第118話 自由研究
「お兄ちゃん、行ってくるね。終わるのお昼過ぎになるからお昼ごはんよろしく」
来夢は昨日夏休みに入ったけど、今日は登校日で学校に行くことになっている。
せっかくの夏休みだというのに受験生はなかなかに大変そう。
去年の僕もそうだったんだけどね。
「お昼なんだけど、何作るか決まってるけど何がいい?」
「決まってるなら聞く必要なくない? ……できれば簡単に食べられるものをお願い」
「はいはーい。それじゃあ行ってらっしゃい」
「行ってきます」
簡単に作れそうなものと言ったらそうめんくらいしかないよね。
でもそうだな~。
そうめん作るんだったら普通のそうめんにしても何も面白くないし、確か来夢の宿題に自由研究ってあったよね。
今回も手伝うことになってるし、せっかくだから作ってみようかな。
簡易版流しそうめん。
「おーいヤマト! 遊びに来たぞー」
夏だというのにわざわざうちに来るなんて、そんなに暇なのかな。
でも今はちょうどよかった。
今から作ろうとしてもかなり時間がかかっちゃうから、せっかくだしこの人の手も借りよう。
「おはようございます、嵐子さん。来て早々なんですけど手伝ってもらえませんか?」
「本当に来て早々に言ってくるな。別にいいけど。で、何を作るんだ?」
「流しそうめんです」
「ほ~……今から? 材料あるのか?」
「そこらへんは大丈夫ですよ。今回作るのは簡易版の流しそうめんですので」
「まぁ、そういうことなら……。それで、私は何をすればいい?」
「嵐子さんの家にある洗い終えたペットボトル持ってきてもらってもいいですか?」
「なんでペットボトルなんだよ……」
「あれ、言いませんでしたか? 簡易版流しそうめんですよ」
「それは聞いたよ。で、なんでペットボトルなんだよ! 普通竹とかだろ!?」
何で竹じゃなくてペットボトルかなんて、愚問過ぎません?
そんなの1つに決まってるじゃないですか。
「何で1回の流しそうめんのためだけにたけ買わないといけないんですか」
「いや、流しそうめんってそういうもんだろ……」
「嵐子さん、それは甘いです。いいですか、流しそうめんは竹じゃないといけない、なんて決まりはないんです。現に最近では家の中で簡単にできる流しそうめんなどもあるじゃないですか」
「た、確かにそうだな」
「そもそも、流しそうめんで竹を使うのは風流があるからなんです。だから高千穂峡にある流しそうめんのお店は人気があるんです!」
「た、高千穂峡の流しそうめんの店は知らないけど、そうだったんだな」
……無知ってものすごく怖い。
僕が言ったことで高千穂峡に流しそうめんの店があること以外は全部嘘。
あまり素の状態で嘘ついたことなかったから、今回は『舌の回るほら吹き少年』の役を演じながら言ってみたけど、改めて考えてみると少し心が痛い。
実際僕がペットボトルで流しそうめんをするのは、ただ単にお金がかからないというのと竹を買いに出かけるのが面倒くさいから。
買いに行けばすでに切られているものが売ってるかもしれないから楽なのかもしれないけど、こんな暑い中買いに出かけるなんて、地獄以外の何物でもない。
だけど、ペットボトルだったら少し探せば我が家にあるし、わざわざ買いに行く必要もない。
それに、透明の筒に流れるそうめんって言うのもなかなかに面白いと思う。
気になるのは水漏れの心配だけだけど、そこに関しても水漏れしにくいテープを使ってペットボトルをくっつければ問題なし!
「それじゃあ私ペットボトル持ってくるから!」
「その間に僕は設計図を作っときますね」
嵐子さんが出ていってすぐに自室にこもって設計図作りに取り掛かる。
今回は簡易版ではあるけど。水を持ってくるためにできることなら室内から流れるのがスタートしないといけない。
作りとしては一直線になるけど、流しそうめんには高さの問題もある。
言ってしまえば嵐子さんと太陽には身長差がありすぎて簡単な一直線だとものすごく長くなってしまう。
たとえ二人の身長差が小さくなるようにしようとしても、嵐子さんは何かに乗せながら流しそうめんすると倒れてしまう危険性があるし、逆に太陽に座ってもらいながら流しそうめんをすれば、簡易版がゆえに機体が壊れてしまうかもしれない。
高度を変えれば二人の身長に関係なく取れるのかもしれないけどそうめんの速さが早くなってしまう。
大体流しそうめんに適した高度って何度なんだろう。
今までアニメとかで見ているだけだったから、あまりわからない!
「保仁ー! 家にあるペットボトル全部持ってきたぞー!」
「今行きまーすっ」
いったん設計図作りは諦めて、嵐子さんがいくつペットボトルを持ってきたのかを見に行く。
最低でも10個ほど欲しいところだけどそこまでは望まない。
だから2Lの大きいペットボトルでありますように!
「庭に置いてるから来てくれ!」
「はーい」
嵐子さんに言われた通り庭の方に行くと、そこにはペットボトルの入った袋が3袋ほど置かれていた。
しかも、どれも2Lサイズ。
「お、多いですね。どうしたんですかこれ……」
「太陽、1日にジュースをたくさん飲むからな。しばらくしない間にこんなにたまってた」
「1日にって、じゃあこれ1ヶ月分ですか……」
「いや、2週間分」
「ふぁっ!?」
これだけの量を2週間で飲み切るの!?
少なく見積もっても5、60個はあるよ。
1ヶ月だったとしても1日に2本計算なのに、2週間だと……1日に4本!?
「因みにほとんどがスポドリ各種だからな。炭酸飲料系のペットボトルは私のだ」
「いや、それでも飲み過ぎですよ」
まさかこんなに持ってきてくれるなんて……。
せっかく持ってきてくれただけに全部使いたいけど、流石にこの量は……いや、少し考えてみよう。
これだけあればかなり長い流しそうめんが作れるかもしれない。
一直線には無理だけど、カーブを作ればそこそこ長い流しそうめんができると思う。
それに踏まえて、流しそうめんで起きてしまう『流している人はそうめんを食べられない』と言う悲しい事件もスタート位置とゴールの位置を近くにしてしまえば、流した後にすぐ場所に戻るという風にすれば食べられるかもしれない。
それも長ければ長いほど食べに行くのに余裕がモテる。
うん。
この方向で行こう!
「それで、私は次に何をすればいいんだ?」
「ペットボトルを切ってくれませんか? 口と底の部分は切り抜いて半分に切ってください」
「オッケー。手作業は任せとけ!」
「お願いします」
となると僕が次にしないといけないことは流しそうめんの高さ設定と、どういう風に組み立てるか。
流しそうめんの組み立て方は、少し不安は残るけどペットボトルをを使えば本体をしっかり支えられると思う。
……やっぱり、端から端に作るのがいいよね。
っと、これ自由研究の題材だった。
せっかく1から手間かけて作ってるのにそのシーンを写真に抑えずに作ったら、文字だけの自由研究になっちゃう!
急いでスマホを取りに行き、簡単に設計図を書いてからそれを写真に収める。
そのあとは庭に行き、僕の家の庭と流しそうめんを支えるペットボトルを写真に収める。
そして、制作しているときの感想や気づいたこと、他とは違うところもメモして……、よしっ!
「設計図のイメージは頭に完成したから、後は一番後ろの方にある水を受け止める場所には子供用のプールを使うとして、先にペットボトルの方を仕上げないとね!」
リビングで作業している嵐子さんの方に行くと、たった数分目を話しただけなのに、すでに半分以上のペットボトルを切り終えていた。
「嵐子さん、早いですね」
「ああ、昔からお姉ちゃんの手伝いでいろいろ作ってたからな。鋏の扱いは一流だぞ」
その言葉通り嵐子さんは神業の如く次々にペットボトルを切っていった。
僕も負けないようにペットボトルを防水テープで貼り付け外に持って行き、組み立てをスタートさせる。
当然、写真撮影を忘れないように。
作業を開始してから1、2時間。
僕たちの流しそうめんは完成した。
流しそうめんが完成した後はすぐにそうめん作り。
時間は既に12時を回っていて、あと1時間もすれば来夢も太陽も帰ってくる。
来夢はともかく太陽はよく食べるから一人前じゃ絶対に足りない!
そもそも、流しそうめんで流されるそうめんは一口サイズのそうめん。
いつも以上に橋が進むのは間違いない。
だから今日はいつも以上にそうめんを作らないと!
嵐子さんには麺の追加分とつゆを買いに行ってもらっている。
家にある分でも十分かもしれないけどたくさんあることに越したことないから。
一応室内はエアコンをつけているけど、流石に真夏だと火を扱っていると汗がなかなか止まってくれない。
「おーい、麺買ってきたぞー!」
「ありがとうございます! できればもってきてもらってもいいですかー!」
「はーい!」
思ったよりも帰ってくるのが早かったなー。
もう少し時間がかかるものかと思って、ゆっくり麺をほぐしていたんだけど、これならもう少し早くほぐしてもよかったかも。
「それにしてもあちぃな!」
「夏ですからね。暑い中わざわざありがとうございます」
「気にすんな。あ、つゆなんだけど、どれ買えばいいかわからなかったからたくさんの種類買ってきたわ」
「あー、高千穂峡のつゆですね。これならどれでも大丈夫ですよ」
「そうか。ならよかったー!」
麺に対してはそこまでこだわりはないけど、つゆに関しては僕も来夢もうるさいからなー。
少なくとも、高千穂峡のつゆじゃないと来夢はキレる。
「それじゃあ私、ホース繋げてくるわ。そのあとは麺を流す練習しとくから何か用事があったら呼んでくれ」
「分かりました」
麺を流す練習。
今回の流しそうめんで身長の関係上嵐子さんがそうめんを流すことになった。
流しそうめんはその性質上、一人がそうめんを流さないといけない。
家族でする場合保護者が流すのが基本だけど、今回の流しそうめんは設計上流した人も食べられるように設定されている。
それでも、流す人はいくつかの麺を流した後に急いで移動しないといけない。
こればかりは嵐子さんに頑張ってもらうしかない。
しばらくすると、脚立を駆ける音と庭の地面を踏む微かな音がキッチンまで聞こえてきた。
「嵐子さんも頑張ってるし、僕もたくさんそうめん作らないとね!」
それから一時間たったころに、来夢と太陽は帰ってきた。
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