第231話 台本打ち合わせと裏方スタッフ
自己紹介が終わった後、皆をスタジオまで案内した。
スタジオまでの通路はほんの少し寒かったが、スタジオ内に入るとそこまでの寒さはなかった。
前もって暖房をつけていたのが効いている。
全員をスタジオの中に入れて、今回のライブ会場を確認してもらった。
「思った以上に……大きいね」
「はい。100万人突破記念ライブをしたとき、縦横の幅をめいっぱい活用して踊りましたけど、全然余裕がありました」
「……つばさちゃん、この中で最もLIVE経験が豊富なあなたに聞きます。この広さなら最大で何人踊れるか分かりますか?」
「内容によりますね。ヤマトさんの縦横の幅を大きく使うんだったら最大2人。特定の小さい位置で踊るのであれば……5人までが余分にスペースをとれるサイズって感じですね。6人でも問題ないと思いますけど、そうなるとダンスが小さくなります」
つばささんの経験による言葉に僕はただただ「ほへ~」と口を開く。
一応今回のLIVEでは5人で踊る歌も入っていただけに、つばささんの言葉には一安心する。
「あっ! 忘れてた!?」
一安心して、今回のLIVEのことを思い出して、あるものを渡すのを忘れていた。
「すみません、入り口付近に紙の束ありませんか?」
「……ああ、ホッチキスで束ねられた紙か? それならあるぞ」
「よかった。ラノさん、その紙台本なんですけどここにいる皆さんに配ってもらえませんか?」
「配ればいいんだな? 任せろ!」
「お願いします」
ちょうど入り口付近にいたラノさんに頼んで台本を皆さんに配ってもらう。
全員に行き届いたのを確認したら、付属のソファに座ってもらい台本に目を通してもらう。
「……あ、ミルさん、感じとか大丈夫?」
「はい! 昔おばあちゃんに漢字をたくさん習っていたので漢字には自信があります!」
「そう、ならよかった」
ミルさんが『昔』と言った事には誰も突っ込まなかった。
いや、天真爛漫な笑顔に誰も突っ込めなかった、と言った方が正しい。
全員が一通り目を通したのを確認して、早速打ち合わせに入る。
「えー、まず、1枚目を見てもらったら分かる通り、今回の配信は合計2時間になります。配信の進みは、一つの企画をやった後に踊ったりする、という形ですね。ただ、全員参加と書いている企画の後はすぐに別の企画をする、ことになっているので注意してください」
「なるほど。それじゃあ僕たちは自分の名前が書かれているページと『全員』と書かれているページを確認すればいいのかな?」
フータさんの質問に僕は頷く。
流石は最年長者。
僕が質問してほしいと思ったことを聴いてくれる。
「そうです。少なくとも1人2回以上は出番がありますので見逃さないようにお願いします」
今回のLIVE配信では『全体』で行う企画が一つだけあり、踊りに関しては全員出番があるので、2回は企画に参加してもらうことになる。
「名前が書かれていない時間は休憩時間になりますが、休憩は今いるスタジオ内の方でお願いします。他に質問はありますか? なければ企画の打ち合わせに移りますが」
「あ、じゃあ自分いいでしょうか?」
「ジンさん、どうぞ」
「この裏方スタッフのところなんですけど、ヤマトさんの妹さん、の他にスタッフ4人と書かれているんですけど、この4人って誰なんでしょうか……」
それは台本の1ページ目のところ。
そこには今回参加してもあるゲストの名前の他に、神無月恋夢、その他4人と書かれている。
今回のLIVE配信、13人いるタレントに裏方が来夢1人だと流石にきついと思い、父さんや母さんに声をかけてみたが、父さんは人が多いためパス、母さんは仕事のためパスとなり、ダメもとである4人に頼んだところ、少し長い値段交渉を経て了承してもらえた。
ただ、台本を作ったときはまだ出来るかどうかわからなかった状態だったので、その他4人となっている。
「その他4人についてですが——」
その他4人の名前を告げようとしたとき、家のインターホンが鳴るのが聞こえた。
どうやら今着いたようだ。
「……ヤマト、妹ちゃんから鍵貰ったから入っていいかってメッセージ来たんだけど、入れていいか?」
「お願いします。ここに来るように送ってもらってもいいでしょうか?」
「オッケー」
玄関に向かおうとしたときにハリンさんにそう告げられ、足を止めて元の場所に戻る。
今日か明日になると聞いていたが、今日来てくれてよかった。
しばらく待っていると、スタジオの扉が開かれ、今回のスタッフ4名が入ってきた
「お邪魔しまーすって、広っ!? てか多っ!」
「え、こここ、こんなに、多いなんて、聞いて……ない」
「モミジン。寒いから早く入って」
「ごめんねヤマトさん。遅れたかな?」
「大丈夫ですよ。むしろ明日来ると思って進めていたので問題ないです」
入ってきた人たちを見てほとんどの人が驚きを隠せていない。
あのフータさんやいばらさんですら身を後ろの方に引いて、周りを見渡している。
唯一驚いていないのは来ることを知っていたハリンさんくらいだ。
「えーっと、今回裏方として手伝ってくれる『1234』の皆さんです。自己紹介お願いしてもいいですか?」
「はい! 『1234』リーダー兼Mytuber兼スタッフの『1234』の『4』獅喰蓮です。よろしくお願いします!」
「『1234』副リーダー音声担当兼声優兼今回の司会進行担当の『1234』の『3』三条ヶ原楓です。よろしくー!」
「『1234』こ、コスプレ担当兼ヤマト様親衛隊000002の『1234』の『2』……二又紅葉、です。ひ、人見知りで、小心者、ですが、……よろしく、お願いします」
「『1234』同人制作並びにイラスト担当兼漫画家の『1234』の『1』一ギャイ。よろしく」
全員の自己紹介が終わったところで、視線をフータさんたちの方に戻すと、何人かは拍手をしていたが、ほとんどが未だに放心状態だった。
その中でもヤバいのがジンさんだ。
楓さんたちが入ってきたタイミングで立ち上がり、今は立ったまま涙を流している。
流石にこれには僕も戸惑ってしまう。
「ふ、フータさん。ジンさんはどうしたんですか?」
「ああ、ヤマト君は知らないんだね。ジンの妹がVtuberオタクならジンは声優オタクなんだ。だから目の前に本物の三条ヶ原楓さんが来て感極まっているんだよ」
「なるほど……」
それでも涙を流すほどか? と突っ込みたくなるが、それは人それぞれなので何にも言わない。
ただ、幸せであるんだったらそれでいい。
流石にこのままだと話が進まないので、手を叩いて皆の正気を取り戻す
「皆さん、正気に戻りましたね。今回は『1234』の皆さんに裏方として手伝ってもらいます。今回は忙しい中僕のお願いを聞いてもらいここにきているので、くれぐれも無茶なお願いをしないでもうと助かります」
「あ、ヤマトさん、その辺は大丈夫だよ。今回は一応商売として参加しているから、少しお金を払ってくれたらある程度のお願いは聞くよ」
「ほぉ、それはまたどうして」
「……『ひふみよ感謝祭』の規模を大きくし過ぎたせいで、今金欠なんだよね」
「……そ、そうですか。ということなので、何かしてほしいことがあったら獅喰蓮さんに頼んでください」
道理で値段交渉で時間がかかるわけだ。
今回のLIVEで僕がお金を払ったのは6か所。
ガーデンランドに数十万。
ごろろっくに数十万。
ニュー・チルドレンに数万。
『1234』サークルに対して百数十万。
楓さんの所属する事務所に数十万。
イラスト代でギャイ先生に十数万。
合計でいくらかかったかはわからないが、僕の企画史上最高額のお金が動いている。
元々ほとんど手を付けていないお金が通帳にあったため、まだ懐には全然の余裕はあるが、それでも今回支払った額は、僕の中の何かが狂いかけた。
「では『1234』さんたちも来たということで、早速企画内容についての打ち合わせをしたいと思います」
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