第226話 今後のお手伝い
特に何の刺激もなかった平日の夜。
ご飯を食べ終えた来夢がふと口を開いた。
「お兄ちゃん、来週からダンスレッスン始めるんだよね?」
「うん。神無月ヤマト誕生祭記念配信でやることがようやく決まったから、レッスンは来週から本格的にしようかなと思ってる。これ、一応決まった予定表ね」
スマホのメモ長に書いた神無月ヤマト誕生祭記念配信の予定表を見せる。
来夢は一通り、ゆっくりとメモ帳の内容を読んでいく。
「ふ~ん。……配信時間は12月25日の夜7時から10時の3時間、アンコールは無し、最初の1時間半がゲストと企画、残りの1時間半は3DLIVE。私が手伝うところって後半のLIVEのところだけ?」
「あの、僕まだ手伝ってくれるか聞いてないんだけど……」
「これ見せてきたってことは手伝ってほしいってことなんでしょ?」
「…………鋭い」
来夢の言った通り、今回のLIVE配信も来夢の手を借りようと考えていた。
流石に3DLIVEの度に手伝ってもらっていれば、気づいてもおかしくないか。
「私、今後は手伝うつもりで話聞いているから、手伝いがいらないときは言ってね。その時は手伝わないから」
「はい」
「そもそも、お兄ちゃんにスタジオの機械をあまり触れさせるつもりないから、手伝いがいらないときはそのことを加味して言ってね?」
「……はい」
笑顔なのに目が笑っていない来夢が少し怖い。
だけど、今の発言は今後も僕が「いらない」と言わない限り手伝ってくれるという意味。
その言質に比べれば来夢に怒られるのなんて安いものだ。
「それで、私が手伝わないといけないところ教えてくれる?」
「うん。来夢に手伝ってほしいところは……全部、かな」
「……え?」
流石にこの回答は予想していなかったのか、笑顔のまま固まっている。
「いや、今回の生誕祭の企画も3Dでやろうかな~、と思って……」
「……はぁ、はいはい。手伝うといった以上は頑張らせてもらうね」
「ありがとう!!」
笑顔で固まったときはどうなるかと思ったが、安心した。
ここでもし「やっぱりやらない!」と言われでもしたら気が気じゃなかった。
僕は来夢に何が何でも手伝ってほしいけど、来夢自身がどうしても「いや」といった場合は強要できない。
来夢自身、少し諦めたかのように息をはく。
ただ、ほんの少し笑顔なのが少し不気味に思ってしまう。
そして、その笑顔の分けを、僕はすぐに体感する。
「お兄ちゃん、よくよく考えれば私ってお兄ちゃんの初3DLIVE配信の時から何回か手伝ってるよね?」
「そういえばそうだね。3DLIVE配信の時は毎回来夢に手伝ってもらってるね。でも今後は許可をもらわなくても手伝ってくれるんだよね?」
「もちろん。言ったことは曲げないよ。……そういえばもうすぐで1年も終わるね」
「そりゃあ、もうすぐ12月だからね」
「お兄ちゃん、年が明けたら期待してるね?」
「え、なにに?」
「ん? お年玉!」
「おとし……だま?」
「もちろんくれるよね? あんなにお兄ちゃんのために3DLIVE配信のお手伝いをしてあげたんだから! まさかとは思うけど、お年玉無しやたったの一万円って事がないのを期待してるからね」
「もし“無い”って言ったら?」
「フフフ、これまでお兄ちゃんに貸した機材の代金やお手伝い料金、その他もろもろ、耳そろえて払ってもらうから。まぁお年玉をくれれば全部チャラになるけどね」
「……お、お年玉、楽しみにしててね?」
「うん!!」
まだ一ヶ月あるのに、お年玉を来夢にあげることが決定した。
これまでの機材代やお手伝い料金だけなら、何とかVtuberを初めて溜まった貯金で払えるかもしれないけど、その他もろもろの部分が怖すぎる。
僕の考えが正しければ、その他もろもろだけでも僕の貯金じゃ足りない。
よって、僕にはお年玉を上げるという選択肢しかなかった。
去年までは一緒にもらう側だったのに、時が経つのは速い。
「それで、今回参加し置てくれるゲストのVtuberさんは誰が来るの?」
「……さぁ、誰だろうね?」
「何で隠すの?」
「まだお願いしている状態で、相手側の都合とかあるからね。一応何人かには声をかけてるけど決まってないよ。あ、唯一決まってる人で言えば嵐子さんくらいかな。今作ってる新衣装で出てもらうことになってるよ」
「嵐子さんかぁ。お兄ちゃんが炎上して他の配信者にはかなり飛び火してたのに、嵐子さんのところはそこまで飛び火してなかったよね」
「そりゃあ、あの人の後ろにいるのはVtuberでも足元に届かないほどの人気を誇っている人だからね。動画でも雨猫ハリンのチャンネル告知をしてるし、アンチ勢もそこまで手が出せなかったんだと思うよ」
僕自身ハリンさんの方に飛び火しなくてよかったと思っている。
もし炎上が飛び火していたら、ハリンさんの場合火に油を注ぐような発言をしていた可能性が高い。
だからハリンさんのバックにいる獅喰蓮さんには感謝しかない。
「とりあえず、嵐子さんは確定として、最低何人くらい来てくれるかは教えてくれない? 休憩時間の飲み物やお菓子用意しとかないといけないから」
「うーん、僕の予想だと最低8人、最高12人かな」
「思ったよりも多い? のかな。……とりあえず出演者のVRモデルのデータももらっといて。アプリにデータ入れとく」
「了解。他に何か必要なものってある?」
「今のところは何もない。もし何か必要になればその時に言う」
「はーい」
「それじゃあ私お風呂に入ってくるから」
「行ってらっしゃーい!」
来夢がお風呂に入っている間に食器を洗い、トリッターを確認する。
今日も今日とて、現在進行形で炎上中。
アンチコメントに誹謗中傷がちらほら。
ただ最近では【逃げずに正面から戦っているところかっけぇw】や【炎上の原因知ったけど、アンチ勢反応しすぎだろw】といった、Vファンでもなければ、アンチ勢でもない第三者のコメントが増えてきた。
どちらにも属していない第三者なので、トリートはアンチ勢に対してだけでなく僕に向けたものも投稿されている。
【面白い!】や【目標に向かって頑張っているところを見習いたい】といった、励ましのようなトリートもあれば、しっかりとした酷評トリートも多くあった。
一言ではなく、しっかり文章で書かれているため、それらの酷評はものすごくためになる。
「……他の個人Vや小さなV事務所所属のタレントからのトリートも増えてきてる気がする」
他のVの僕に対するトリートは、どれも僕を褒め称えるものばかりだった。
出来れば同じVtuber視点からの酷評とかも欲しかったけど、こればかりは仕方ない。
「他に面白いトリートないかな?」
トリートでVtuber界隈のことを数十分見た後、スマホの電源を落としてから、自分の部屋に戻る。
「さてと、そろそろ配信の準備をしないと。……それにしても、面白いVtuberオーディションのトリートあったな~」
オーディションを開催しているのは新興Vtuber事務所。
そのオーディション内容を見て、今後のVtuber業界は発展していくと確信しながら今日の配信も頑張った。
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