胸を張れよ妹よ

「ねえ兄さん?」

「……なんだい妹よ」

「なんかガチガチじゃない?」

「……………」


 妹よ、そなたは残酷だ……。

 今日は休日ということで、美羽に叩き起こされて外に連れ出されているわけなのだが……俺の意識はある一点に集中されている。


「ガチガチだよぉ。まるで男の人のアレが朝にアレになっちゃうみたいにぃ」

「ええい! だまらっしゃい!」

「あんっ」


 少しだけ強く彼女から離れた。

 朝のアレだとか腕を抜いた時の喘ぎ声にも似た声とか……その見た目も相まって俺の中で何かが暴発しそうになるのを必死に堪える。

 いや……美羽はとてもエッチだよ……というかこんな会話を兄に対してする時点でもそうだし、その巨乳を思いっきり体に押し付けたりしてくるのもエッチだよ。

 でもこの子は妹なんだよ! だから……だからクソッタレなんだよ!!


「エロ義妹だなんて酷いなぁ……まあでも、兄さんはあたしのことをエロいって思ってるんだ? ははぁ~ん?」

「……………」


 ゆらゆらと体を揺らし、ニヤニヤと微笑みながら美羽は俺の顔を見上げる。

 俺よりも背が低いため彼女が俺を見上げる形になれば、自然と彼女の豊かな胸の谷間も丸見えだ。

 オフショル……女性のファッションについては疎いので説明は下手だけど、今日の美羽は肩が出るタイプの服に下はホットパンツという中々に肌を見せる姿だ。


(……すれ違う男がジロジロ見てくんだもんな)


 俺としては普段の彼女も可愛い子だと思っている。

 だがこうして学校の友人や外の知り合いが誰も居ないプライベートな時間だとこうして派手な格好をしているので、普段の彼女は自分の魅力を抑え付けているようなものだ。

 しかしひとたび彼女がその魅力を解放するように隠されていた美貌と抜群のスタイルを見せびらかせば……まあこうなるよな。


(別に害があるわけでもないし……というか……俺自身も美羽のこの姿を嫌だとは思わないんだよなぁ)


 それもこれも友人が進めてきた妹ギャルの話のせいだ……はぁ。


「ほら兄さん。浮かない顔しないで楽しくしようよ。妹とのデートなんだよぉ?」

「……そうだなぁ。なあ美羽」

「なに?」

「その……俺なんかとデートして楽しいのか?」


 そう聞くと、美羽はポカンとしたように目を丸くした。

 俺は父さんと同じで平凡顔だけど、美羽は母さんの血を色濃く継いでいてとんでもない美少女だ。

 いくらイジメから助けたとはいえ、その後に必死に心のケアをしたとはいえ……俺のことを慕ってくれるのは嬉しいのだが、本当に俺なんかと一緒に居て楽しいかと疑問は残ってしまう。


「もう! そんなことを気にしてたの? あたしを見て楽しくなさそうとか少しでも思ったんだとしたら兄さんはとんでもない節穴だよあり得ないスカポンタン!」

「わ、分かったから……叩くんじゃない!」

「ダメ、後百発叩く」

「容赦ないな!?」


 なんてやり取りを人並みの中でやればそれなりに視線を集める。

 お爺さんやお婆さんは微笑ましそうにしてくれるのだが、若い男性であったり同い年くらいの男子は羨ましそうに……或いは嫉妬の炎が宿った視線を向けてきたりと大変である。


「あ、美羽」

「え――」


 俺はふと、美羽の体を抱き寄せた。

 驚いたように俺の胸元に吸い込まれた美羽はボーッとするように俺を見上げたが、俺は別にただ妹を抱き寄せたくてこうしたのではない。


「おっと、坊主に嬢ちゃん悪いな」

「良いっすよ~」


 ちょうどカートに荷物を乗せたおっちゃんが通ったからだ。

 荷物をかなり高く積んでいたのでワンチャン見えないんじゃないかと思い、こうして美羽を抱き寄せたら案の定だ。


「あ……そういうこと?」

「あぁ。ってごめんな……わざわざ抱き寄せなくても軽く引っ張れば良かったか」


 パッと俺は美羽から離れた。

 まあこれくらいで美羽が怒ったりしないことは分かっているのだが、やはり抱き寄せるというのはオーバーと思ったからだ。


「そんなことないよ。ありがと兄さん♪」

「……おう」


 ……ま、この可愛い笑顔を見れたのなら良しとしよう。

 それから俺たちは気の向くままにデート……ただ一緒に過ごすだけだが男女が一緒に出掛けたらデートなのか――を楽しみ、箸休めのように訪れたのは本屋だった。


「あたしあっちのファッション雑誌見てるねぇ~」

「あいよ~」


 一旦美羽と別れ、俺は読んでいる漫画やラノベのチェックに入る。

 積み本も多くて買いすぎると結局読まなくなるパターンなのだが、それでも取り敢えず買っておくのが俺という人間だ。

 そんな風に何冊か手に取って会計に向かおうとしたところ、ちょうど俺はエッチな漫画がずらりと並ぶゾーンに入った。


「……あ」


 ジッと眺めていると俺はある漫画を見つけた。

 それは友人が俺に最高にエッチなだけじゃなくて面白いからと貸してくれた本、妹ギャルとのラブラブエッチな日常を描いた漫画だった。

 俺は自然とその本を手に取り、ボソッと呟いた。


「こいつに俺の性癖は壊されちまった……」


 そうなんだよ……こいつのせいで俺の性癖は歪んだ。

 性癖が歪んだというと別にこういうプレイがしたいとかそういうのではなく、単純に女性の好みというか……まあ現実に侵食はしてないけど、ネットの広告なんかで見つけたらポチッとしてしまうくらいには歪んじまった。


「妹ギャルもの……う~ん、ここにしかない栄養素があるな」


 そう、俺は妹ギャルもの……並びにギャルが出る系の作品にのめり込んだ。

 ギャルと言っても黒ギャルとかそういうのではなく、軽いライトなギャルというかまあとにかく可愛いんだこれが。


「オタクに優しいギャル然り、主人公にのみ心を開くギャル然り……この作品の妹も本当に可愛い」


 この作品の妹はヤリマンではあるのだが、主人公と一線を越えることで本当に大事なモノに気付き、主人公もそんな彼女のことを大切に思うようになる作品だ。

 この作品に関しては妹が援助交際なんかをしてる過去の描写もあったがライトに描かれているのもあったがそれを帳消しにしてどうでも良くなるほどのイチャイチャラブラブ漫画――それがこいつだ。


「あ、この漫画兄さんの部屋にもあるよね」

「おうよ。この漫画めっちゃ面白くてさ! 妹がエロいし可愛いし……もうとにかくイチャイチャラブラブ……はっ!?」


 マズイ……俺は壊れたブリキのようにゆっくりと声の方へ視線を向けた。

 にんまりと笑う美羽が俺を見ており、その表情は凄いモノ見ちゃったなぁと完全に俺のことをこれから揶揄おうとしている目だった。


(……って、なんか似てるな……?)


 一瞬、本当に一瞬俺はそう思った。

 この漫画のヒロインである妹ギャル、そして目の前に居る美羽がどこか同じというか似た者に見えてしまった。

 もちろんどちらも超が付くほど可愛いしスタイルも抜群でエロい……それだけでなくて、雰囲気も似ているというか……。


「兄さん? もしかしてこのヒロインとあたしが似てるとか思ってるのぉ?」

「っ……思ってねえよ!」


 サッと俺は本を棚に戻し、買う予定の本を手にレジに向かった。

 レジで会計をしている最中、男の店員さんがチラチラと美羽を見ていて……ちゃんと仕事をしろよと思いつつも、どこか見てんじゃねえよとイライラしてしまう。

 本屋を出た後、俺はそういえばと美羽に聞いてみた。


「なあ美羽」

「なに?」

「あの本……一応エロっていうかR18なんだけど……読んだのか?」

「うん。というか最近の若い子供にR18って言葉はないようなもんでしょ」


 それは確かに……とはいえ、義妹に妹もののエロい本を読まれた俺としては羞恥心が凄まじいんだが……死にたい。


「……あ」

「どうし……た?」


 美羽が足を止めたので、どうしたのかと俺も彼女の視線の先に目を向けた。

 そこに居たのは俺にとって覚えのある顔……集団の先頭を歩く派手な女、そいつはかつて美羽をイジメた主犯格だった。

 高校が違うとはいえやはり広い街の中、出会うこともあるだろう。


「だ、大丈夫だよ。あたしにとってはもう――」


 俺は何も言わず、美羽の肩を抱いた。


「兄さん……?」

「あいつに今の美羽は分からんだろ。胸を張って近くを歩いてやろうぜ? あんな性格の悪い女なんかよりも、俺の妹はこんなに可愛くて良い子なんだって見せ付けてやりてえんだ」

「……もう、今のあたしが分からないって言わなかった?」

「言ったさ。でも俺の隣を歩く美羽が妹には変わりないからな」

「そうだね……あははっ、そうだね!」


 別に絡むわけじゃない。

 俺と美羽は堂々と奴の前を歩く――俺の顔にもしかしたら覚えがあるとは思ったけど、奴は俺なんかよりも美羽の方を見ていた。

 自分よりも輝く美羽の姿に嫉妬するような、そんな目をしていた奴に俺は心の中でどんなもんだよと笑ってやる。


「兄さん……かっこいいよ」

「……おうよ。お前の兄だぜ?」

「うん♪」


 ……こういう時、妹の可愛さに悶絶しそうになるのもお約束だ。



【あとがき】


完全に好みのヒロインとなっております。

読者の皆さんに可愛いとか思われれば幸い!

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