第147話 サインと問題発生

「う、受けたよ! だから言ったじゃん。ウチのダジャレは面白いって!」

「それはヤマトの感覚がおかしいだけだろ。実際オレらはめっちゃ寒いし」

「メガちゃん。仲間がいて嬉しいのは分かるけど、場所と人数は考えようね?」

「あ、えと……。喜んでくれる人がいて、よかった……ね」

「ヤマト様が面白いから面白いんだよね! ……多分」

「『そうなんです メガのダジャレ めちゃ寒い』メガちゃんのダジャレは寒いです。そこに変わりないです」

「……プフッ!」

「う、うまい!」


僕はつばささんのダジャレに笑ってしまう。

その上手さはメガノさんも認めるほど。


5人は何のことかわからないような表情を浮かべていたけど、僕とメガノさん、あと僕の後ろにいていつの間にかサングラスをつけ腕を組んでいる母さんは気づいた。


「『何なのです 急に笑われ 意味不明』いったいどうしたのです? つばさ、何か変なこと言ったのです?」

「『そうなんです メガのダジャレ めちゃ寒い』……プフッ。す、すみません。自分で言っていてつい笑っちゃいました」

「え? ……えぇ?」


つばささんのダジャレを言ったけど気づかれなかった。

これ以上は……僕は、無理……!


「う~ん。ダジャレの説明って屈辱的な行為なんだけど……」

「『言うんです つばさのどこに ダジャレある?』早く教えてです!」

「『メガのダジャレ』」

「それがどうしたのです?」

「メガノ、ダジャレ」

「……あ、あぁ!」


他の四人もようやくわかったみたい。


メガノダジャレ、面白い!


「……さっむ」

「聞くんじゃなかったわ」

「や、ヤマト様が面白い、というんだから、面白い……」

「や、ヤマトさんとは……仲良く、な、なれない……かも」


面白いのにもったいない!


でも、好みは人それぞれって言うし、メガノさんのダジャレの面白さが分からない人がいても、何も不思議じゃないよね。


「……あ、あの……さっきから、気に……なったん、だけど……や、ヤマトさんの、後ろに、……いる人、って、ヤマトさんの、付き人?」


トカゲさんの怯えるような視線の先にいるのは、サングラスで顔がなぜかわからない母さん。

立ち方が完全にボディーガードのそれになっている。


「あ、私も気になってた! なんかオーラある人だなーって!」

「『雰囲気が 他とは違う すごいです』多分、ヤマトさんのボディーガードだと思うです」

「……オレ、どこかで見たことある気がするんだけど」

「奇遇だね。私もどこかで見たことある気がするよ!」

「この人いい人だよ! ウチのダジャレ聞いても寒がるような反応しなかったもん!」


多分それはメガノさんを気遣ってあまり反応しなかったんだと思う。

母さん、笑うときは笑うけど、面白くないときは反応しないようにしてるもん。


「あー、えっとー。……僕の母です」

「……ヤマト様のお母さま?」

「ってことは」

「か、神無月撫子さん!」

「え、え? や、ヤマトさんの、お母さんって……女優の神無月撫子さん!?」

「『驚きです まさかまさかの 有名人!?』お、お会いできて光栄です!」

「……う、ウチ、もう死んでいいわぁ……」


母さんはサングラスを取り笑顔で手を振る。

その瞬間女子が有名人に出会った時に出すような「きゃー!」という悲鳴がスタジオ内に響き渡る。


あまりのうるささについつい耳を塞いでしまう。


母さんは慣れたかのように耳をふさぐことなく手を振る。

流石は大女優神無月撫子。


「あ、あああ、あの……サイン、も、もらっても……いい、ですか?」


トカゲさんはバックからサイン色紙とペンを取り出し、母さんにサインをお願いする。


というか、何故サイン色紙とペンを?


「あ、トカゲずるい! 私も欲しいのに!」

「だ、大丈夫……予備まだあるから、みんなの分……あ、あげる」

「いや、なんで持ってるの? 私でもヤマト様にもらう分しか持ってないのに……」

「あ、その……う、うちのバカ社長が、サプライズで……有名人を、連れてくる……かもしれないから」


その説明を納得してしまう。

確かに秋月社長ならサプライズや何やらで有名人を連れてきそう。


母さんもトカゲさんの説明にサインを書きながら納得している。


「あ、あの! いつも動画拝見しています! メイクのコツや道具、参考にさせていただいています!」

「ありがとう。メイク好きなの? Vtuberってファッションとかよりもアニメとか好きな子が多いと思ってたけど……」

「はい! 私、二次元の他にもファッションとか好きなんです! 週に2、3回は服屋や香水店に行きます!」

「そうなのね。……よかったら今度コラボしましょ? メイクのコツとか教えてあげるわよ」

「いいんですか! ぜひ!!」


母さんの考えなんとなくわかるけど、流石にトープさんは女子なんだからファッションが好きでもおかしくないと思う。


何よりトープさんは2期生の中でもかなりの陽キャの方だと思う。


「オレ、ファッション興味ないわ……」

「『悔しいです トープさんが 羨ましい』撫子さんのメイク術気になるですけど、私もファッションよりアニメの方が断然好きです」

「あ、……わ、私、ファッション、面倒くさい」

「ウチは人並み程度でトープほどないからな~」

「あら、ファッションやメイクは興味がなくてもしていいものなのよ。せっかくだしみんなで今度オフコラボ? っていうやつやる? 私のメイク術、全部教えてあげる」


母さんの誘いに2期生は驚き、喜びの表情であふれる。

あのトカゲさんさえ喜びを隠せていない。


「まぁ、コラボの件はあの社長さんと話し合いながら決めていくことになるけどね。……あなたはどうするの?」

「あー、私はいいですかね。コラボするならヤマト様希望です!」

「そう。もししたくなったらいつでも言ってちょうだい。歓迎するわ」

「ありがとうございます!」


ゾーナさんは母さんの誘いを笑顔で断った。

理由はまさかの僕!?


母さんに一瞬笑顔で見られたけど、それが少し怖かった。


母さんは2期生の皆さんと今後の予定を見ながら、仮で話を詰めていると勢いよく扉が開かれた。


「はい、みんな揃ってるねー!」


入ってきたのは社長さんと数人のスタッフさん。


もうすぐで収録が始まりそう。


「点呼確認! まずはガーデンランド、竜田ラノさん」

「はいっ!」

「三角トープさん」

「はい」

「翼竜つばささん」

「はいです」

「小盾トカゲさん」

「は、……はい」

「メガノ・ドロン」

「は~い」

「全員いますね。次にごろろっくさんから、腐茄血ゾーナさん」

「はい!」

「個人勢から神無月ヤマト君」

「はい」

「全員いますね。この後、それぞれ収録した後に全員で新曲の収録があります。ヤマト君に関してはもう一つのイベントの収録がありますので頑張ってください」

「はい。……ん?」


今気のせいでなかったら、僕が一切聞いていない仕事が入っていたような気がする。


「あ、あの……新曲の収録って何ですか?」

「え、今日収録と一緒に新曲の収録をすると音源と一緒にメッセージ送ったはずなんですが聞いてませんか?」


聞いてない。

メッセージには収録の日しか知らせられていないし、音源が来ていたらすぐに気づくはず。


「おかしいですね。ヨッシーにメールで送ったんですが……」

「え? 父さんに?」

「はい」

「……母さん」

「今かけてる。……あ、出た」

『どうした?』

「あなた、ガーデンランドの社長さんから何か届いてない?」

『届いてるけどどうした?』

「メッセージ呼んだ?」

『読んだぞ』

「なんて書かれてた?」

『ヤマトに送ってくれって書いてたな』

「送った?」

『送っ…………てないな。忘れてた』

「スゥーー、今すぐ送りなさい!!」


母さんは思いっきり叫んでから通話を切る。


「うちの主人が申し訳ございません」

「いえいえ! 誰にでもミスはあることです。ですが困りました。今日に収録しないといけないのに……」

「どうしてだ、社長。明日でも別にいいじゃねえか」

「ラノさんの言いたいことは分かるんですが、このスタジオ、1か月間予定が詰まっいて……」


これはかなりヤバい気がする。

流石に9月には宮崎にいるからこのスタジオに来ることはできないし、これたとしても無駄にお金がかかってしまう。


「社長さん、台本にあったナレーションって誰がやるの?」

「そ、それはヤマト君に頼もうかと……」

「……今回は仕方ないわね。ヤマト、ナレーションは私がやるからあなたは自分のセリフと曲を覚えることに専念しなさい」

「はい」


というよりも、それしかないよね。


さすがの僕でも、曲をその日に聞いてぶっつけ本番は難しい。

少し長く聞かないと、ミスしてしまう可能性がある。


ミスしないようにするにはじっくり聞くしかないけど、ナレーションもするとなると時間が足りない。


だから、母さんの考えが最善になる。


「で、でもいいんですか! 事務所を通さなくても?」

「今回はうちの旦那が完全に悪いから、気にしなくてもいいわ。ただ、条件として、今回私がナレーションをしたことは内緒にして、ヤマトがしたって言うことにして。事務所にばれたら流石にヤバいから」

「分かりました。では撫子さん、改めてお願いします!」

「任せてください」


こうして、最後の最後で問題が発生したけど、何とか収録を始めることができた。



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