第127話 人が多ければいろいろな人が集まってくるのは当然である

生配信開始30分前。

配信開始まで刻一刻と時間が迫っているというのに、今この場には僕を含めて7人しかいない。


台本には出演者は司会者2人の出演者は18人となっているのに、未だに半分もそろっていない。


「リオン様。もうすぐで本番が始まるのに人数が少ないように思うんですけど大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ。司会者のパポピ先輩と福良萩さんは司会者なので控室にはきません」

「それじゃあ他のライバーさんたちは……」

「他の方は多分ですけど事前にアンケート答えているので、本番前に来たら問題ないですね。多分ですけどそろそろ来るんじゃないですか? あ、ほら」


扉の開く音が聞こえ、4人組の男女が入ってきた。


「お疲れ様でーす!」

「お疲れで~す」

「お疲れ~」

「お疲れ様!!」


4人組を見て思うのは違和感がありすぎる。


片目が隠れたツインテールの女性に、高身長でモデル体型のイケメン男性、身長が低いけどどことなく年上のようなオーラを放っている男性。


そして、身長が高くがっちりとした体格にスキンヘッドと見るからに漢の中の漢を体現している男性。


そのかっこよさに一瞬見とれてしまったけど、すぐに気を取り戻してハリンさんと一緒に入ってきた4人組の下に挨拶に向かう。


「あ、あの、初めまして。今日は『リトルボーイズ』で参加させていただきます、神無月ヤマトです。よろしくお願いします!」

「お、同じく『黒白』で参加させていただくことになりました、雨猫ハリンです! よろしくお願いします!」


僕もハリンさんもどうしても緊張してしまう。


流石のハリンさんも声で気づいたらしく、とても緊張している。


理由は単純で、僕の耳が間違っていなければ前から僕が推しているライバーさんとハリンさんの推しが目の前にいるんだから。


「あ、今日のゲストさんだね!? 私は『ショタコン同盟』で参加する腐茄血ふなちゾーナ! 今は人間だけど、配信のモデルはゾンビだよ! そんなことよりもヤマト君。連絡先交換しよぉ」

「え、えぇ」


ゾーナさまはスマホの画面を見せながらいきなり肩を組んできた。


身長が同じ姓で顔がとても近くに感じて、ドキドキしてしまう!


「あ、あのぉ——」

「ゾーナ先輩、この子困ってますよ。同性同士とはいえいきなり肩を組むのはどうかと思います」

「何言ってるのリューティー。ヤマト君は男の子だよ」

「いえ、女の子です」

「は?」

「なんですか?」


あー、うん。


これはあれですね。

時々僕の配信内でも起こる『ヤマト性別戦争』


僕の配信では、一時期は沈静化していたけど、ファンが増えてから再び男性派と女性派の争いが増え始めていた。


その度に僕は受け流して入るけど。


でもまさかこの目でその戦争を見ることができるなんて思わなかった。

それもまさか、『ごろろっく』所属のゾーナ様とリューティー様が争っているなんて。


なのでハリンさん、眼光を開いて僕を睨みつけるのはやめてください。

身長はないのに威圧があるせいでものすごく怖い!


「あ、俺はリューティー・アービス。『黒白』の黒い方でヤマト様親衛隊015874だよ。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします」


リューティー様、僕の方はいいのでハリンさんの方も気にかけてやってください。

ものすごく怖いです。


挨拶を終えたリューティー様はそのままゾーナ様のもとに向かい性別戦争を再開した。


僕のことを見てくるハリンさんから逃げるように争っているゾーナ様たちを見ていると、ハリンさんと変わらない身長の男性が苦笑いをしながら話しかけてきた。


「ヤマト君にハリン君、ごめんね。あの2人いつもは仲いいんだけど、ヤマト君のことになるとものすごく仲悪くなるんだよ」

「あ、いえ、大丈夫ですよ……」


この人の声はいくら聴いてもいったい誰なのか見当もつかない。


男性でありながら僕とあまり変わらないアルト声。


一応一人の時に今日の出演者の声は少しだけ動画で聞いたけど、この人と同じ声の男性はいなかったと思う。


一応女性の声も思い出して比べてみるけど、どの声も当てはまらない。


「あ、自己紹介がまだだったね。僕は音無おとなしフータ。『イケおじクラブ』の頭脳担当だよ。よろしくね」

「……えぇっ!?」

「嘘っ……!?」


音無フータ。


『ごろろっく』の初期メンバーで『イケおじクラブ』と言うユニットに所属しているエルフ。

若い見た目とは裏腹に、とても低い声がおじさん好き女性の心をがっちりとつかみ人気がある。

更にそのギャップにやられる人もしばしばいるとのこと。

Vtuberたまに聞きたい声ランキングでは堂々の1位。


それほどに低い声が特徴のフータ様の声が普通に高い!?

これが驚かずにはいられない……。


「あ、今出してるのが地声ね。『そしてこれが配信用に作ってる声。どう? ヤマト君ほどではないけど地声と区別つかないでしょ』」

「はい。地声だと誰か本当に分かりませんでした……」

「『そう言ってくれると嬉しいよ。僕もこの声に自信が持てるからね』」


いや、本当にすごい。


フータ様は若い見た目でありながら声が低いせいで、リアルではそこそこ大きな男性かと思っていたのにこんなに小さくて若い男性だったとは。


「あ、あの、フータさん。つかぬことをお伺いしますが年齢はいくつでしょうか……?」


ハリンさんが申し訳なさそうに聞く。


失礼だとは思っているけど、ハリンさんが気になるのは分かる。

僕自身も見た目はよくて20代なのに『イケおじクラブ』に入っているフータ様の年齢が気になって仕方ない。


「僕の年齢? 40だよ」

「えっ……!?」

「マジィ……?」


僕の倍の年齢はある。


見た目や言動からよくても30代真ん中よりも上はないと思っていただけにものすごく驚いてしまう。


「この人、年齢の割には若く見えるだろ? これでも若作りとか何もしてねーんだぜ」

「嘘……」


ハリンさんが微妙にショックを受けている。


いや、今控室にいる女性全員が少しショックを受けていた。


女性にとって若作りってそんなに大事なのかな。

僕まだ15歳だから分かんないや。


まぁ、今はそんなことよりも僕が気になっているのはスキンヘッドの男性。


声を聴いたけど間違いない。

この人は——。


「あ、俺は骨筋ほねすじドラゴンって言うんだ。そこにいるめぐると同期だな。『イケおじクラブ』の筋肉担当で、好きなものは筋肉に筋トレ! 趣味は筋トレ! 好きな飲み物は筋トレ後のプロテイン! よろしく!」


やっぱり!?


まさかあのドラゴン様なんて……!

台本で名前を見た時、期待していたけど僕の期待通り、いやそれ以上の筋肉が服の絵からでもわかる!


「因みにっ! ちょっと失礼」


そう言って服を脱ぎ始めるドラゴン様。

隣にいたハリンさんは両手で顔を覆い、他のライバーさんたちは「またか」とでも言いたげな表情でドラゴン様を見ていた。


「右側にいるこいつがゴンゾウ、左側にいるこいつがマツノスケって言うんだ。仲良くしてやってくれ」

「はいはい、仲良くしなくていいからね~」


ゴンゾウ君とマツノスケ君に見惚れていると、後ろから手で目元を隠される。

顔は見えないけど声で誰が来たかはすぐに分かった。


「あの、めぐる様。見えません」

「見なくていいからね」

「因みに右太ももにいるのが——」

「ドラゴンもそこまで! ヤマトくんもドラゴンの筋肉に興味ないって」


え、興味ならめちゃくちゃあります!


って言える雰囲気ではない。と言うよりも、僕を思って手を指し伸ばしてくれためぐる様に申し訳なく感じて言えない。


そんな中、僕に助け舟が差し出される。


「めぐる先輩、それは違いますよ!」

「リューティー?」


そう、リューティー様。

それと同時に理解する。


多分この人は親衛隊で初配信の時から僕を見てくれているんだ、と。


「いいですか! ヤマトさんの好みの男性はスキンヘッドで筋肉質の大柄な男性なんです!」

「ヤマト君ね! あと好みの女性は飛鷹凛音さん」

「見てください、ドラゴン先輩をどこからどう見てもヤマトさんの好みの男性です」

「ヤマト君はノーマルだから女性好きだけどね」

「ヤマトさんはドラゴン先輩のことが好きなのに遠ざけるのはいかがなものかと思います!」

「ヤマト様はドラゴン君を好きなんて言ってないよ!」

「キラリ先輩、ゾーナ先輩! ちょっと黙ってください!」

「女の子という嘘情報を振りまこうとしているリューティーが悪い!」

「リューティー君。情報は正確に、ね?」


助け舟かと思ったら、なぜか僕の布教と争うになってしまった。


こうなったら僕がやるしかない!


「めぐる様、大丈夫ですよ」

「ヤマト君?」

「リューティー様の行ったことは本当で、僕ドラゴンさんのような人好きなんです!」

「え、まじぃ?」

「はい!」

「でも、ドラゴン君、妻子持ちだよ。さすがに女房持ちはどうかと……」

「安心してください! 僕のはラブじゃなくてライクなので!」

「そうだぞ、めぐる。俺がお前たちを、好きなように! ヤマトも俺のことが、好きなんだよ! だから、俺の筋肉を、見させてやってくれないか!」

「ああ、もう、分かったから! しゃべるたびにポーズ取るのやめて! エアコンついてるのに暑苦しい!」


えぇ、ポーズ!

ものすごく見たい!


めぐる様の手が離れると、そこに広がっていたのはいろいろなポージングをするドラゴン様。


ポージング一つ一つが筋肉たちを輝かせていた。


急いでスマホを取り出し、撮影の準備に入る。


「どうだヤマト、俺の筋肉は!」

「最高でーす!」

「ふむ! 今度一緒に、コラボしようじゃないか!」

「ぜひっ!」


ポージングをスマホで撮りながら、コラボの約束をしてしまった。


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