ごろろっく クイズ大会 控室
第124話 ごろろっく社長
東京に来て一週間近くが過ぎ、今日は元から予定していた『ごろろっく クイズ大会』の撮影日。
撮影開始時間が昼前と言うこともあり9時前までに来てほしいとのことで、朝起きてすぐに出かける準備を終わらせた。
迷子になるといけないので、父さんが今日は車で送ってくれるとのこと。
帰り時間は未だに不明なため、終わったら連絡しないといけない。
「保仁、ハンカチ持った?」
「持ったよ」
「ティッシュは?」
「持ってるよ。別に入学式じゃないんだからそこまで心配しなくても……」
「そうは言うけど、初めて他社に一人でお仕事に行くんだから心配になって当り前よ」
別に初めてってわけじゃ……あ、初めてかも。
ゴールデンウィークは『宝命生』と『ガーデンランド』の事務所に入ったけど、その時は母さんと父さんのどちらかがいたから一人じゃなかった。
けど今日はどちらもいない。
そう考えると少し緊張してきたかも。
「それに今日は話したことがない人が多いんでしょ?」
「まぁ、ごろろっくさんのライバーで話したことあるのは魔怜さんだけだし……」
「あなた話したことある人とはそこまでだけど話したことない人とは、人見知りなんだから気をつけなさい」
「……うん」
最近で言うと話したことない人で初対面の人は嵐子さんと太陽だけだったけど、嵐子さんは子供だと思って人見知りしなかったし、太陽に関しては来夢によく聞いていたからそこまで人見知りしなかったんだよね。
あまりキモくなり過ぎないように気を付けないと!
「ヤス! 行くぞー!」
「はーい! それじゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい。頑張りなさいね!」
「はいっ!」
父さんにメールで送ってもらった住所を教えて数十分。
周りを見ても普通のビルにしか見えないスタジオに着いた。
「……少し大きいな」
「え、そうなんですか?」
「ああ、普通スタジオは2、3階建てなんだけど、ここは6階建てだし、看板見たところ一つの企業が貸し切っているみたいだからな」
「へ~」
やっぱり大手企業が持つスタジオは他とは違うってことなんだ。
今からこの中に入るって考えるとものすごく緊張する……!
「それじゃあ俺は先に帰っとくから、終わったら連絡しろよ」
「あ、はい」
そうだった。
今日は僕一人でお仕事。
父さんや母さんはいないんだ。
しっかり気を引き締めないと!
「それでは行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
走り去っていく車を見届けてから、スタジオの中に入る。
『宝命生』ほどの広さではないけど、なかなか広くてきれいなロビーが広がっていた。
普通にロビーで待っていればいいのかわからなかったけど、受付に人がいるしそこで聞いてみよう。
母さんもそうしていたし。
「あ、あの~、すみません」
「はい、どういったご用件でしょうか?」
「今日、ここに来るように言われたんですけど……」
「ではお名前の方をお願いします」
「久遠保仁です」
「久遠保仁さまですね。確認いたしますので少々お待ちください」
受付嬢さんが調べている間、僕はロビーの中を観察していた。
父さんが言うには『ごろろっく』一社が使用しているスタジオって言ってたけど、花や絵画はあってもごろろっくに関連するものが見つからない。
こうしてみると、本当にごろろっくのスタジオか不安になってくる。
看板にも『ごろろっく』の文字なんてなかったし。
……もしかして間違えたり、なんてことないよね。
父さんに送ってもらったわけだし。
「久遠さま、お待たせいたしました」
「はい」
「申し訳ございませんが、久遠さまのお名前は記載されておりませんでした」
「……え?」
受付嬢さんから告げられたのは衝撃の事実。
も、もしかして本当に場所を間違えたとか!?
え、普通に恥ずかしいんですけど!!
「久遠さま。もしかしてですけど、先ほどおっしゃった名前は本名でしょうか?」
「え、あ、はい。本名です」
僕が本名を名乗ったことを知ると、受付嬢さんは苦笑いを浮かべていた。
もしかしてどこかおかしかったのかな……。
でも普通、本名を名乗るものなんじゃ……。
「念のためにお伺いいたしますが、久遠さまは配信活動をなされていますでしょうか?」
「え……」
これは答えてもいいものなのか。
はいと答えてしまったら身バレしてしまう可能性が上がってしまう。
かと言って、違うと言ってしまったら話がややこしくなってしまう気がする。
「はい、一応配信活動してます」
だったらここは配信活動していることだけを伝えて、何かあったら逃げ去る!
「かしこまりました。では活動名の方をお願いします」
「え、何でですか?」
「当スタジオでは基本活動名で名乗ることになっています。『ごろろっく』所属のライバーは顔パスで受付ができるのですが、そうでない方は一度受付で活動名をお伺いしないといけません」
「そ、そうなんですね」
このスタジオのルールを理解したのと同時に、ここが『ごろろっく』のスタジオだと分かり安堵する。
そういうことなら、名乗っても問題ないよね。
「僕の活動名は神無月ヤマトと言います」
「神無月ヤマト様ですね。……ありました。神無月ヤマト様、『ごろろっく クイズ大会』への出演で間違いないでしょうか」
「間違いないです!」
「確認しました。ではこちらの名札を首に掲げてついてきてください」
受付嬢さんから『ゲストライバー』と書かれた名札を受け取り、後についていく。
一先ず、場所を間違えて一安心。
「まず初めに、ヤマト様には本日使われるスタジオの下見、並びに調整してもらいます」
「調整、……ですか?」
「はい。本日使う機材は当スタジオにしか置いていない特別なものになります。ですので、初めて使用される方はモデルの調整や使い方を覚えてもらう必要があります。なお、当スタジオの機材に関して企業秘密のものになっていますので、くれぐれも情報を外に漏らさないようにお願いします」
「は、はい……」
『ごろろっく』の秘密の機材。
そんな貴重なものを使うことになるなんて、緊張する!
来夢がこの場に居たら目を輝かせながら笑顔になるんだろうなぁ~。
エレベーターで三階に上がり、奥の方へと案内された。
「こちらになります。写真などはお控えになるようにお長居します」
「はい」
流石企業秘密。
それだけにとても慎重になっている。
受付嬢さんが中に入り、僕もあとについていくと、そこには驚きの光景が……!!
辺り一面には機材の数々。
今回の出演者が座ると思われる場所には机といすが置かれていた。
だけど、そんなことよりも驚いたのはスタジオの真ん中で写真を撮り続けている日焼けしたサングラス姿の女性。
ここって撮影禁止なんじゃ……!?
「社長!? こんなところで何してるんですか!?」
「社長!?」
「……ん?」
まさか撮影禁止の場所で撮影していたのがこの会社の社長だったなんて……。
それじゃあこの人が『ごろろっく』社長……。
「社長、ここは撮影禁止ですよ!」
「ああ、これ業務用だからな。さすがのボクでも私利私欲でルールを破らないよ。っと、その後ろにいるのはもしかして?」
「はい、今日ゲスト出演される神無月ヤマト様です。ではヤマト様、後のことは
「あ、はい。ありがとう、ございました」
受付嬢さんはそのままスタジオから出ていき、スタジオ内には僕と社長さんの2人だけになってしまった。
「初めましてヤマトくん。ボクは『ごろろっく』の社長をしている阿波峰かおりというものです。今日はオファーを受けてくれてありがとう」
「あ、いえ、今日はお呼びしていただきありがとうございます。神無月ヤマトです。よろしくお願いします!」
頭をしっかり下げて挨拶をする。
挨拶は社会人の基本。
噛まずに言えて一先ずはよし!
「うん。よろしくな」
「はい……って、え? あれっ!? なんでっ!?」
「ん、どうした? そんなに驚いて」
阿波峰さんは鳩が豆鉄砲を食ったようような顔になっているけど、見ている僕としては驚かずにいられない。
挨拶をする前には、しっかりとスーツを着ていたはずなのに、あいさつの後に頭を上げたら、そこにいたのはスーツ姿の阿波峰さんではなく、筋トレをするときのウェア姿の阿波峰さんがいた。
僕が頭を下げていた時間は少なくとも5秒以内。
その瞬間になんでこの人はスーツを脱いでるの!?
「あの、ふ、服を……!?」
「ん? ああ、気にするな。これはボクの流儀みたいなものでな。初めて一緒に仕事をする相手にはこの鍛え抜いた体を見せるんだ! 目に毒ではないからぜひ見てくれ!」
「み、見てくれって言われても!? ……あれ」
よくよく見てみると、なかなかに鍛え抜かれた腹筋をしている。
割れているわけではないけど、なかなかにいい。
「あ、あの、触ってみても……?」
「ああ! ぜひとも!」
お言葉に甘えて触ってみる。
しっかりと筋肉がついた腹回り。
腕の方も触らせてもらったけど、しっかりと筋肉がついている。
正直、Vtuber企業の社長とは思えない体つき。
足の筋肉はがっちりと固く、いつまでも触っていられそうな感触。
「そろそろいいかな?」
「あ、はい! ありがとうございます!」
「気にしなくていい。ボクの筋肉が気に入ってもらえてなに寄りだよ。今日の生放送の後打ち上げがあるから、その時に話そうか」
「はい!」
筋肉の付いた人は今まで見ていることしかできなかったけど、生で触れるなんて貴重な体験した!
僕の周り筋トレしている人いないからなー。
「それじゃあ、機材の使い方について説明しようか。と言っても、覚えてもらうことはヤマトくんの席周りにあるものだけだな」
僕の席まで案内してもらうと、そこには今まで見たことのない机が置かえていた。
今回使われる机は手元が見えない机で、前の方にはカメラが埋め込まれていた。
机の上には台本を置くための場所が取られている。
だけど、そんなことより驚いたのが机の中にモニターが埋め込まれていた。
モニターにはクイズ番組のような背景と、その場に僕自身が映っている。
そのほかにも『退席』『出席』などのボタンが様々。
「これが今日の配信で流れる映像だよ。いくつもボタンがあると思うけど使うのは主に『出席』と、『退席』の二つだな。席を離れるときに『退席』、席に着く時に『出席』を押す。するとモデルが出たり消えたりする。オッケー?」
「はい」
少し来夢の作ってくれたアプリに似ている。
違うのは顔認証しなくて勝手にモデルが出て来てくれること。
「もし何かあったときは隣のライバーに聞いてくれれば教えてくれると思うから。」
「分かりました」
「教えたいことは終わったから、アンケートとかが控室にあるから描いといてくれないか? 控室はそこにある扉から入れる」
指さされた場所は入口の扉とは違う方向。
隣に控室があるみたい。
「分かりました。本日はよろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしく」
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