芽生え?

 家に帰っても父さんと母さんは居ないししばらくは帰ってこない。

 その静けさはやはり寂しいモノを俺に感じさせたものの、友人たちが揃って何かあったら言ってくれと気にかけてくれたこともあり、本当に周りの人間に恵まれているんだなとこの環境に感謝したくなる。


「……あ~♪」


 なんてことを考えながら入るお風呂ってのは最高だ。

 既に今日は夕飯も済ませているため、後はもう風呂から上がったらのんびり過ごして寝るだけ……う~ん、実に優雅な一日の終わりだ。


「兄さ~ん? お湯加減はどう?」

「最高だぞ~」

「そっかぁ」

「なあ美羽」

「なあに?」

「今日の飯最高だったわ。美羽は良いお嫁さんになるよ」

「っ……ありがと」


 いやぁ本当に美羽は良い嫁さんになるよ俺が保証する。

 生半可な奴だと絶対に許さないけれど、美羽がこの人だって連れてきたら……悲しいけど俺は兄として素直に送り出すしかない。


「……ちっ」


 いかん、ちょっと機嫌が悪くなってしまった。

 風呂場はその性質上音が響くため、流石に戸を隔てた先に居る美羽には聞こえなかっただろうが、それでもちっと音が響いてしまった。


「……うん?」


 というか、今気づいたんだけど美羽……?

 脱衣場との間にある戸は当然曇っているというか、直接向こう側が見れないデザインなのは確かだけど、そのシルエットは見えるわけだ。

 俺の目が映す美羽のシルエットは服を脱ぐような動作をしている。


「な、何してんだ!?」

「え? 一緒に入ろうかなって」

「ちょ、おま――」


 つい、俺は立ち上がってしまった。

 その瞬間、体にタオルを巻いた美羽が戸を開けて姿を現し、満面の笑みで俺を見つめて口を開く。


「ということで一緒に入りま~す♪ お母さんたちが居たらこんなことも出来ないからさぁ。まさか兄さん、可愛い妹が一緒にお風呂入りたいって言うのに断ったりしないよねぇ?」

「っ……いやいや、それはだな――」

「ま、何を言われてももう遅いけどね。というか、隠さなくても良いの?」

「っ!?!?!?!?」


 そうだった……基本的に風呂場にタオルを持って入ることがないので、俺は美羽と違って体を隠す物は一切ない。

 俺のアレを見て一切の動揺をしない美羽に比べ、俺は指摘された瞬間に下半身に手を当てて再び湯船に沈むという圧倒的敗北感……いや、状況がどうであれ、女の子に汚いものを見せた俺が全面的に悪い……納得できないけどな!


「……?」


 体を洗うためにシャワーを浴びだした美羽だけど、その横顔がどこか真っ赤になっているような気がした……でもたぶんああやってお湯を浴びたからか。

 って何を俺は冷静になって分析してるんだよ!

 体を洗うために纏っているタオルが邪魔になったのか、美羽はタオルを脱ぎ捨ててそれこそ生まれたばかりの姿になる。


「っ……マズい」


 俺は咄嗟に視線を逸らした。

 シャワーから出てくるお湯を頭から浴びる美羽はとても気持ち良さそうで、凄くリラックスしているのが伝わってくる。

 彼女が髪の毛を手で揺らすたび、つまりは体の動作に合わせて一切の抑制するもののない大きな胸がぷるんぷるんと揺れている。


「お、俺先に――」


 先に上がる!

 そう思って湯船から出ようとした俺の肩を美羽が抑え付けた。


「ダメだよ。別に逆上せたりはしないよね?」

「……………」

「しないよね?」

「……はい」


 いや……このままだと逆上せそうなんですが……。

 結局、俺は美羽に逆らうことが出来ずにそのまま上げかけた腰を下ろした。


「ふんふんふ~ん♪」


 鼻歌を口ずさみながら体を洗う美羽を俺は見たりせず、必死に目を閉じて菩薩のごとく頭の中で素数を数える。

 いやいや、美羽の言葉なんて無視をして出ればいいだろって思われるかもしれないけど、それは実際にこういう状況を経験してないからこそ簡単に言えるんだ……意外と妹の圧ってのは強いんだぞ?


「よしっ! それじゃあ入るねぇ」

「……うっす」


 美羽はそのまま俺の隣に腰を下ろした。

 二人分の体重によってお湯が若干溢れてしまったが、そんなものはこの緊張した場面においては些細なものだった。


「兄さんガチガチじゃない?」

「……いや、そりゃそうなるだろ」

「……その緊張はさ」


 グッと美羽が顔を近づける。

 肩に直接触れる彼女の柔らかさに意識が集中しそうになり、下半身に向きそうになる意識と血流をどうにか堪える。

 髪の毛から滴る滴が妙に色っぽく見えるし、彼女から香る石鹸とトリートメントの香りも興奮を煽るかのようだ。


「あたしのせい?」

「……っ」


 俺はそこでキレた……いや、キレたというのは少々違うか。

 別に彼女に怒ったわけではなく、こういう機会だし大きな声を出しても誰も聞く人が居ないというのもあって、俺は思いっきり彼女に伝えることにした。


「美羽、お前は自分がどれだけ魅力的かを自覚しろ!」

「兄さん……?」

「俺はお前の兄として贔屓目は当然ある! いいか!? お前は可愛いし美人だしスタイルが抜群でエロいんだよ! 俺だって男だし理性が吹っ切れたら襲い掛かる可能性もゼロじゃねえ! だから……だからよぉ! あんまり俺を揶揄うんじゃない!」

「……………」


 一気に言い切ったらスッキリしたわ。

 とはいえ……流石に妹に対して直接エロいって言ったのはキモかったかもだけど、一応は俺の決意表明としてちゃんと言っておかないとな。

 まあ美羽も俺の性癖というか、妹ギャルもののエロ漫画が好きなこととかを受け入れてくれているのでまあ……いやいや、にしてもこれは恥ずかしいぞ!


「……まあでも」

「え?」


 ただ、もう一つだけ思うこともあった。


「こんな風に一緒に過ごしてくれるっていうか、風呂に入るのってお互いに裸になるわけだろ? そうなっても良いくらいに俺のことを信頼してくれてるってのは凄く嬉しいよ。俺さぁ……うん、美羽のこと大好きだわ」


 これもまた、俺の心に宿った正直な気持ちだった。

 パシャっと水しぶきが飛ぶくらいに美羽は驚いた様子を見せたものの、すぐに満面の笑みを浮かべて飛び付いてきた。


「兄さん!!」

「のわっ!?」


 顔面に生パイが襲い掛かってきた。

 濡れている柔らかさが少々息苦しかったが、羞恥とかそういうのを一切捨てればそれは正に天国のような感触だった。

 美羽はよく俺に体を押し付けてはくるものの、こうして直というのは今までなかっただけに……本当にマズイ。


「……えへへっ♪」

「っ!?」


 しばらく抱き着いていたかと思えば、体を離して彼女は微笑んだ。

 そのあまりにも綺麗すぎる微笑みに俺は今まで以上に心臓が跳ねたが……このドキドキはきっと、今の状況が少なからずあるはずだ。


「注意はしても嬉しかったって認識で良いんだねぇ?」

「……………」


 これ、もしかして母さんたちが帰って来るまでずっとこんな感じですかね……?

 それから数分ほど俺は美羽と一緒に湯船に浸かっていたが、上がる頃にはもう緊張は薄れていたし何より兄妹としての楽しい話でこれ以上ないほどに盛り上がった。




【あとがき】


一応今作品は中編なので、気持ち良くサクッと終わらせられればと思います。

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