第229話 ごろろっくとニュー・チルドレン
インターホンが鳴ったので、玄関からドアスコープを確認すると今度は5名の男女と男の子2人が立っていた。
「皆さんお揃いでお疲れ様です。遠いところからわざわざありがとうございます」
「こちらこそ、今回は呼んでくれてありがとう。僕の子供たち共々お世話になるよ。さぁ、2人ともヤマト君に挨拶するんだ」
「初めまして、イチタです!」
「ニタです!」
久しぶりに会ったフータさんは、まさかの今回子連れでの参加となった。
なんでも奥様が海外に一週間出張とのことで、最初は不参加の予定だったが僕の方から子供たちも一緒にと了承したことで子連れ参加となった。
本番当日は太陽にお世話してもらうことになっている。
「や、ヤマト様、お久しぶりです。お、俺のことは覚えてらっしゃいますでしょうか!?」
「はい、お久しぶりです、リューティーさん」
「お、覚えてもらってた!!」
「あれ? 前回一緒した時と雰囲気が違うような……」
前回一緒した時はもう少し砕けた感じがあったのに、今では他の親衛隊と同じような態度になっている。
どうしてか気になっていると一緒に来ていたキラリさんが教えてくれた。
「ここに来るまでリューティー君不安がってたんです。もしかしたらヤマト様に忘れられているんじゃないか、忘れられていたらどうしようって。覚えてもらって一安心したんでしょうね。…………因みに私のことも覚えてらっしゃいますでしょうか?」
「あはは、僕は知り合った人を基本忘れることはないので安心していいですよ。キラリさんもお久しぶりです」
「はぁう~」
何が嬉しかったのか、キラリさんは両手を胸の前に置き笑顔で空を見上げていた。
昇天しかけているキラリさんを放っておき、今回初対面となるお2人に声をかける。
「キラリさん達とは前回ご一緒しましたが、お二人は初めましてですね。神無月ヤマトです。この度はわざわざ遠いところから足を運んでいただきありがとうございます」
「初めまして、ごろろっく3期生のジンです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
ジンさん。
ごろろっく3期生のハーフエルフ。
女の子のような可愛らしい見た目なのに、声はものすごく低い。
見た目と声があっていないVtuber1位と言われている。
本人もそのことを認めており、逆にそのギャップで多くのファンを魅了している。
現在は妹さんと二人暮らしをしているようで、配信でもちょくちょく出てはイチャイチャするという重度のシスコン。
「あの、出来ればでいいんですけど、サインをもらうことって出来ますでしょうか。妹に頼まれてしまって……」
「ええ、大丈夫ですよ」
因みに妹さんは大のVtuberオタクとのこと。
「ジン先輩。もうよろしいでしょうか?」
「え、あ、うん。邪魔だったみたいだね。ごめんね」
「いえいえ」
ジンさんを横に移動させ、1人の女性が僕の目の前までやってきた。
僕はこの人を知っている。
夏休み、来夢が送ってきた写真の中に映っていた女性の1人だ。
「初めましてヤマト様。私、
「軽く喧嘩売られてます?」
「真冬先輩、その呼び方止めてください!」
「ぜひ、私とカップルチャンネルを作りませんか?」
「丁重にお断りさせていただきます」
「そんなっ!?」
断られたことに驚いているが、どうして今ので行けると思ったのか逆に聞きたくなってきた。
真夏真冬。
ごろろっく4期生、17歳の女子高生。
名前に夏と冬が入っているが、好きな季節は秋とのこと。
春は花粉、夏は暑さ、冬は寒いから嫌いとのこと。
配信内容は雑談からゲームまで何でもこなす万能タイプで丁寧な口調とは裏腹に、熱くなると暴走してしまうのが人気の要因である。
何にかにのめり込むと最後までのめり込むタイプのようで、Vtuberになったのも就活ついでに応募したらしく、最初は1年で辞めるつもりだったようだが、思った以上に面白かったようで、現在はVtuberをやめるつもりは毛頭ないとのこと。
「パパ、寒い!」
「あ、すみません。自己紹介なんて家の中でもできましたよね。すでにガーデンランドさんが来てますので是非リビングの方に来てください」
イチタ君とニタ君には申し訳ないことをしてしまった。
いくら宮崎とは言えど寒いものは寒い。
急いで皆を家にあげる。
少し遅れてリビングの方を覗き見てみると、部屋は少し変な空気になっていた。
というのもフータさんといばらさんの保護者組は軽く挨拶を済ませており、ライガさん、リューティーさん、キラリさん、真冬さんの親衛隊組は共通の話題で盛り上がっていた。
イチタ君とニタ君はつばささんが相手をしており、小さいつばささんが2人相手だとお姉さんに見えてくる。
ただ、本来騒がしいはずのラノさんとイロハさんが静かで、ジンさんに関しては挙動不審に陥っていた。
カオスとなってきたこの状況、どうしたものかと見つめていると再びインターホンが鳴り響く。
ドアを開けて外に出るそこにいたのは1人の女の子が縮こまっていた。
「あの、もしかしてですけど
「ひゃ、ひゃい! ニュー・チルドレンから来ました! 奥間ミルです! よろしくお願いしましゅっ!」
奥間ミルさん。
新興Vtuber事務所、ニュー・チルドレン1期生の女の子。
年齢は10歳の小学四年生で、Vtuberデビューしてからまだ半月しかたっていないため、世間認知度はそこまで高くない。
Vtuber事務所ニュー・チルドレンとは、つい最近出来たばかりの事務所でオーディション応募対象年齢は小学1年生から小学6年生までとなっている。
この事務所ができたのは僕が炎上してすぐ後で、トリッターを漁っているときに2期生募集のオーディションを見たため憶えている。
半月前に1期生がデビューすると知り、ダメもとで声をかけてみたところ、1人だけ許可が出た。
それが奥間ミルさんだ。
「わざわざ東京から来てくれてありがとうございます。……親御さんはどちらに?」
「あ、あの、パパとママは仕事があって、日向市にお祖母ちゃんが済んでいるので、今回参加させていただくことになりました」
「そうなんですね。それで、お祖母さんはどちらに?」
「そ、それが……お世話になるのがヤマトさんの家と知ったとたん、安心できると帰ってしまって……」
「えっ!?」
まさかの出来事に驚いてしまう。
僕は出会ったことのない人に信用されるほどのことをしたことがない。
ミルさんの話が本当だとしたらその人は僕が知っている人だ。
「因みにお祖母さんのお名前を聞いてもいいですか?」
「えーっと、み、溝倉はな子といいます」
知っている人だった。
まさか溝倉さんのお孫さんだったとは思わなかった。
だが、溝倉さんのお孫さんなら、僕の家だとした瞬間に安心するのが分かる。
昔から僕は溝倉さんにお世話になっていたし、母さんがいなかった分義姉さんと同じくらい僕たち兄妹のことを気にかけてくれていた。
僕たちにとって溝倉さんは親代わりと言っても過言ではなく、溝倉さんにとっても僕たちは子供と言っても過言ではない。
「よし、事情は分かりました。もうみんな集まってるからミルさんも家の中に入ってください」
「み、みんなって……」
「僕たちにとって大先輩の皆さんです」
ミルさんを家の中に上げドアを閉める。
最後の1人である嵐子さんに家に来るよう連絡をしてからリビングに向かった。
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