大物Vtuber集結する

第227話 少し暖かい冬


「ふぅ、少し肌寒い……」


いつの間にか月日は流れ、すでに12月20日。

季節は飽きが終わり、完全に冬へと移り変わった。


ニュースでは『記録的な大雪が全国各地で観測されています』なんて言っているが、僕のいる宮崎県日向市では雪という高級な気象を見ることはできない。


窓から外を眺めても、現在の天気は曇り。

雨は降りそうだが、とても雪が降るとは思えないような天気。

何故雪が降らないかを、昨日冬休みに入り、現在勉強をしている来夢に尋ねる。


「来夢、雪って何度くらいになったら降るんだろう?」

「さぁ、でも今の気温で降ることはないんじゃない?」

「……今の気温って何度?」

「12度」

「道理でいつもよりは寒くないわけだ」


窓を眺めるのをやめ、急いでこたつの中に入る。

冬の醍醐味といえばやはりこたつ。


冬にしては少し高い気温とはいえ、寒いことに何ら変わりはない。

来夢も冬休みの宿題をするために自分の部屋からリビングに来てるくらいだ。


リビングに響く音は来夢の文字を書く音のみ。

特に何かをすることもなく、時間が過ぎていくのを待つ。


しばらく時間が経つと、文字を書く音も鳴り止んだ。

それと同時に机の上に置かれていた宿題を片付けていき、端っこに置いていたミカン袋を真ん中に移動した。


テレビをつけることなく、ミカンを向き始めるのを僕はただただ見つめる。

皮をむく途中で、来夢は口を開いた。


「そういえば今日から来るんだよね?」

「ん? ……ああ、うん。一応今日から来る頃になっているよ」

「スタジオ暖房付けといたから、大丈夫だと思うけど、後で室温確認しに行ってね」

「あー、そこまで気は回ってなかった。ありがとう」


ミカンの皮が向き終わるのを確認してから、来夢のミカンを半分貰う。

簡単に取れる白いすじを取り、口の中に一口で頬張る。


一噛みするとミカンの甘い汁が口の中に広がり、一気に飲んでからもう一度噛む。


「来夢、今回のミカンはアタリだったよ!」

「ふーん」


来夢は1つずつ千切って食べていき、新しいミカンの皮をむき始めた。


来夢が皮をむいて僕は半分貰い食べる。

それを繰り返していると十個はあったミカンはすでに無くなっていた。


「それじゃあスタジオの室温確認しに行くね」

「私は部屋でお泊りの準備しとくから、まだ寒かったらいいに来て」

「はーい!」


来夢が部屋に戻るのを見送ってから、僕はスタジオに向かった。


今日から5日間、来夢嵐子さん宅にお世話になる。

そのための準備を今からするらしい。


スタジオに向かう道中はとても寒く、特にキッチンとスタジオの通路は外にいると言っても過言ではない寒さだ。

でもスタジオの扉を開けると、生暖かい空気が飛び出してくる。


室内温度では18度もいってないと思うが、それでも外並みの寒さの通路の後では26度近くに感じる。


「うん。室内温度問題無し。むしろ少し暑いくらいかな」


この後レッスンをすると、いやでも熱くなってしまうためそこまで暑くなくてもいい。


スタジオの扉を閉じてリビングに戻りトリッターを確認する。

炎上してからというものトリッターを確認しなかった日はない。


「……完全に鎮火されてはいないけど、かなり小さくなってきてる。生誕祭記念配信で再発火するのは嫌だけど、今はそんな先のこと考えてても仕方ないよね」


流石に一ヶ月もたてば、炎上の炎は小さくなっていった。

時が勝手に解決していった、というものだ。


最初はたくさんの人が反応していたが、時が経つにつれ反応する人は確実に減っていき、現在炎上の炎を舞い上げようとしているのは、超が付くほどのVtuberアンチ勢くらいだ。


現在の僕のVtuber生活は炎上前とまでは行かないにしても、炎上する前くらいの平穏は取り戻した。

炎上前と大きく違うところはまろましゅの質問などに子供からの質問が多くなったことくらいで、配信中にも【小学生です】といったコメントがよく飛ぶようになった。


本当に小学生かは伺わしいが、それでも僕の配信に小さい子が来てくれるのは嬉しい。


こたつに戻り、ぬくぬく生活を再開しようとそれを許さないかのようにインターホンが鳴り響く。

来夢に出てもらおう、と思ったが現在準備中のため僕が出るしかなかった。


こたつから出て玄関に向かう。

スコープから外を見ると、5名の女性がそれぞれ腕にコートを抱えながら立っていた。


5名のうち3名は直接お会いしたことがある方々で、残り2名はリアルでは初対面になる。


「わざわざ遠いところからご足労ありがとうございます」

「い、いえいえいえ!! や、ヤマト様の家に来られてとても光栄です! わ、私のことは覚えてらっしゃいますでしょうか!?」

「はい、お久しぶりですねライガさん」

「が、ガチ恋推しに認知されてた……、死ねる」

「あ、外で寝たら体に悪いので、部屋の中のこたつにどうぞ。皆さんもどうぞ」


倒れそうになるライガさんの体を支え、中に入るように促す。

気を失う直前で現実に戻ったライガさんは何とか千鳥足で家の中に入っていった。


「じゃあ、ヤマトのお言葉に甘えてお邪魔しまーす!」

「あ、待ってください!」


ライガさんに続いてラノさんが家に入ろうとしてきたので、急いで止める。


「実は神無月家には家に入る際特定の挨拶があるんですけど、そちらを言ってから入ってください」

「は、なにそれ。神無月家ってそんな決まりあるの?」

「はい。お願いできますか?」

「……ルールがあるなら仕方ないけど。で、なんて言えばいいんだ?」

「こちらです」


僕のスマホフォルダにあるとある挨拶の動画をラノさんに見せる。

それを見た瞬間、ラノさんの表情は一気に険しくなった。


当然そんなものないが、せっかくなので言ってもらいたい。


「ふ、ふざけてるのか!? なんでこんなこっぱずかしいセリフオレが言わないといけないんだよ!」

「お願いします」

「くっ! ……分かったよ」


何にかを諦めたラノさんは覚悟を決めて、僕の注文したセリフを言おうとする。

その瞬間を見逃さず、僕はしっかりとスマホの録音をオンにする。


「『ガオ、ガオ、ガオォー! オレの名前は竜田ラノ! みんな大好きラノちゃんだぞぉ♡ オレの事バカにするやつは食べちゃうぞぉー!』」


羞恥心を乗り越えたラノさんに僕たちは拍手を送る。

こんな玄関であんな恥ずかしい挨拶、そうそうできない。


「こ、これでいいんだろ!」

「はい。とてもかわいかったですよ。まぁ、特定の挨拶があるなんて嘘ですけど」


軽く流すように本当のことをぶっちゃけると、ラノさんは鳩が豆鉄砲をくらったよう顔をしてから、すぐに顔を赤くさせた。


「……え、あ、わわわ! 分かってたしっ! わざと乗ってあげてただけなんだけど!?」

「はぁ、それはどうでもいいので、そろそろ入りませんか? 他の人たちもう入ってますよ?」

「どうでもいいって……え、あれ?」


玄関にはいつのまにかラノさんただ一人。

他の4名はラノさんが一生懸命弁明している間に家の中に上がっていった。


「いつまでも外にいると風邪ひきますよ」

「……お邪魔します」

「ようこそ、神無月家へ」



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