第119話 流しそうめん


「お、お兄ちゃん、これどうしたの……?」

「暇だから自由研究の題材に嵐子さんと作ってみたんだけどどうかな。僕的にはなかなかの力作になったと思うんだけど」

「いやー、これは力作とかそういうレベルじゃないですよお兄さん」

「太陽もそう思うよな。作っていた私もあまりの大きさに4分の1日で出来たものだとは思わないんだけど……」


そんなにすごいかな。


確かに、竹で作っていたとしたら切るのだったり組み立てで数日はかかったかもしれに開けど、これはペットボトルで作った流しそうめんだから半日もかからなかったのは普通だと思うんだけど。


「あ、来夢、メモ帳とUSBメモリー渡しとくね」

「え、なにこれ」

「何って、自由研究の時の写真のデータとメモを書いたノートだよ。さすがに自由研究の紙に研究の結果とかを書くと、来夢が描いたものじゃないってバレる可能性があるからね」


そもそも僕が手伝ってる時点で本当はいけないんだけど……。


「いいな、来夢ちゃん」

「ふ、ふふふ、私のお兄ちゃんは優しいからね!」

「お姉ちゃん、私の宿題手伝ってくれない?」

「え、普通に嫌だけど」

「……」

「大体、なんで私が太陽の宿題を手伝わないといけないんだ? 学校に行ってないのに宿題するなんてただの馬鹿だろ!」


確かに、と一瞬納得してしまったけど、要はただ宿題したくないだけだよね。


まぁ、その気持ちはわからなくもないけど!


「……お姉ちゃんてそういうところあるよね」

「太陽。ドンマイ!」

「嵐子さん、妹は大切にしないとダメですよ」

「なんか私が悪いみたいに聞こえるんだけど……」


別に悪いっていうわけじゃないんだけど、言い方があれなんだよね。


でもこういう人に限ってあの属性がついてるんだよね~。


「まぁ、流石に太陽が困っていたら嵐子さんも手伝いますよね」

「はぁ? 何言って——」

「そうなんですよ。お姉ちゃんってば最初はいやいや言うんですけど最後には手伝ってくれるんです!」

「ちょっ!? 太陽、何言って——」

「ツンデレ?」

「違う!」


間違いなくツンデレでしょ。


それも家族限定の。


最初は甘く、最後は厳しい。

それが水無月嵐子さん。


数か月前までは分からなかったけど、交流を深めていくうちに嵐子さんの中にあるツンデレに気づき始めたんだけど、未だに配信では発揮してくれないんだよねー。


ツンデレ属性があればもっと人気が出そうなのに……。


「私のことはいいから! さっさと流しそうめんするわよ。食べたくないんなら私が食べるけど……」

「それはダメ!」


嵐子さんの言葉にいち早く反応した太陽はお椀の中につゆを入れてすぐに定位置に着いた。


僕と来夢もお椀につゆを入れてから定位置に着く。


「それじゃあ流すぞー」

「はーい」


全員が一に着いたのを確認した嵐子さんは、タイミングを計りながらそうめんを均一に入れてくれる。


一度に10玉流した後はすぐに移動して一番低い位置の方に。


そうめんは流れ、それぞれが人ったまとったら食し、再びそうめんを取ろうとする中、嵐子さんのところだけにそうめんが流れてこなかった。


理由は簡単。全部僕のところで無くなってしまうからだ。


と言っても、僕も2玉くらいしかとっていない。

僕の前にいる来夢も3玉ほど。


つまり、2番目の位置に来るまでに、たくさんそうめんを食べられてしまっている。


「じゃ、じゃあ2回目行くぞー!」

「いいよ~!」


見た限り2回目は15玉ほど一気に流していた。

それも速い速度で。


結果、今度は僕がいる場所まで3玉ほど流れてきて、僕は2玉、嵐子さんが1玉とることができた。


来夢に関しては5玉。

そして太陽のところで7玉。


流石に早すぎる。


「おねーちゃーん! 次いいよー!」

「はいはい」


嵐子さんはそのまま3度目のそうめん流し。

しかも今度は早いリズムで一気20玉ほど。


当然、来るのが早いと太陽でも取ることができず、僕たちの元にもたくさん来るんだけど・……、一気にそうめんがきて僕の前を通ったのが7玉、そのうち3玉とれ嵐子さんは2玉とることができた。


そしてその後ろに行った残り2玉はなぜか僕たちの後ろに来ていた太陽が取った。


「嵐子さん、次は僕が流しますね」

「うん。お願い……」


そうめんの入ったざるを受け取り、流し口まで登る。

僕が流そうと思ったのは嵐子さんにも楽しんでほしいことのほかにもう一つ。

むしろこっちの方がメイン。


「来夢、太陽、こっち向いてー!」

「写真ですか?」

「うん。自由研究の資料にね。だから来夢、こっち向いてくれない?」

「はいはい、でも流しそうめんを自由研究にするのにそうめんを食べてないんじゃもったいなくない?」

「はいはい」


要は早くそうめんを流せ、話はそれからだってことだよね。


来夢の要望通りそうめんを流してから写真を撮影する。


流れてくるそうめんに夢中になっている写真、美味しそうにそうめんを食べる写真、流しそうめんを後ろにポーズをとる写真。


2人とも楽しそうで何より!

それでこそ作ったかいがあるというものだよ。


約1時間流しそうめんを楽しんだ後は、流して取られなかったそうめんをみんなで分け、お残しがないようにしっかりと実食した。


と言っても、僕と来夢、嵐子さんは流した分だけで満足だったので残りは太陽が食べたけど……。


流しそうめんが終わった後はみんなでお片付け。

もちろんそのシーンも写真に抑えて、もしもの時のために使ってもらうつもり。


こうしてみると、たったの数時間で建てたものでも、なくなっていくと悲しく感じてしまう。


「しっかりテープはがして、ごみ袋に入れてね。僕は食器洗いしとくから」

「はーい」


壊すのは作るよりも簡単で、三人とも雑にテープをはがしながらゴミ箱に分別していく。


「うし。片付け終わりー! それじゃあ私配信あるからそろそろ帰るわ」

「あ、じゃあ私もー。お兄さん、今日はありがとうございました」

「どういたしまして。またいつでもきていいからね~」

「はい! それじゃあ来夢ちゃん、またね」

「またね~」


2人が帰ったのを確認してリビングで模造紙を広げる。


いくら自由研究の資料を集めたからと言っても、その集めた資料を書き写さないと意味がない。


「来夢。題は決めた?」

「うん。お兄ちゃんが作ってくれた流しそうめんの中で一番印象に残ったのがペットボトルの透明さだから『流しそうめん クリア』にする」

「なんか技名っぽい」

「一応仮だからね。ここは鉛筆で書くけど、どういう風に描くかは頭の中に浮かんでるからあとは私一人で大丈夫。お兄ちゃんも今日配信あるんだから自分のことしてて」

「来夢がそういうなら。できたら僕にも見せてね! どういう風になったか気になるから!」

「はーい」


今日の配信は雑談配信。


台本や必要な資料を作り、トリッターにも告知して準備は完了。


思った以上に集中していたみたいで、時間は既に6時を超えていた。

お昼が遅かったからかあまりお腹は空いていないけど、晩御飯作りますか。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る