第146話 ガーデンランド2期生
CMの撮影から数日たったある日。
僕は母さん引率の元『ガーデンランド』本社に来ていた。
理由はゲーム『Vtuber育成学園』のイベントストーリー収録のため。
一応メールの方で台本はもらっていて、今回の収録イベントは10月開催の『ハロウィン』イベントと12月開催の『クリスマスイベント』の二つ。
『クリスマスイベント』に関してはクリスマス最初のイベントとして僕の誕生日と関連した物語である。
今回のメンバーは僕の他に『ハロウィンイベント』では竜田ラノさんたち2期生メンバーとごろろっくのゾーナさんの7人。
『クリスマスイベント』ではヤマト様親衛隊の4名と綺羅めくるさんの6人。
本来なら連続で収録の予定はなかったらしいが、僕の都合上1日でいくつものイベントを収録しないといけない。
そして、今回はイベント参加者の都合が合い、全員参加となっている。
なんとなくだけど、外堀を埋められている気がする……。
「本社でいいのよね?」
「うん。なんか新しいスタジオを本社の中に改築? したみたいで、今回の収録はそこになるんだって」
「ふーん。言っておくけど母さん、ゲームの収録とかしたことないからアドバイスできないわよ」
「大丈夫だよ。今回は僕の引率で来てもらってるんだから。それに秋月さんは追い返すような真似しないと思うし。むしろ母さんにもナレーションで出てください! って言いそう」
「私をナレーションで使うなんて世間からしたら贅沢よ。流石にそれは無理ね。私ができるのはあくまで演技指導くらいよ」
「だよね。知ってた」
「それに、相手が社長ならそんな無茶ぶり言うはずがないわ」
「あ、あはは……」
母さんの言葉に少し動揺してしまう。
母さんは秋月さんを知らないからそんなことが言えるけど、秋月さんを知っている僕は断言できる。
あの人は躊躇なく母さんにナレーションとして依頼してくる。
秋月社長はそういう人だから。
……僕としてはナレーションのセリフが減ってくれて少しありがたいけど。
母さんの運転でガーデンランド本社に着き、中に入ると前回と同様、秋月社長が待っていてくれた。
「やぁ、ヤマト君。久しぶり」
「お久しぶりです。今日はよろしくお願いします」
「よろしくね。それで、後ろの方が……」
「初めまして。ヤマトがお世話になります。母の神無月撫子です」
「……」
「あの、秋月さん?」
あ、秋月社長がこの後に言う言葉、なんとなくだけど分かった。
「す、素晴らしい声ですね。ぜひ今回のイベントでナレーションしてみませんか!」
「え……えぇ~っと……」
まさかの急な依頼に流石の母さんでも驚いている。
というよりも来るときに話していたことが本当に起こるとは思っていなかったみたい。
「す、すみません。流石に事務所を通してもらわないと。私個人の意見では決めかねます」
「あ、そうですよね。すみません。それでは早速、事務所の方に依頼しますね」
「え、あ! い、今しても今回のナレーションはできませんよ! できれば収録の2、3ヶ月前に事務所の方に話を通してもらわないと!」
「そうですか……。分かりました。今回は諦めます」
流石の秋月社長でも今回は素直に引き下がるみたい。
まぁ、事務所が絡むとなると普通はそうだよね。
僕の場合は事務所が通らないから即決で決められるけど。
「ですが、いずれ依頼したいので念のために依頼料の参考を教えてもらっても……」
あ、やっぱり諦めてなかった。
まぁ、このゲームはVtuberの話だから、母さんを起用するとしたらナレーションだけだけど……。
それでも一体いくらするかは気になる!
「えーっと、あまりそのような仕事したことないんですけど、同じ事務所の子が確か『1ワード150円』? というので仕事を受けていたので、私の場合は『1ワード500円』は超えるんじゃないかな、と思います」
「に、人気声優でも『1ワード200円』くらいなのに、それ以上なんて……。分かりました。予算に余裕ができたら再び事務所の方に連絡させていただきます!」
「そうしてくださるとありがたいです。今回はナレーションのお仕事はできませんが、演技の方のアドバイスや指導などならできますので、必要になったら声をかけてください」
「分かりました! それじゃあ控室の方に案内しますね」
秋月さんの案内で本社の中に入っていく。
母さんの依頼料を聞き、僕の出演料がいったいいくらになっているか気になったけど、母さんの後だとそこそこになることは知っているから、あえて聞かないでおく。
でも正直気になる!
今回のセリフもなかなか多くて、もしナレーションが入ることになったらそれこそ100ワードは超えそうだから。
「それじゃあ収録迄まだまだ時間あるから、控室で待っててね。撫子さんも中の方でぜひ」
秋月さんに扉を開かれ中に入ると、中には数名の女性が来ていた。
その中にはゾーナさんの姿も。
「あ、ヤマト様ー! 今日はよろしくね~」
「ゾーナさん。よろしくお願いします」
知っている人がいてくれてとても助かった。
これで少しは落ち着いてできる、はず!
「お、お前がヤマトか。本当にモデルと似てるんだな」
声をかけてきたのは聞き覚えのある声。
声のする方を見ると穴の開いたジーンズにたらんと垂れた服、茶髪ポニテの刈上げ、耳にはいくつものピアスを付けた人がいた。
イカにも陽キャの中の陽キャの人がいた。
「あ、ありがとうございます。……ラノさん」
「おう! 初めまして、だな」
「はい、今日はよろしくお願いします!」
なんか、イメージよりも陽キャすぎて正直驚いてしまった。
というか、僕って陽キャすぎる人をいつもからかってたの!?
でも……こういう人が出れたときが一番かわいいんだよね。
「あ、先に紹介しとくな。今日一緒に収録するオレの同期だ。みんな個性が強いから気をつけろよ」
「あんたほど個性強くないわよ。初めまして。私は
「は、はい! よろしくお願いします」
……なんでVtuberって身長がでかい女性が多いのかな?
三角トープと名乗った女性は身長が高く、スタイルがものすごくいい。そして、目元がきりっとしててかっこいい。
多分、女性にもてる女性だと思う。
三角トープ。
確かトリケラトプスの恐竜で、頭に角が生えているからファンからは恐竜よりも鬼として認識されていたはず。
2期生の中ではまともな部類ということもあり、ガーデンランドの常識組に所属している。
ただ、鬼なのに恐竜を名乗っているのはどうなんだ? ということで非常識組入りもうわさされている。
「『ひどいです 一応私 常識組』初めましてです。ガーデンランド2期生常識組の
「えーっと、……はい。よろしくお願いします」
トープさんとは違い今度は身長が低い女性。
しっかりした人に見えるけど、多分おっちょこちょいだと思う。
例えるなら身長は低いけど兄弟姉妹の一番上の人で一番末っ子!
翼竜つばさ
プテラノドンの恐竜で腕には翼がついている。本人曰く空を飛ぶことができるのとのこと。
口調に『です』と付くのとその見た目から、ファンだけでなくメンバーからも赤ちゃん扱いを受けている。
配信はまともなものが多く、基本怒ることがない。
本人曰く、怒る体力がもったいなく、大切なものが傷つけられた時以外あまり怒らないとのこと。
「えと、あの……ガーデンランド、2期生。
「あ、はい。神無月、ヤマトと……言います。……よろしく、お願い、……します。もしかして、トカゲさんも……」
「あ、はい……それじゃ、ヤマトさんも……仲間、ですね」
「は、はい……」
何故かな。
この人とは同じ匂いがする。
多分、というよりも絶対に僕と同じ陰キャ!
それも僕以上の!
多分、僕この人となら仲良くなれると思う。
小盾トカゲ
スクテロサウルスという植物食恐竜の一種で恐竜の中でも小さい方とのことで、本人も身長120センチしかないほど小さい。
ガーデンランドの中でもコラボが最も少なく、本人曰く誘うのに緊張するとのこと。
ゲーム配信が多く、たまに歌枠。
雑談が最も少なく、ガーデンランドで唯一メンバーシップを開いていないライバーとして有名。
「最後はウチだね。ウチはガーデンランド2期生で非常識組のメガノ・ドロン。みんなからはメガちゃんって呼ばれてるからメガちゃんでいいよ」
「はい。よろしくお願いします」
いたって普通の女性。
前の4人の個性が強すぎるせいか、普通の女性に見えてしまう。
前情報ではちょっとおかしな人っていうものがあったのにどこもおかしなところはない。
「ねぇねぇヤマト~」
「な、なんですか?」
「収録なんだけど週六でしない?」
しゅ、収録なんだけど週六でしないって……。
「ちょっ!? メガ! いきなり寒いダジャレ言わないで!」
「『寒いです 渾身のダジャレ ダダ滑り』ですです」
「……夏なのに寒い」
「ほら、ヤマトも体振るわせてるじゃねぇ……か?」
しゅ、収録なんだけど、しゅ、週六でしない……ぷふっ!
「や、ヤマト……くん?」
「……ナイトになったんだ。頑張らナイト」
「ぶふっ! ……な、ナイトになったんだ。頑張らナイト……。あっはっは! お、面白すぎる!」
だ、だめ。
面白過ぎてお腹が痛い。
メガノ・ドロン
メガロドンで2期生唯一の魚。
耳は鱗になっていて牙がある。
親父ギャグが大好きでよく配信中に場を凍らせている変人。
そのせいもあって、非常識組に入ったライバーさん。
う、噂では聞いていたけどここまで面白いダジャレを考えつくなんて面白過ぎる!
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