第125話 チームメイト
スタジオの下見を終え隣の控室の中に入ると、室内には一人の男性? がいた。
何故疑問系かはその人の見た目のせいと言うべきか。
短パンに半袖と田舎に多い小学生男子スタイルの恰好だけど、白く透き通るような足と横でまとめられた青髪が女の子らしさを主張している。
とりあえず先に挨拶を済ませないと。
「あ、あのっ、お、おはようございます。本日お世話になる神無月ヤマトです。よろしくお願いします!」
僕があいさつをすると、男性は驚いた顔で振り返った。
顔を見た瞬間分かった。
彼は男性であるということが。
可愛らしい顔で、一瞬であれば女の子だと間違えそうになるかもしれないけど、これまでたくさんの男の娘を見てきた僕にはわかる。
彼はリアルの男の娘だと!!
と言っても、僕が見てきた男の子は全部アニメの男の娘だけど……。
「あ、初めまして……」
右手で髪を耳にかけて挨拶を返してくれた。
声を聴いた瞬間、彼が誰なのかすぐに理解した。
この声と容姿。
これだけで見れば一般人なら女の子と間違えてもおかしくない。
それほどまでに女性のような声に可愛らしいしぐさ。
だけど僕はこの声が誰なのかを知っている。
つい最近聞いた声。
あまりにも聞きなれて過ぎて、「女の子かも」と一切疑うことなく、男の娘だと僕の中で確定してしまった。
配信では男の娘だけどリアルでも男の子だったなんて……!?
「ごろろっく所属の白馬リオンです。今日はよろしくお願いします!」
白馬リオンさん。
僕とほぼ同期で、今日僕と同じチームになる新人さん。
「えーっと。ヤマトくんって呼んだ方がいいかな? それともヤマトさん?」
「あ、どちらでも、大丈夫です」
「それじゃあヤマトさん。今日は一緒に頑張りましょう!」
「は、はい!」
僕にはわかる。
この人、世間では陽キャと言われているタイプの人だ。
配信でも明るい配信がモチーフで、もしかしたらって最初は思っていたけど本当に陽キャの人だったなんて……。
それだけで緊張するぅ!
「ふふっ、肩の力抜いてください。ヤマトさんは僕より有名なんですから」
「いやっ! 有名なんて、そんな……」
おんなじタイプの配信者にそう言ってもらえると、あまり悪い気はしない。
今思うと、これが男性ライバーさんと初めてのかかわりになるんだ……。
「あ! ヤマトさん。そこの席にアンケがありますので書いてください。その後お話しましょ!」
「は、はい、ぜひ!」
机の上に置いてあったアンケート用事を取り、ボールペンで記入していく。
リオン様とお話はしてみたいけど、今はアンケートに集中して取り組んでいこう。
アンケートの内容は簡単なものから答えるのが難しいものまで。
簡単なものは好きな食べ物や配信の時に気を付けていることなど。
対して難しいものは苦手なライバーややりたくない企画など。
難しいっていうよりも答えづらいって言う方が正しいかな。
苦手なライバーさんとかいないし、僕はなるべくいろんな企画に挑戦してみたい。……虫系以外の。
アンケート用紙は8枚ほどあり、最初の3枚ほどは普通のアンケートだったけど、残りの5枚はアンケートと言うよりも、簡単な学力検査みたいな問題が出された。
選択肢は0の完全に実力問題。
更に空白禁止と言う指定まで出されて……。
いくつかの問題はゴールデンウィークの時に解いていたから何とか解けたけど、いくつかの問題は全く分からなかったり、覚えていない問題が多かった。
多分採点したら確実に赤点の自信がある。
それでも全問埋めることができた。
まぁ、何問かは全く分からずにふざけて解いたけど。
「終わりました?」
「はい、先ほど……」
「早く終わってよかったです。……あ、紹介しますね。来てください!」
控室には未だに僕とリオン様しかいないはずなのに、大声で誰かを呼ぶリオン様。
「お、もう終わったの?」
スタジオ側とは反対の扉が開き、一人の女の子? が控室に入ってくる。
リオン様とは違い紺色のセーラー服風の服を着ていて、ボブカットと見た目は女の子。
声の方も少し低いけど、女の子と言われてもほとんど違和感がない。
「初めまして、神無月ヤマトと言います。よろしくお願いします!」
「へぇ、君がカナさんの言っていたヤマト君か」
「え、義姉さまとお知り合いなんですか?」
「ああ、そういえばまだ名乗ってなかったね。僕はミネルバ。今日君と同じチームになる一人だよ」
この人が!?
……確かに、兄さまが見とれてしまうのも納得してしまう。
服装に髪型、しぐさのどれを見ても女の子に見えてしまう。
あえて挙げるなら、口調が少し男性っぽいところ。
これで女性のような口調だったら間違いなく、見間違える自信がある。
「それじゃあ3人集まったことだし、台本見ながらチーム内で打合せして雑談しようか! はいこれ、ヤマトくんの台本!」
「あ、ありがとうございます」
台本の中にはスタートから終わりまでぎっしり書かかれていた。
流石に答えの指定などのやらせは書かれていなかったけど、オープニングや休憩、移動の時間が細かく書かれている
その中でもひときわ目立つのが一番初めのオープニング。
「あの、この最初の『パポピ語』って何ですか?」
配信がスタートしてからそれぞれのチームに分かれて『パポピ語』の輪唱と書かれていた。
「ああ、これですね。今日の司会者さん見てみてください」
台本の1ページ目に書かれている司会者のところを見る。
今日の司会者は2人らしく、一人は『福良萩』さま。もう一人は『パポピ・ポロパリア』さま。
パポピさまの配信は見たことないけど、確か変な挨拶で有名だったはず……、まさか!?
「気づいたみたいだね。パポピ語って言うのはその名の通り、パポピ・ポロパリアさんの言葉なんだ」
「確かデビューは1年ほど前でしたっけ?」
「そうですね。因みに未だにパポピ語は解読されていないですね」
「それほどに難しい言語なんですね」
「いや、ただ意味が理解できないだけだよ」
「な、なるほど」
本番までもう少し時間あるし、Mytubeで予習しとこ。
「あー、『パポピ』語の後、今日もあるね」
「ですね。僕、未だにこの時間に意味があるのか理解できないですよ」
「まぁ、言っている言葉も毎回違うみたいだから適当に言っているだけかもしれないから、理解できなくて当然じゃない?」
「……?」
2人が何の話をしているかわからなかった。
『パポピ』語の後って言ってたからすぐ後ろだと思うけど、そこにあるのはパポピさまの挨拶だけ。
約一分と挨拶にしては少し長いような気がするけど……。
「ああ、ヤマトくんは知らなかったね。パポピさんの挨拶はパポピ語で行われるんだ」
「それはなんとなくわかってましたけど、何か問題があるんですか?」
「問題はそのあとです。パポピ先輩の挨拶の後に『みんなで一緒にっ!』って言われるんですけど、一緒にがパポピ語なので内容を知らない僕たちは何を言えばいいかわからないんですよ……」
「何人か挑戦していたけど、パポピさんについていけた人って0人なんだよね」
「だからヤマトさん。くれぐれも、無謀にパポピ語を話そうとしないようにお願いします」
「は、はい……」
なんだか圧を感じたけど、間違えたら何かあるのかな……。
予習して理解できなかったらパポピ語やめとこ。
リオン様とミネルバさまがお手洗いのために控室を出ていったので、その間にパポピさまのパポピ語を予習しておく。
確かに見た感じ、パポピ語には規則性なんてものがない。
同じ文字でも発音の仕方が違ったりしている。
だけどよくよく聞いてみるとしっかりとした会話文になっているのが分かる。
そのほかにも『パポピ・ポロパリアです』。という部分があるけど、その前だけは『ピンパペピパンパーパンパピポプ』と共通している。
発音とかは少し違ったりしているけど。
そのシーンはMytubeにもあがっていたけど、解読はできていないみたい。
だけど何度も聞いていくうちに、パポピ語の規則性が分かってきた。
スロー生成で口元を見ながら音を聞いていると、基本何を発音するかも大体わかった。
それと同時にミネルバさまが言っていた『ついていけた人が0人』って言うのも納得できた。
だって、『みんなで一緒にっ!』の後のパポピ語にも意味があったんだから。
これならパポピ語を話しても問題ないかも。
「お疲れ様でーす!」
パポピ語を理解し、念のために台本に書かれているパポピ語で答え合わせをしようとすると、スタジオ出入り口の方から聞き覚えのある声の人が中に入ってきた。
「お疲れ様です、ハリンさん」
入ってきたのはご近所に住んでいる水無月嵐子さんだった。
「え、ヤマト!? なんでいんの?」
「それはこちらのセリフです。ハリンさんこそなんでいるんですか?」
「いや、呼ばれたからに決まってるだろ? 出るんだよ。『ごろろっく クイズ大会』にな」
「奇遇ですね、僕も呼ばれました」
「へー、どのチーム?」
「僕は『リトルボーイズ』です。ハリンさんは?」
「私は『
ハリンさんの言っていたリューティーさまともう一人の惑星めぐる様と言う女性ライバーのコラボユニット。
2人ともゲームの腕前はプロレベルで、めぐる様に関しては『ごろろっく』に入る前はプロのチームに所属していたことがある、と言う切り抜き動画を見たことがある。
と言うよりもハリンさんに見させられた。
それならハリンさんは即オッケーするだろうな……。
「お、新しい子来てるじゃん。お疲れ」
「ホントだ、お疲れ様です」
「お疲れ様です。本日お世話になる雨猫ハリンと言います。よろしくお願いします」
「僕はミネルバ。よろしくね」
「僕は白馬リオンです。よろしくお願いします。僕に対しては楽に話してもらっていいですよ。あ、これ飲み物買ってきたんですけど飲みます? ヤマトくんも」
「いいの? ありがと!」
「ありがとうございます!」
リオン様からミネラルウォーターを受け取り、机の上に置く。
今日、飲み物忘れたから配信の時に飲もう。
「お疲れ様でーす」
ハリンさんがアンケートを書き始めた時、今度は出入り口から三人組の女性が入ってきた。
その瞬間、控室の空気が一気に冷めた気がした。
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