんな風に美羽と買い物という名の放課後デートを楽しんでいた時だった。


「あれは……」


 前から歩いていたのは以前に職員室で出会った男子……美羽と一緒に日直をしていた後輩男子だった。

 肩身を狭くするように歩くその姿を見ていると、もう少し堂々としてみたらどうだと思わなくもない。

 そんな風にして見つめていた時、俺は彼と視線が交差した――そして彼は隣に立つ美羽を見て、一瞬ではあったが鼻の下を伸ばした……どうやら彼も男みたいだ当然だけど。

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