第230話 自己紹介
嵐子さん……ハリンさんも家に来て、これで今回のゲスト全員が集まった。
ガーデンランドからラノさん、つばささん、いばらさん、ライガさん、イロハさん。
ごろろっくからフータさん、キラリさん、リューティーさん、ジンさん、真冬さん。
ニュー・チルドレンからミルさん、個人勢のハリンさん。
ゲスト総勢12名となった。
「それじゃあ私、隣に行ってるから何かあったら呼んでね」
「うん」
「妹さん、イチタとニタの事よろしくお願いします」
「はい! 任されました!」
来夢はイチタ君とニタ君を連れて水無月家へと向かった。
これでこの家には僕たちだけがいる状態になった。
来夢が出て行くと全員がなぜか静かになる。
一先ず会話をするために僕はある提案を持ち投げた。
「それじゃあとりあえず、初対面の人もいることですのでお互いに自己紹介から始めましょうか」
「それがいいね。僕自身Vtuberになって数年たつけど、初対面の人がそこそこいるから。いばらさんもそれでいいかな?」
「問題ありません。順番どういたしますか?」
「こういうのって新人からが普通なのかもしれないけど、大人相手に子供を最初に自己紹介させるって言うのは少し気が引けるね……」
フータさんといばらさんが順番をどうするか話し合う。
一見どうでもいい問題のように見えるが、かなり重要な問題だ。
新人が一番最初に自己紹介しないといけないかどうかはさておき、いきなり小学生のミルさんがこの面々に対して自己紹介するのは申し訳ない。
現に、初対面となる大人たちに囲まれているミルさんは緊張でがちがちだ。
ここは大人たちが彼女の緊張をほぐしてあげないといけない。
「だったらデビュー順でいいんじゃないですか? 最初にオレたちガーデンランドがしてそのあとにごろろっくさん。で、小学生2人した後、最後にヤマトで」
「…………」
順番について考えていると、ソファでくつろいでいたラノさんが妥当な提案をしてきた。
最後に余計な言葉を付け加えて。
場が一瞬で寒くなる。
ハリンさんの年齢を知っているリューティーさんやキラリさんは横目にハリンさんを見ており、フータさんはラノさんの発言に苦笑いを浮かべている。
つばささんもハリンさんの年齢を知っているのか、体をハリンさんの方に向けて小さいく頭を下げている。
当のハリンさんはものすごい笑顔だ。
明らかに作り笑いと分かるほど口角が上がった笑顔。
この空気を換えるかのようにいばらさんがすぐに自己紹介を始めた。
「ラノちゃんの言う順番でしましょうか。まずは私から、ガーデンランド所属の棘野いばらです。チャンネル登録者数は86万人。気軽に下の名前で呼んでください。よろしくお願いします」
いばらさんのおかげで、自己紹介の流れが『所属、名前、チャンネル登録者数、一言』という風に決まった。
「デビュー順だから次はオレだな! ガーデンランド所属の竜田ラノだ。今のチャンネル登録者数は確か108万人だったな。ちょっと男っぽいところあるけど普通の女子だから、小学生2人は気軽に声かけてくれよな!」
いばらさんが暖かくした空気がまた冷たくなる。
僕としてはラノさんをからかうネタが増えるのは嬉しいが、今はあまりかかわりたくない。
「えーっと、ラノちゃんと同期のガーデンランド所属、翼竜つばさです。チャンネル登録者数は96万人です。新人さんもいる事なので、先輩としてお手本になれるように頑張りたいです。よろしくお願いします!」
ラノさんが冷たくした空気を再び戻してくれた。
つばささんの自己紹介にはどこか、『ラノちゃんのことはあまり気にしないでください』と言っているように聞こえる。
「ガーデンランド3期生の獅童ライガです! チャンネル登録者数は78万人。ヤマト様親衛隊000687です! ヤマト様の生誕祭に呼んでいただいたことをとても光栄に思っています! 足を引っ張らないように頑張りますのでよろしくお願いします!」
周りの人に元気を与えるかのようなライガさんの挨拶。
ライガさんの挨拶のおかげで、明るい空気になっただけではなく、ミルさんの顔から緊張の色がなくなっている。
「ガーデンランドのトリはワイやな。ワイは赤音イロハ! チャンネル登録者数は87万人! もしこん中に野球好きがおったらあとで対談しようや! よろしゅうな!」
最後にマイペースすぎるイロハさん。
この人がラノさんの後じゃなくて本当によかったと思った。
もし後だったときの空気がどうなるかと思うと、……想像もしたくない。
「次は僕たちだね。ごろろっく所属の音無フータです。現在のチャンネル登録者数は確か57万人、だったかな。一応この中だと最年長ということになるので、事務所とか関係なくいつでも頼ってください。よろしく」
最年長らしいしっかりとした挨拶。
いばらさんもそうだったが、ベテラン勢は自己紹介にも雰囲気がある。
「ごろろっく所属の鬼頭キラリです。チャンネル登録者数は125万人。ヤマト様親衛隊000023です。今回のメンバーの中では3番目の先輩になりますが気軽に接してくれると嬉しいです。よろしくお願いします」
キラリさんらしいしっかりとした挨拶。
各事務所最年長を除いたらつばささんと同じくらいしっかり者だ。
とても安心できる。
「ごろろっく所属のジンです。チャンネル登録者数は39万人。実は妹が重度のVtuberファンで、出来れば皆さんに1枚ずつサインをもらえるとありがたいです。よろしくお願いします!」
これまでで一番気合の入った『よろしくお願いします』が飛び出した。
流石は重度のシスコン。
だけどその気持ちは少しわかる。
僕も来夢に頼まれたら、断ることなんてできない。
「ごろろっく所属の真夏真冬です。現在のチャンネル登録者数は56万人。ヤマト様親衛隊000129です。こうして今回ヤマト様の生誕祭に呼ばれた事、心よりうれしく思います。いろいろ語りたいことがありますが、全て話していたら5時間は語れますので、一言。ヤマト様への愛ならだれにも負けません! よろしくお願いします」
ものすごく重いラブコール。
それだけ僕のファンだということは分かったが、5時間は流石に重すぎる。
「ごろろっく所属のリューティー・アービスです。チャンネル登録者数は148万人。ヤマト様親衛隊015874と、今回参加している親衛隊の中ではかなり数字が多いですが、ヤマト様への思いは数字ではなく、気持ちだと思っています。皆さん、よろしくお願いします」
「フッ」
リューティーさんは、右手で握りこぶしを作り自身の心臓を強く推す。
その行動はリューティーさんがすると物凄く様になっていた。
だがその言葉を真冬さんは鼻で笑った。
何を争っているか当人である僕は分からないが、本人たちが楽しそうで周りに迷惑が掛からないならよしとする。
これで、2つの事務所の自己紹介が終わった。
残りは僕、ハリンさん、ミルさんの3人だが、僕は最後にした方が良い。
ハリンさんに関しては空気を悪くする可能性があるため、ここはミルさんがするべきだと思う。
「この流れだと、先に事務所所属の人が先にやった方が良いと思うけど、ミルさん、出来そう?」
「は、はい! 先ほどまで緊張していましたがもう大丈夫です!」
軽く声をかけてみると、ミルさんは自信の番が来て少し緊張しているようだが、問題なさそうだった。
「にゅ、ニュー・チルドレンから代表できました! 奥間ミルです! チャンネル登録者数はまだ259人で、皆さんと比べるとまだまだですが、今回呼んでいただいたからには足を引っ張らないように一生懸命頑張ります! よろしくお願いします!」
ミルさんの元気のいい自己紹介に拍手が起こる。
暖かい拍手に自己紹介を終えたミルさんは、安堵した表情を浮かべていた。
そして、ついに問題の人の出番になる。
「皆さん始めましてぇ! 個人勢の雨猫ハリンですぅ」
ハリンさんの自己紹介は、女児のような甘ったるい声から始めった。
いつもの彼女を知っている僕からしたら、ものすごく違和感しかない。
笑いをこらえるので精一杯だ。
「チャンネル登録者数は105万人です! 今回はヤマトママのために精一杯頑張ります。デビューしてまだ1年もたっていない若輩者ですが、ご指導ご鞭撻の方よろしくお願いします! それと、私の年齢は20なので、お間違えないように、お・ね・が・い・します!」
ソファでダラッとしていたラノさんが固まる。
ハリンさんが20だったことに驚いているようだ。
対する僕も少し驚いていた。
僕の記憶ではハリンさんは19歳だったはず。
知らない間にハリンさんはお酒を飲める年齢になっていた。
「最後は僕ですね。皆様、今回は集まっていただいてありがとうございます。個人勢の神無月ヤマトです。チャンネル登録者数はえー、先日180万人を超えました。今回は僕の生誕祭ということで、最高のLIVEにしたいと思っていますので、協力の方よろしくお願いします!」
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