第228話 ガーデンランド和気藹々


キッチンからお菓子をも取り出し、リビングに戻るとラノさん以外はこたつで温まっており、ラノさんはソファをじろじろと眺めていた。


「皆さん、お菓子持ってきたので好きに食べてください」

「わざわざありがとうございます。あ、私とは初めてでしたよね。ガーデンランド1期生常識組の棘野とげのいばらと申します。この度はお誘いいただきありがとうございます」

「いえいえ、僕の方こそ、わざわざ遠くまで足を運んでいただいて、こちらこそありがとうございます」


棘野いばらさん。

緑髪ロングヘアーのお姉さん系Vtuberで、その正体はいばらの女王様。

頭にはバラの髪飾りをつけている。

雑談・ゲーム・歌など全てを万遍なくこなす才女で、面倒見がよく料理もうまいと欠点がほとんどない。

ガーデンランドファンが彼女に二つ名をつけるなら『才色兼備メインヒロイン』というほど。

過去に三角トープさんと小盾トカゲさんのコラボ配信で欠点がないか探っていたが、二人同時にいばらさんのメインヒロイン力で完堕ちさせたという逸話を持つ。


「そういやワイもヤマトとは初めましてやったな。どうも、ガーデンランド4期生で非常識組の赤音あかねイロハって言うんや。よろしゅうな」

「よ、よろしくお願いします」

「で、早速聞きたいことがあるんやけど、あんた推し球団何処や?」

「……ツインズです」

「そかそか! まぁ今年もシャークスがもらったけど、ツインズも惜しかったやんけ! 来シーズンも楽しみにし取るけど、4連覇はうちがもらうよ!」


赤音イロハさん

白菊シュウさんと同じ4期生。

赤髪のポニーテールで髪を束ねるシュシュは音符の形をしている。

この人も大の野球ファンで関西ウォーターシャークス推し。

本人曰くシャークス暗黒期から応援しており、現在の3連覇はまるで夢のようだと語っている。

配信内容はゲームが多く、週一で雑談か歌枠の配信をしているが、シーズン中の土曜日曜の昼配信の時は、配信中にも関わらず野球中継に集中してしまうため、非常識組になってしまった。

因みにシュウさんはシャークスファンのイロハさんをライバル視しており、ツインズVSシャークスの時はごく稀に同時コラボ視聴配信をしている。


「いえ、今年こそはツインズがもらいます。それだけの戦力がそろっていますから。簡単には負けませんよ」

「確かに。他の球団も選手がそろってきてるしな。くぅー! 早速来シーズンが楽しみになってきたな!」


推し球団を無理に推すことなく、他球団をしっかりリスペクトしている。

こういう人が増えるとプロ野球ファンの民度はよくなるんだろう。


「あ、私はヤマト君と会ったことありますよ。憶えてますか?」

「はい、お久ぶりですつばささん。収録以来、ですよね? もう五七五はしてないんですか?」

「はい。あれは期間限定の罰ゲームだったので。あ、お菓子いただきますね」


つばささんはこたつでぬくぬくとしながら持ってきたお菓子を食べ始めた。

五七五を言った後に発言するつばささんは可愛かったのにもったいない。


今回ガーデンランドからはこの5名がスペシャルゲストとして参加してくれる。

ラノさん、ライガさん、つばささん、いばらさん、イロハさんの5名、こうしてみるとバランスよく感じる5名だ。


僕もこたつの中に入るが、なぜかラノさんだけこたつに入らずソファを眺めていた。

隅々調べつくすかのように見ている。


「ヤマト、このソファってもしかして……」

「『レイン・ヴァン・ロード』のソファですけど」

「や、やっぱり! 座ってみてもいいか?」

「え!?」

「あ、やっぱり駄目だよな……」


ラノさんは僕が驚いたせいでソファに座れないと思い込んで落ち込んでいるが、僕が驚いたのはラノさんがソファに座ろうとしたことにではない。


「別にソファに座ってもいいですけど」

「ほんとっ!? さっき驚いてたのに何で!?」

「ソファ座るのにわざわざ許可を求めるんだなと思って」

「いやいや、確かに普通のソファなら許可貰わずに座るかもしれないけど、『レイン・ヴァン・ロード』のソファなら許可貰うだろ!」

「そういうものなんですか?」


他の4名にも尋ねてみると、皆同じように首を縦に振った。

自分の家にあるから感覚がくるっているせいか、よくわからない。


ただ、そういうものなんだ、と今は認識しておくことにした。


「あ、ラノさんもお菓子良かったらどうぞ」

「え、あー。ごめん、オレ甘いものダメなんだよね」

「知ってます。なのでこちらをどうぞ」


僕はお菓子と一緒に持ってきた小包をラノさんに渡す。


「これって……」

「甘いのが苦手なラノさん用に作った甘くないお菓子です。ラノさんにはいつもお世話になっているので」

「ありがとう! 早速いただくな!」


小包を受け取ったラノさんは中からクッキーを取り出し、1つ口に運んだ。


「……どうですか?」

「うん! 苦くておいしい! 正直からかって甘いものが入ってるんじゃないかとドキドキしたけど……」

「流石にそこまではしないですよ」


からかえるのは信頼あってこそ。

からかってばかりいたら信頼は薄れていく。

信頼のない相手にからかわれたら僕でも嫌な気持ちになる。


ラノさんと今後もいい付き合いを続けていくためにはそこの按排をしっかりしないといけない。


この時僕はラノさんの事だけを考えていて、もっとも僕のお菓子が欲しいであろう人を失念していた。


「ヤマト様! わ、私の分の手作りお菓子は……!?」

「え、……あ」

「……そ、そうですよね! 甘いのが苦手なラノ先輩のために作ったんですから、私の分なんてないですよね!」


強く期待していたのだろう。ライガさんの目には小さな涙粒が浮かんでいた。


「だ、大丈夫ですよ! お菓子はありませんが、夜は僕が作りますので!」

「ほ、本当ですか!?」

「はい」


晩御飯担当が僕と分かってから、ライガさんの涙粒は消え笑顔が戻る。

本来は僕と料理ができる人数人でカレーを作ろうかと思っていたが、まぁ良しとしよう。


「ごめんなさいヤマトさん。ライガちゃんがわがまま言っちゃって」

「いえいえ、大丈夫ですよ。そもそも僕がを特別扱いしてしまったことが原因なんで」

「あれ? なんかヤマト、オレの名前だけ強調されてないか?」

「……それもそうかもしれないわね。全面的にラノちゃんが悪いってことにしときましょう」

「いばらさん。なんか今日はいつもよりもちくちくしてるよ~。オレのメンタルにダメージ与えてくるんだけど……」

「ラノちゃんが何を言ってるかわからないけど、どんまい!」

「つばささんやぁ、無意識の優しさが一番ダメージ与えるんだけど!」

「ラノ先輩……、やぱっりなんでもないわ」

「ちょ、イロハ! 絶対わざとだろ! 何か言おうと思ったけど言いたいことないから途中で辞めただけだろ!」

「……」

「なんか言えよ!」

「ラノ先輩うるさい! ヤマト様の神聖な家なんだから静かにしてください!」

「あ、すまん……って、もとはといえばお前が原因だろ!」


ラノさんの的確な突っ込みに笑いが起こるなか、再び家のインターホンが鳴り響いた。



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