第128話 子供には理解できない大人の要素


「ヤマト、俺の体を見てどう思う?」

「え、ムキムキでかっこいいと思います」


僕とドラゴン様はコラボの約束をした後も筋肉美談を続けていた。


「かっこいいか。……それでは80……いや、75点だな」

「残りの25点は……」

「いいか。筋肉と言うのは『かっこいい』ではなく『エロい』ものだ」

「エロいっ!?」


か、『かっこいい』じゃなくて『エロい』ってどういうことっ!?

筋肉ってエロい話だったの!?


「ちょっ、バカドラゴン! ヤマト君に何言ってんの!?」

「筋肉のエロさについてだが? めぐるも聞くか?」

「聞かないわよ! それとヤマト君はまだ15歳なの! 堂々と下ネタ話してんじゃないわよ!」

「なっ!? なんで下の話なんだよ! 俺でも時と場と人は考えるぞ!!」

「エロい話が下ネタじゃない以外に何があんの!」

「筋肉の話だ! せっかくだ、めぐるも一緒に聞くと言い。いいかヤマト。筋肉とはエロイものだ。すでに社長にはあってるよな?」

「は、はい」

「社長の腹筋は見たか?」

「はい! とてもきれいですごかったです!」


今でもあの体を忘れることはできない。

ものすごく引き締まっていてなかなかな触り心地。


「では、社長の腹筋もかっこよかったか?」

「え……それは、かっこいいとは違った気がします」

「では、どんな感じだった?」


そんな感じ。


今日の社長さんとの出会いを思い浮かべる。


急に体を見せてきた社長さん。

ドラゴン様とは違って上にはウェアを着ていたけど。


その時の描写と目の前にいるドラゴン様の体を見比べてみると、……あ。


「え、エロかったと、思います……」

「だろ? めぐるはどう思う?」

「……社長だったらエロいんじゃない?」

「そう! そのエロいという言葉こそが社長にとっては誉め言葉なんだ!」

「なんで? 普通エロいって言われたら誰だって嫌なんじゃない?」

「一般人はそうかもしれないが、筋トレ好きにとっては違うんだよ。筋トレ好きで見せる人にとって、いい筋肉は『エロ』くないといけないんだ。イケメンのアイドルが自身の筋肉を写真集で乗せた時、何故だかエロく感じるだろ? それはエロく見せるために筋トレしてるんだよ」


言われてみると納得してしまう。


書店に言った時、男性アイドルの写真集の表紙に自身の体を載せているアイドルがいるけど、そのアイドルの体を見てエロいと感じたことがある。


あれはエロ目的に筋トレしていたからエロく感じたんだ!


「それじゃあ、筋トレ好きは皆エロいってことですか?」

「おっと、それは違うぞ。筋トレをする人の中には見せる目的にしている人もいれば、体力向上を目的にしてる人もいるんだ。体力向上に筋トレしている人にはエロく見せたいって感情はなく、ただ体力をつけることだけしか考えてないんだ。リューティーはどちらかと言うと体力向上のために筋トレしてるよな?」

「え、あ、はい!」

「と、このように筋トレする人の中にもいろんな種類があるけど、俺のように見せてくる人には『エロい』って言ってあげると、喜ぶから、ぜひ言ってみろ! 特に『エロい』って言われるのが好きすぎてよく見せてくる淫乱な先輩がこの後に来ると思うからぜひ言ってやってくれ」

「は、はいっ! ……っ!?」


ドラゴン様に言われた通り、この後来る筋トレ野好きの人には『エロい』って言葉を使おうかと思った矢先、ドラゴン様の後ろに恐ろしい人影が写る。


高身長女性でタンクトップ姿。

胸が無かったら女性と認識できなかったかもしれない。


「ん? どうした?」

「誰が淫乱な先輩だって?」

「っ!? や、ヤマト、この先輩だからな?」

「は、はい!」


言えない。

初対面だからとかそういうのじゃなく、今後この人と一緒になることがあっても、決して『エロい』なんて言うことができない!


「ドラゴン、何か言い残すことはある?」

光莉ひかり先輩、今日もエロいっすね!」

「死にさらせぇぇぇぇ!!」


女性はドラゴン様の腰辺りに両腕を回し、そのまま後ろに投げ飛ばす。

それはものすごくきれいなジャーマンスープレックスだった。


まさか、リアルで見ることができるなんて!


驚きよりも感動が勝ってしまった。


「痛いっすよ光莉先輩!」

「初対面の少年にホラを吹いているお前が悪い。悪かったな少年。バカが嘘をついた」

「あ、いえ、大丈夫です! ……綺麗ぃ」

「……えっ!?」


本当にきれいな体をしている。


ドラゴン様の言っていたエロいというのがよくわかる。

社長さんと同じで高身長。だけど社長さんとは違いとても白い肌。


社長さんの褐色の肌に着いた筋肉も最高だったけど、この女性の筋肉は別の意味で最高!


何よりもタンクトップ1枚のせいで、その大きな胸に視線が行ってしまう。


「……少年。名前は?」

「あ、はい! 今日は『リトルボーイズ』と参加する神無月ヤマトと言います! よろしくお願いします!」

「私は大京だいきょう光莉ひかり。『アダルティック』と言うユニットに所属している。よろしく」

「『アダルティック』……?」


な、なんか単語からして、ちょっといやらしく聞こえてしまう……!

多分、そっち系じゃないとは思うけど……。


「あれー、君、見ない顔だね~」

「……ひゃっ!?」


ユニット名の意味を考えていると、いきなり後ろから抱き着かれてしまう。

背中に感じるのはのしかかってきた誰かの体重と、やわらかい何か。


「ねぇ、君~。今何歳? この撮影が終わったらお姉さんと飲みに行かな~い?」

「え、あ、あの……ぼ、ぼ、僕、じゅ……15歳なので……お酒はちょっと……」

「大丈夫、大丈夫。私もそのころにはお酒をたしなんでたから~」

「ええっ!?」


そ、それって犯罪なんじゃ!?

その前に、この人僕に全体重預けて来てて重い!


流石に限界が来て、前に倒れそうになっているといきなり背中が軽くなった。


「やめなさい!」

「あー……! せっかくかわいい獲物だったのにー!」


急いで光莉さま近くまで行き、後ろを確認する。

そこにいたのは、ちょっとダサめで胸の大きな女性と、ファッション意識が高そうな服を着た胸のない女性だった。


「ヤマト、私の後ろに隠れていろ」

「は、はい!」

「あー、ヒーちゃん。そこの少年を独り占めする気~?」

「お前の近くに置いておくと危険だから私の後ろに隠しただけだ。それと、私とお前を一緒にするな!」

「もー、同じユニットなんだから仲良くしようよ~」

「だったらもう少し、自重しろ。ヤマト、紹介しよう。無駄な贅肉がついている方は『兎ヶ丘うさぎがおかラビー』。万年発情しているウサギだから気をつけろ」


光莉さまの言う通りなるべく近づかないようにしないと。

この人からは、なんだか嫌な感じがする!


「万年発情なんてひどいよ~。私はただ、ヤマトきゅんを食べようと思っただけなのに~」

「ひっ!」

「こーらっ! ラビーさん! 男の子が怖がっちゃってるよ!」

「それで、今ラビーを取り押さえて説教しているのが『乙女の花園』の『九条院はるか』先輩。初期メンバーでごろろっくのお姉さんだから、いつでも甘えていいぞ!」

「紹介に預かりました九条院はるかです。もしごろろっくメンバーの誰かが迷惑を掛けたら私に言ってください。しっかりと調教しますので」

「は、はい!」


今調教って聞こえたけど気のせい……じゃないよね。


辺りを見渡してみると、控室にいたミネルバさまとハリンさん以外は顔を青ざめていた。


もしラビー様が何かしてきたらはるか様に報告しよう!


けど、今はそんなことよりも気になることがある!


「光莉さま、質問よろしいでしょうか」

「いいけどどうした?」


最初は単語の意味が解らなかったけど、ラビー様を見ているとなんとなく意味が分かってきた。


「あの、『アダルティック』ってやっぱりエロい女性って意味ですか?」


質問をした瞬間、空気が凍る。


1人、ラビー様を覗いては。


「そうだよヤマトきゅん!」

「違うぞヤマト! 『アダルティック』と言うのは『セクシーな』と言う意味だ! 間違えても『エロい』と言う意味ではないからな!」

「えぇ、どっちが正しいんですか?」


僕としては光莉さまを信じたいけど、ラビー様を見ているとどっちも正しく感じてしまう。


「ヤマト様! 『アダルティック』は『セクシーな』と言う意味ですので光莉先輩が正しいです!」

「キラリ様が言うなら信じます!」

「あ~、もう! もう少しで騙せそうだったのに!」

「ラビーさん?」

「……あ、ごめんなさい」


騙されなくてよかったー!!


しっかりとした単語の意味を理解できたことに喜びを感じていると、急に光莉さまに壁際まで押されてしまう。


何故かわからないけど、理解できる。

明らかに怒りかけている、と。


「あ、あの、光莉、さま——」


何とか怒りお納めよとすると、いきなり壁ドンをされてしまう。


そして顎を「くいっ」と持ち上げられて……、


「ヤマト、私の前でエロい話をするときは食われることを覚悟しろよ?」

「ひゃ、ひゃい!」


耳元でささやかれてしまい、変な声が出てしまう。


言いたいことを言い終えた光莉さまはそのままその場から離れて行く。


「ああ。それと勉強はしっかりしないと後悔するからな!」


そのままラビー様の元へ行きはるか様の説教に交わった。


人生初の壁ドンと顎くい。

正直に言おう。


最高です!

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