夏だ! ……東京だ!
第117話 話し合い
「それじゃあお兄ちゃん。話し合いを始めようか」
「うん。今回はしっかり計画を練らないとね」
案件配信から数日が立ち、来夢の中学校は夏休みまで一週間を切っていた。
今回の話し合いは夏休み、何月何日に東京に行くか、についてである。
本来、僕は東京に行かずにエアコンの効いた部屋で、堕落したいつもの日常を送りながら配信がしたいんだけど、今回ばかりは東京に行かないといけない理由がいくつもできてしまっている。
まず1つ目に、前回東京に行ったときに決まったCMの撮影。
すでに契約書にサインしているため、絶対に行かないといけない。
2つ目にゲームの音声収録。
現在大好評の『Vtuber育成学園』。現在夏の水着イベント開催中なんだけど、その次にあるお月見イベントに僕が出ることが決定した。
更に、それと同時にクリスマスイベントの収録もしておきたいとのこと。
3つ目にコミケとは違う大規模なイベントに出ることになった。
僕も詳しい詳細は聞かされていないんだけど、主催は『1234』サークルのイベントらしい。
『1234』とは
案件配信が終わった翌日にギャイ先生から連絡が来て、主催側としてぜひ来てほしいと頼まれてしまった。
最初は人が多そうというのもあって断ろうかと思っていたけど、コミケほどの規模はなく、僕自身が人ごみに紛れることは絶対に無い《・・・・・》、と断言されてたので参加することになった。
詳しいことは後日話すって言われてまだ何も知らないんだけど、あそこまで言われたら信じるしかないよねー。
4つ目に凛音さんと歌の収録とデートの約束があるため絶対に東京に行かないといけない。
行ってしまえば、この約束があるからこそ東京行きが今回はそこまで嫌じゃない。
もしこの約束がなければ、僕は渋々東京に言っていたに間違いない。
それほどに、凛音さんとデートは僕にとって楽しみなものになっていた。
そして5つ目。
こればかりは流石に予想もつかなかった。
数日前に僕のもとにある出演のオファーが届き、驚きと嬉しさのあまりに10分もたたずに了承してしまった。
今現在家族会議が行われているのもこのオファーがあったからこそ。
これがなければ家族会議なんて行われることはなかったかもしれない。
そのオファーと言うのが『ごろろっく クイズ大会』への参加の依頼。
ある日たまたまトリッターを見ていたらダイレクトメールが届き、そこに『リトルボーイズ』の一員として『ごろろっく クイズ大会』への参加オファーが届いた。
そのことを来夢に話すと、今日緊急会議を開くことになった。
まぁ、どうして会議をする理由があるかは僕自身に自覚があるから文句は言えないんだけど。
「前回東京に行ったときは全部いきなりのドタバタでなんとか言ったけど、今回は企業さんからの依頼もあるわけだし、行き当たりばったりな行動じゃダメだよ、お兄ちゃん」
「分かってはいるんだけどね、まだ特に決まった予定とかないんだよ」
「なら、今決まっている予定だけはメモしといたほうがいいんじゃない? 何が決まってるの?」
「えーっと、確かギャイ先生たちのイベントがコミケの1週間後で、『ごろろっく クイズ大会』が7月31日に昼から夜にかけて生のLIVE配信。CMと収録は空いてる日ができたら連絡してくれだって」
「なるほどね。それじゃあひとまずイベントと『クイズ大会』の日を塗りつぶして、CMと収録は軽くメモ、で、他に予定は?」
「あー凛音さんとデートすることになったんだけど、日付はまだ決まってないよ」
「なるほど、デート……は? 何それ」
あれ?
来夢に言ってなかったっけ?
……言ってないかも。
通話した日から数日たっているからすでに来夢には言ったものかと思ってたけど、よくよく考えてみると言ってないね。
「夏休みの期間、凛音さんと歌ってみた撮ることになって、そのついでにデートすることになった感じかな。伝えてなくてごめんね」
「……二人きり?」
「うん。一応デートだからね」
「……ずるい」
「ん? 何か言った?」
「何でもない!!」
「え、うん……」
なんで来夢が怒っているのかわからなかったけど、一先ずデートをメモすることはできた。
でもこうしてみると長期間東京に滞在することになるんだよね。
配信機器は向こうにそろっているから全然問題ないけど、僕自身が耐えられるか心配かな。
「それで、東京には何日から行くの?」
「来夢の予定でかな。正確な夏休みっていつからなんだっけ?」
「明日終業式があった後に、その次の日に3年生は登校日」
「ということは明々後日って事?」
「で、今回は早めに宿題終わらせたいからその日も無理」
「そうなると早くても4日後だね」
「うん」
「因みに夏休みの宿題ってあとどれくらい残ってるの?」
「5教科は全部終わったから、あとは自由研究と読書感想文、美術に習字」
思ったよりも多い。
でも5科目が終わってるならそこまで時間もかからなさそう。
今回も義姉さんは先に東京入りしているため、東京に行く日を僕たちで決められるのはなかなか好都合。
今回は配信でも東京に行くことを言ってないし、前回のようにはならないはず!
「それじゃあ飛行機は4日後の便を取ろうか」
「帰宅はいつにするの?」
「そこは義姉さんと相談してからかな。ゴールデンウィークの時と同じように一緒に帰ると思うし」
「それもそっか」
それにしても夏休みかー。
去年は僕も夏休みを送ってたけど、中学卒業してからほとんどが夏休みみたいなものなんだよね。
最後に送った夏休みは今と同じように家でゴロゴロしたり勉強したり、オープンキャンパスに行ったりしたっけ。
……ん?
「来夢ちゃん?」
「どうしたのお兄ちゃん、どこか行きたいところでもあった?」
「ううん、そうじゃないよ。確か中三になったらオープンキャンパスに行く日があったと思うんだけど、それはどうしたの?」
「……ふっ」
来夢がものすごい悪い笑みを浮かべてる!
これ、絶対にオープンキャンパスがある期間東京にいるよね!
「去年僕が学校指定のオープンキャンパスをさぼろうとしてた時、絶対に行けって言ってなかったっけ? なんで来夢は行かないの?」
「お兄ちゃん。私は『進路が決まってないなら行った方がいいよ』って言ったんだよ。進路が決まってたら時間の無駄だから言わなかったけど、去年のこの時期決まってなかったよね?」
「うっ」
確かにこの時期に僕は高校に行くとは言っていたけど、何処の高校に行くかは決まってなかった。
だからオープンキャンパスにも行ったんだけど……。
「じゃあ来夢はどこに行くか決めてるの?」
「うん、お兄ちゃんが落ちた高校を受験する」
「……」
「何?」
「いや、来夢だったら音楽関連の高校の方に行くのかと思ったからつい……」
「私も一度はその進路を考えたんだけどね、よく考えると今の現状でも別にいいかな~、って思って普通のところに行くことにした」
「そうなんだ」
まぁ、進路を決めるのは来夢自身で僕がどうこう言えることじゃない。
後悔がないんだったら自分のやりたいことをやればいいしね。
「そういうお兄ちゃんは今年どうするの?」
「ん? なにが?」
「受験。一回落ちて浪人しちゃったけど一応受験する資格はあるよね」
「もう一回……」
「うん、もう一回」
そう言われて少し驚いた。
そんなこと、全く頭の中に入ってなかったから。
でも、だからこそ僕はすぐに答えを出せたんだと思う。
「それはないよ。落ちて次に向けて勉強したならともかく、僕は何も勉強してないからね。それに、今のVtuberとしての生活にも満足してるし今更学校に行くのもねぇ」
「……だよね。私もお兄ちゃんが同級生になるのって変な感じするや。この話は忘れてね」
「うん。それじゃあ今後の予定についてもう一回話し合おうか」
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