第126話 不仲な2人
僕たちしかいなかった控室に黒髪ロングの女性と白髪ショートの女性、茶髪ポニーテールの女性が入ってきた。
3人の女性が入ってきた瞬間、控室の温度が下がった気がする。
主に2人のせいによって。
そのうちの1人はリオン様。
なぜか黒髪ロングの女性のことを睨みつけているように見える。
対する黒髪ロング女性もリオン様を睨みつけている。
「リオンくん、ミネルバくん、おはよー!」
「お疲れ様です」
「めぐる先輩、キラリ先輩、おはようございます」
「3人とも、久しぶりだねー」
4人の挨拶を見て分かった情報は今入ってきたうちの2人がリオン様の先輩で、そのうちの1人がハリンさんとチームを組む惑星めぐる様だということ。
「お、そこにいる2人は今日のゲストかな? 初めまして。『黒白』の白の方の惑星めぐるです。今日はお互いに楽しんでいこうね!」
白髪女性の方がめぐる様のようで、なんかコミュ力が高そうな気がする。
何でも勝手にやってくれそうで、一緒にいると僕をダメにする女性って感じかな。
「私は
「っ!?」
首をかしげながらにこりとするしぐさに、一瞬ドキッとしてしまう。
茶髪の女性がキラリ様のようで、一言でいうと身長が高い。
多分175センチはあるんじゃないかな。
見た感じからスポーツ女子のような感じなだけに、先ほどの優しい口調と可愛らしいしぐさのギャップが強い!
「は、初めまして。今日は『リトルボーイズ』で参加する神無月ヤマトと言います。若輩者ですがよろしくお願いします!」
「えっ!?」
「わ、私は『黒白』のメンバーとして参加する雨猫ハリンです。よろしくお願いします!」
「ああ、君がハリンちゃんだね。口調は配信の時のような感じでいいから楽にしていいよ。今日は一緒にがんばろー! おー!!」
2人ともそれぞれ違った反応が返ってくる。
その中で気になるのがキラリ様の反応。
この反応は知っている。
見たわけではないけど、通話越しに僕の名前を言うと驚いた反応。
「あのー、間違ってたら恥ずかしいんですけどキラリ様って僕の親衛隊に……」
「ヤ、ヤマト様親衛隊000023……です」
恥ずかしそうに答えてくれるキラリ様。
かっこいい系の女性がもじもじしながら恥ずかしがる。
そのギャップがさらにかわいい!
「あ、あの、ヤマト様が来ると聞いて色紙買ってきたんですけど、サイン貰ってもいいですか?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
色紙とペンを受け取り、色紙に『神無月ヤマト』とサインを書く。
僕のサインは文字を少し丸めた書き方になっている。
そのため、『ヤ』の部分が少し『や』に似た感じになっているけど、そこに似顔絵を描いて何とかやりすごす。
「こんな感じでいいですか?」
「はい! 大事に飾ります!」
こうして喜んでもらえるとなんだか嬉しい気持ちになる。
ヴァリアブル・ランドで僕がサインをもらった時もギャイ先生はこんな気持ちだったのかな。
「あの、連絡先を交換してもらっても……いいですか?」
「あ、はい……」
「あ、私とも交換してくれるー?」
「え、はい……」
キラリ様だけでなくめぐる様とも連絡先を交換する。
「……ん?」
僕が交換したのは2人だけのはずなのに、なぜか連絡先は3つ入っている。
『鬼頭キラリ』
『惑星めぐる』
『綺羅めくる』
今この場にいない人の連絡先が何で?
控室を見回しても人が増えた様子はない。
「あ、ヤマトくんのところにめくるちゃんの連絡先送っといたけど問題なかった?」
「え、これめぐる様の仕業ですか?」
「うん。今日ヤマト君に会うかもしれないってことをめくるちゃんに言ったら連絡先交換しといてって頼まれたからね」
問題は何もない。
けど、せめて最初に言っといてほしかった気持ちはあります!
「それじゃあ私たちはアンケートに答えるから、今日はよろしくね!」
「はい」
キラリ様たちは椅子に座りアンケートに答え始める。
僕とハリンさんはもう一人の女性に挨拶するために、アンケートを書いている女性の後ろに立ち書き終えるのを待つ。
「ヤマトさん、ハリンさん。その人に挨拶は不要ですよ」
「え、……でも」
「大丈夫ですよ。挨拶するような人じゃありませんので」
「どぉどぉ、落ち着いてリオンくん。ヤマト君、ハリンさん。後ろに立っていると気が散るかもしれないからこっちで待とうか」
「あ、はい」
ミネルバ様に言われたことに納得し、リオン様たちのいる場所まで移動する。
確かに後ろに居られると気が散る可能性もある。
そんなことにも気づけなかったのが情けなく思う。
それにしても、どうしてリオン様はこの女性のことを敵視しているのかが気になる。
さらに言うなら、敵視してはいるけどその目線は嫌悪感と言うよりも罪悪感みたいな申し訳ない感情が混ざっている。
「ふぅ、終わった。さてと、さっきから私に敵意を向けている人、何かようですか?」
「いえいえ、用なんて程ではありませんよ。ただ初参加のライバーさんがいるのに無視してアンケートに答えるのはどうかと思いますけどね」
「さっきまでキラリさんやめぐるさんと話してたから、先にアンケートを答えようと思っただけですよ。時間の効率的な使い方も知らないんですか?」
「そちらこそ、待っている人が後ろにいるのに気にすることなくアンケートに答えるのはいかがなものかと思いますけどね!」
何故かわからないけど、この2人が話し始めると少し寒気を感じてしまう。
でも2人の話している感じは、本音と言うよりも心に無い言葉をぶつけあっているように思える。
「少し喉が渇きましたね。誰のか知りませんけどこちらの飲み物貰いますね」
「あ……」
女性が取ったのは僕がもらったミネラルウォーター。
今日飲もうと思っていたものを名前も書かずに机の上に置きっぱなしにしていた。
「ちょっ!? ねぇ、それ今日のゲストの人のなんだけど!」
「えっ!?」
「何でしっかり確認しないの? そういうところ本当に直した方がいいですよ!」
今の2人の反応に言葉は全部本音。
女性の方は明らかに焦っていた。
「ヤマト君、ハリンさん少し離れようか」
「え?」
「あの2人のことで教えないといけないことあるから」
そう言われると興味がわいてしまう。
幸い、2人は未だに争っているため、今はまだ挨拶はしなくてもよさそう。
「それでミネルバ様。お2人の関係性っていったい……」
「あー、実は2人って不仲なんだよね」
「不仲?」
「うん。ハリンさんは知ってる?」
「詳しくは知らないけど、不仲説が流れている2人ってことは知ってるよ」
「その通り。理由は簡単なものでミランさんの敵対心。って言うのが理由かな」
黒上の女性はミラン様って言うんだ。
これで控室にいる人の名前は全員分かった。
「リオンくんは『ごろろっくジュニア』のカリキュラムを終えてデビューしてるんだ」
「『ごろろっくジュニア』って確かごろろっくでデビューする前に通う学校みたいなものだよな」
「その通り。ジュニアにはデビューする前に先輩の配信枠に出演するっていう行事みたいなのがあるんだ。で、ここからが本題なんだけど、ミランさんは『
『黒馬ミラン』
言われてみれば『白馬リオン』に少し、と言うよりもかなり似ている。
「リオンくんにかなり似た名前でしょ。ごろろっくのVtuber名ってその本人が決めてるんだけどね、ミランさんは自分に似た名前のリオンくんに対してあまりいい感情がなかったみたいでデビュー前の出演にリオンくんの同期が出演する中、リオンくんだけが出演してないんだ。それ以来不仲説は浸透していって今の2人はあんな感じ」
「それじゃあ不仲説って言われても仕方ないな……」
確かにそうかもしれないんだけど、僕の中では少し違和感が残ってしまう。
ミネルバ様の言ったことが本当だとすれば、リオン様が心にもない言葉を言っているのは納得できる。
じゃあどうして、ミラン様も心に無い言葉を言ってるんだろう。
少なくともミラン様の言っていることが本音でないと、ミネルバ様の言っていることは一致しない。
多分、この2人には他にも何かがあるんだと思う。
「はぁ、いちいちうるさいですね」
リオン様と話し終えたミラン様は文句を言いながら僕たちの方に来た。
「先ほどは不甲斐ない姿を見せてしまってごめんなさい。改めて『黒馬ミラン』と言います」
「し、新人Vtuberの神無月ヤマトです。若輩者ではありますがよろしくお願いします」
「同じく雨猫ハリンと言います。よろしくお願いします!」
「よろしくお願いしますね。もしうちのリオンに何かされましたら私に言ってください。叱りますので」
「……」
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、大丈夫です!」
「そうですか。では」
ミラン様はそのまま控室を出ていった。
「ヤマト。もしかしてミランさんの顔に見惚れていたのか?」
「ち、違いますよ。ただ気になったことがあっただけです」
確かにミラン様は可愛くて見惚れてしまう気持ちはわかるけど、僕が見ていたのはそこではない。
ミラン様と話していて気になったことが一つ。
多分癖だと思うんだけど、ミラン様はうそをつく時に頬を右手のひらに、右ひじを左掌に乗せる。
確証はないけど、喉が渇いたと言った時はその癖が出ていたけど、今は出ていなかった。
もしかしたら礼儀でその癖が出なかっただけかもしれないけど……。
だけどこの癖が本当だとしたら、リオン様の癖もすぐに分かる。
そして、僕の考えが全部当たっていたとしたら、リオン様の名前の由来も2人の関係性も多分分かったかもしれない。
けど今は確かめる手段がない。
打ち上げの時にそれとなく聞いてみようかな。
それまではこの事は頭の中から消しておこう。
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