第232話 悩み
「それじゃあ、次はハリンさんのモデルがしっかり動くか確認していきますね」
全員に企画の説明が終わった後、イチタ君とニタ君を太陽に任せて、来夢には家に戻って来てもらった。
今は全員の3Dモデルがしっかり動くかの確認をしている。
最初に全員が画面に映り、モデルがしっかり動く確認した後、個人のモデルを細かくチェックしている。
今回の3DLIVE配信で使用するアプリは『3DLL』というアプリで、いつも僕が使っているアプリの3D版である。
来夢が新しく作ったアプリの1つ。
これがあればトラッキングスーツを着る必要なく、3D配信をすることができる。
「うん。これがこれで、あれがあれだね」
「ここの部分、少し待開けた方が良いか……」
3Dモデルの確認をしている間は、僕たちライバーは休憩時間だが、『1234』の4名はお手伝いするために作業をしている。
獅喰蓮さんは機材の使い方を、来夢の作った機材説明書を読みながら覚え、楓さんは台本にある自分のセリフを読み込んでいる。
ギャイ先生は僕の部屋で最後の仕上げを、紅葉さんもやらないといけない仕事があるとのことでギャイ先生と一緒に僕の部屋に向かった。
作業をしている獅喰蓮さんたちの邪魔にならないように、ライバーはスマホをいじったり、隅の方で話したりしている。
ミルさんに関しては勉強をしており、成績優秀ないばらさんやフータさんなどが付きっ切りで手伝いをしている。
平和に時間が過ぎていく中、僕のスマホから電話の呼び出し音がスタジオ内に鳴り響く。
急いで音を下げようと、スマホの画面を見ると、電話をかけてきたのは今年の3月まで通っていた中学校からの電話だった。
急いでスタジオから出て、電話に出る。
『こんにちは、久遠保仁くんの携帯でしょうか?』
「え、……あ、はい、久遠保仁です」
一瞬自分が久遠保仁であることを忘れかけていた。
『あ、お久しぶりです。えーっと、保仁くんが3年生のころ社会科を担当していた船津です。覚えてますか?』
「はい、覚えてます。船津先生にはよくしてもらったので」
船津先生は僕が高校受験をすると言った時に、反対しなかった先生の1人だ。むしろ放課後の貴重な時間を僕の勉強のために当ててくれたとても優しい先生である。
『実は保仁くんに大事な話があるんだけど、明日から12月25日までで来られる日ってあるかな?』
「大事な話……ですか?」
『そう。簡単に言うと保仁くんのこれまでとこれからについての話を1,2時間ほどしたいんだよね』
「……なるほど、分かりました。僕は明日でも大丈夫ですよ」
『……明日ね。それじゃあ明日の10時に学校に来てくれるかな? できれば保護者も一緒だと嬉しかったんだけど……』
「すみません。母さんや父さん、兄さんはともかく、今は義姉さんも東京の方に行ってて」
『あー、了解。それじゃあ明日10時に学校にきてね』
「分かりました。失礼します」
『わざわざ時間取らせてごめんね』
そのまま通話は切れ、マナーモードに設定してからスタジオに戻る。
現在はラノさんが3Dモデルのチェックをしているようだ。
少し離れたところに座ると、ハリンさんが僕の横に座ってきた。
「ヤマト、誰から電話だったんだ?」
「中学の先生ですよ。何でも大事な話があるらしく明日学校に来てくれ、とのことです」
「それじゃあ明日は……」
「ですね。リハーサルなどは午後からになります」
「ふーん、でもなんで中学の教師が今更ヤマトに用があるんだ?」
「……まぁ、なんとなく想像は尽きますね」
「ふーん」
ハリンさんはそれ以上何も聞かずにスマホをいじりだした。
船津先生が一番僕と話したい内容はある程度見当はついている。
その内容は、多分僕の集中力をかなり削る内容だ。
だから一番時間が早い明日に時間を作ってもらった。
でないと、明日からのリハーサルで集中出来ない自信がある。
ただ、僕自身その件に関してはどうしようか迷っているため、明日で結論が出せるか不安だ。
どうしたものかと悩んでいると、先ほどまでミルさんの勉強を見ていたフータさんが気付かぬうちに僕の目の前まで来ていた。
「ヤマト君。まだ夕食には早いけど、そろそろ準備をした方が良いんじゃないかな? 人数が人数だから早いうちに作らないと、完成が遅くなってしまうと思うんだ」
「あ、確かにそうですね。すみません。今から晩御飯作りますので、少し失礼しますね」
「ヤマト君一人だと大変だろう。僕も手伝うよ」
「え、でも……」
「大丈夫、家ではよく作ってるからね。それにヤマト君と少し話してみたいと思っていたから」
「……分かりました。ではお手伝いの方お願いします」
「任せて」
フータさんと一緒にスタジオからキッチンに移動した。
今日の夕食はカレー。
人数が多いため、いつもは甘口のみだが今回は中辛も作る。
「それじゃあ最初にジャガイモの皮からむいていきましょうか。僕は包丁で向くのでピーラーはフータさんが使ってください」
「ありがとう」
フータさんにピーラーを渡して、お互いに黙々とジャガイモの皮をむいている。
僕と話してみたいと言っていたフータさんだが、一向に喋る気配がない。
僕が包丁を使っているから遠慮している可能性がある。
ジャガイモの皮を十数個向いた後に少し休憩すると、フータさんがようやく口を開いた。
「ヤマト君でも悩んだりするんだね」
開口一番の言葉に僕は少し驚いてしまった。
「悩みでもあるの?」ならわかるが「悩んだりするんだね」と決めつけられていた。
しかもそれが当たっているときた。
「そう、見えます?」
「うん。クイズ大会の時はもっと生き生きした表情だったのに、今はかなり曇っている」
「あはは、実は人が集まってもうすぐLIVEなんだと思うと緊張しちゃって……」
「その気持ちもわかるけど、悩みはそんなことじゃないよね」
「……」
フータさんには別のことで悩んでいることが完全にばれている。
流石は最年長者と言ったところか、人を見る目が凄い。
でも、ここでフータさんに話したら楽になるかもしれない。
そう思い、フータさんに悩みを打ち明けようとしたとき、フータさんが先に口を開いた。
「おじさんに話してみない? ……なんて言わないよ。悩みは人に打ち明けるといいって言うけど、打ち明けられない悩みもあるからね」
「……」
「ただ、僕から言えることは1つ。これは君の人生だ。大いに悩み、自分で満足いく結果を出しなさい。もしその過程で相談したいんだったら僕はいつもでも相談に乗るよ」
「……ありがとうございます。少し気持ちが楽になりました」
まだ悩みは片付いていないけど、今はこれでいい。
僕はこの悩みを真正面から受け止めることにした。
「なたよかった。それじゃあジャガイモむきを続けようか」
「はい!」
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