予定の詰まった八月

第142話 台本


「暑い……」

「文句言わない。あとでメロン切ってあげるからもうそこ紙頑張りなさい」


【ごろろっく クイズ大会】が終わった翌日。

僕は母さんと一緒に家の庭の草むしりをしていた。


昨日の疲れをとるために布団の中で寝ていたら、母さんにたたき起こされて草むしりを手伝わされている。


こんな暑い中で庭の草むしりをしているのは僕と母さんのみ。


他の家族はというと、来夢は昨日から泊まり込みの勉強に出かけている。

何でも霧江さん経由で頭のいいガーデンランドメンバーのところに勉強を習いに行くとのことで、昨日から泊りに言っている。

所謂勉強合宿というもの。


兄さんは仕事で朝早くから出かけ、義姉さんは東京に買い物に出かけている。


父さんは用事とのことで八月中には戻らないとのことで今朝家を出ていった。


昨日の配信は見ていたみたいで、僕が手に入れたチケットは僕の好きにしていいとのこと。

ただ、母さんは明日の撮影が終わったら仕事でしばらく暇ができず、来夢は温泉に興味なし。兄さんと義姉さんは最近すでに行ったとのことで、家族招待券なのに僕の家族は誰も行かないということになってしまった。


しかも、来夢に至ってはいつ帰ってくるかわからないというメッセージ付きで送信が来て、かなり勉強に集中したいみたい。


これは邪魔できないということで、必然的にこの家には僕と母さんの2人だけになってしまった。




「保仁、そこが終わったら明日の台本の確認しようか」

「はーい……」


あと少しで草むしりも終わる。

そう思うと少しヤル気が出て来て、あんなに嫌だった暑さを感じることがなくなった。


草むしりを終え、冷たい麦茶をコップ一杯分呑む。

草むしり中は早く終わらせたい一心で水分補給を全くしていなかったのでこの麦茶は体にしみわたる!


「はい、これ台本。メロンはお昼ご飯を食べ終わった後ね」

「はーい」


母さんに渡された台本に目を通す。


明日撮影なのに今日台本を見るなんて変な話だけど、ここ最近予定が詰まっていたこともあり、母さんも撮影日を忘れていて昨日気づいたとのこと。


「母さんがお母さん役で僕が子供役……このお父さん役というのは?」

「今回は家族がテーマだからね。私と保仁以外にも役者さんを雇ったんでしょ。……あら、お父さん役はこの子なのね」

荒木あらぶき光星ひかるぼしさん?」

「惜しい。荒木あらき光星こうせいね。年齢は今年38で21歳の時に俳優デビュー。当初は注目された若手だったけど、時代が立つにつれて埋もれていったベテラン俳優。今でもドラマとかに出てるけど、そのほとんどが脇役のようなものね。才能はあるんだけど、もったいないのよね~。今回選ばれたのも多分だけど、予算の都合だろうし」

「あー、僕はともかく、母さんは1億だもんね」

「ええ。彼の場合多く見積もっても今のところ300万円ってところかしら」

「あれ? 300万って……」

「保仁と一緒ね。今の彼にはそれくらいの価値しかない、ってことよ」

「……芸能界って厳しいんだね」

「そうね。でもさっきも言った通り、彼は何かのきっかけで化けると思うから、今回の撮影がきっかけになればいいわね」


母さんがそこまでべた褒めする人。

いったいどんな人なのか気になるけど、それは明日になれば分かるから今は気にしなくでもいいか!


それよりも今は台本の内容。


「えーっと、撮影は朝の10時から。……セリフ入りバージョンとミニバージョン?」

「長編と短編ね。長編はMytubeやたまにテレビCMで流れる奴で、短編はテレビCMでしか流れない短いバージョン。といっても長編の部分をカットしてつなげた感じですると思うからそこまで気にしなくてもいいわ」

「はーい……。あれ? 僕だけ撮影回数多くない?」

「どれ? あ~、これ多分男の子と女の子二つ撮るわね」

「つまり僕は同じ動きを2回しないといけないという——」

「3回ね」

「え?」

「よく台本見なさい」


母さんに言われもう一度台本を読み直すと、3回の理由に気づいた。


僕はてっきり、トラッキングスーツを身に着けて撮影するものかと思っていたけど、それは2回目と3回目の時だけ。


1回目の撮影は僕自身も一緒に撮ることになっている。


「多分、荒木君のためね。人がいるのといないのとじゃかなりの違いがあるもの。まぁ、私は保仁がいなくても本当に居るかのように演技できるけどね」

「母さん1人ができてもダメってことだね」

「そういうことよ。一応声合わせはしておく?」

「うーん、大丈夫……かな。今回は僕自身が声を出せばいいわけだからね。……ねぇ、ここに『ヤマトさんは別室で声の収録あり』って書いてるけど、1回目の撮影の時はセリフ言わない方がいいのかな?」

「言っても問題ないと思うけど……、とりあえず明日スタッフに聞いてみましょう。役に聞いてもわからないだろうし。それよりも、声合わせしないならお昼にしようか。何が食べたい?」

「チャーハン!」

「また面倒くさいものを……。はいはい、少し時間かかるから待っててね」

「はーい!」


母さんの手作りチャーハン!

数年ぶりに食べるけど楽しみだなぁ!


空腹状態で母さんのチャーハンができるまで台本を読んで待っていると、スマホに1件のメッセージが来た。


送り主は『ギャイ先生』から。


【コミケが終わった翌日にイベントの打ち合わせと作業するから、1週間分の着替えの準備して楓の家に集合。一応遊んだりもするけど、大変な作業たをくさんするから覚悟しといて。迎えが欲しい場合は早めに連絡求む】


文面からして少し怖いことが書かれている気がするけど、とりあえず僕も1週間の外泊をする可能性が出てきたってことだよね。


母さんに許可貰わないと。


後、【六本木に迎えお願いします】っとだけ送って、……これで良し!


「母さーん! 2週間後くらいに外泊してもいい?」

「えー、今忙しいからあとにしてー!」






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